「うみねこのなく頃に」
PC用同人ソフト/07th Expansion

[同人PCソフト]うみねこのなく頃に [第1話〜第4話] [同人PCソフト]うみねこのなく頃に散 Twilight of the golden witch[第5話〜第8話]<特典:ポストカード付き> [同人PCソフト]うみねこのなく頃に翼 これまでの贈り物、全部。詰め合わせ [同人PCソフト]黄金夢想曲 うみねこのなく頃に ~魔女と推理の輪舞曲~ 特典 Amazon.co.jpオリジナル「魔女からのレターセット」、真実のペン(赤・青)2本セット付き うみねこのなく頃に散 真実と幻想の夜想曲(通常版)



■目次

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2010/11/29
▼【EP7】ウィラード・H・ライトと右代宮理御
■EP7の意義T――ウィラード・H・ライト
 今回初登場した「魔術師狩りのライト」ことウィラード・H・ライト。それ自体は事前考察の通りだったが、彼が無慈悲な刃で恋愛要素を否定する男ではなく、むしろ全くの逆だったことには驚かされた。S・S・ヴァン・ダインが記した実在の「探偵小説作法二十則」の内、ウィルが用いたのはわずか二つ。

「使用人が犯人であることを禁ずッ!!(中略)……ヴァンダイン二十則、第11則。」
「第1則、手掛り全ての揃わぬ事件を禁ず」

 これだけである。作中の「ヴァンダイン二十則」にも恋愛描写を禁じる則はあるはずだが、ウィルはそれを使わなかった。それどころか人の心を大切にしろと繰り返し説いてさえいる。

「アリバイがないヤツを1人みつけたらそいつが犯人なのか。犯行には動機が、心がいらねェってのか。犯行はな、人が犯すんだよ。心がねェ事件なんて存在しねェ。心を無視した推理なんざ、俺は絶対に認めねェ。」
「動機を捨てるな。心を捨てるな。動機なんて後付でどうでもいいなんて、そんな乾ききったミステリーごっこは卒業しちまいな。」
「させねェよ。本当の犯人は他にいる。動機から推理可能だ。アリバイトリックなんざ古典通り。心を、忘れるんじゃねェ。」

 この主張は異端審問官としては異常なものだ。かつてヱリカとドラノールたちが採った手法は、アリバイのない夏妃を徹底的に追い詰めて有罪判決を下すというものだった。裁判概要書に記された犯行の動機はただの後付けであり、夏妃の本当の人間性とはかけ離れた仮説が「真実」として構築されていた。それが異端審問官本来のやり方なのだろう。
 だがウィルは違った。彼は「心を蔑ろにするんじゃねェ」と繰り返し、容疑者の本当の姿を理解することに注力していたのだ。彼の人物TIPSにはこうある。

「若き日には異端審問官のエースとして冷酷無慈悲な仕事ぶりで恐れられた。しかし、いつの頃からか、その仕事ぶりに変化が起こり、かつての目覚ましい活躍は見られなくなってしまった。(中略)辞表を提出し、すでに受理されている。彼がライトを名乗るのは、もう幾日もない」

 SSVDは「厳格かつ原理主義的なことで知られる」執行機関だ。元々はドラノールたちのように、いや、それ以上の厳格さで容疑者たちを「断罪」していたはずのウィルが、仕事のやり方を変えたのみならず辞表を提出するに至ったのはなぜなのか?
 EP7の内容を振り返ろう。「????」(裏お茶会)のクライマックスでウィルに関する重要な描写を確認できる。ベルンカステルとの戦いを引き受けた彼は、やがて力尽きる寸前だった理御の許に姿を現した。

「………ウィル、……あなたの、左腕……!」
「あぁ、……忘れてきちまった。取りに帰るのも億劫だ。」
 ウィルの全身はズタズタに引き裂かれていた。
 そして、左肘から先は無残に引き千切られ、服もぼろぼろで、……まるで血塗れのかかしのようだった…。

 注目すべきなのは、彼が失ったのが「左腕」であることだ。
 これに対応する描写はEP6にいくつも登場していた。客室に閉じこめられた戦人が、魔女らしき気配に左手の薬指を食いちぎられたこと。ヱリカに結婚指輪をはめられて苦痛の声を上げたこと。結婚式が永遠の束縛を意味する呪いとして描かれていたこと――。
 私は当時、これらの描写について「物語の根底にいる紗音が彼に特別な感情を抱いているからこそ行われる」と述べた(EP6当時の雑誌連載「魔女狩りの宴 第27夜」参照)。
 左腕を失ったウィルも全く同じである。即ち、EP7のクライマックスはEP6のリフレインになっているのだ。
 ウィルは戦人に強く重ねられた人物と言える。
 冷酷な刃で数々の事件を解決してきたという主席異端審問官「魔術師狩りのライト」が、SSVDを辞める理由――その答えは戦人の変心にある。黄金の真実に辿り着いた戦人は、すべての物語が紗音の心から生み出されていたことに気づき、深い後悔の念に苛まれたのだろう。「心と動機をないがしろにするな」と繰り返したウィルの姿は、彼女の心に気づくことなく六軒島から遠ざかっていた六年間の罪と、幾度も無為にベアトリーチェとのゲームを繰り返したことを悔いた戦人そのものと言えるのだ。
 ――戦人がEP7本編に登場しなかったのは必然である。

■EP7の意義U――右代宮理御
 ここで、ウィルに関連が深い右代宮理御にも言及しておこう。EP7より引用する。

 ウィルは、はっきりと断言する。
 右代宮理御は、……異なる世界での、黄金の魔女ベアトリーチェの姿なのだ。
 夏妃が育児を拒否する19年前の赤ん坊。
 それが、夏妃に受け入れられれば、このような未来があったのだ…。
 しかし、受け入れられなければ、……魔女が、生まれる。

 理御はEP7の世界におけるベアトリーチェである。その窮地をウィルが救い、二人抱き合いながら逃走するという結末は、本質的にEP6で戦人とベアトリーチェが挙げた結婚式に等しい。ここでも主題のリフレインが行われているのだ。
 戦人とベアトリーチェはEP6で次のような言葉を交わしていた。

「領主は、すでにあなたです。……ですからこの指輪は、戦人さんのものです。」
「……本当にいいのか。……これは、お前が生み出した世界、……そして物語。」
「はい。………あなたと一緒になりたくて、生み出した物語。……だから、もうこの世界の目的は果たされました。……だからこれからは、……あなたが紡いで下さい。……私とあなたの、これからの物語を。」

 果たして戦人は何を思い、何を目指して物語を紡ごうとしているのか?
 もう一度EP7の「????」に目を向けよう。ベルンカステルに追い詰められたウィルは、抱き抱えた理御に断言している。

「置いては行かねぇぜ。……お前に教えてやる。どうして俺が、SSVDを辞めるのかをな。」
「クソッタレな、お涙頂戴のミステリーばっかりに飽きたからだよ。………ハッピーエンド上等、逃げ延びてやるぜ。」
「俺が教えてやるんだよ。バッドエンドしかないと絶望して死んだベアトリーチェに、ハッピーエンドもありえるんだって教えてやるんだ。だから絶対にお前を、下ろさねェ。」

 絶望的な状況でなおも運命に抗おうとするウィルを通して、戦人の心が表現されているのだ。EP7が誰の筆によるものかは明らかにされていないが、すべての前提に「真相を知った戦人の心」があることは間違いない。ここでSSVDが引き合いに出されていたのは当然と言えるだろう。
 彼は幸福な結末を求めている。そしてそれはまだ果たされていない。最後まで奇跡を求め続けたウィルと理御は、ついにベルンカステルの猫に囲まれ、チェス盤から取り除かれてしまった。
 戦人はエピローグにおいて、涙に暮れる幼い縁寿の前ではっきりとこう考えている。

 これが。
 縁寿に捧げる、最後のゲーム。
 お聞き、縁寿。
 あの日、六軒島で、何があったのか。
 これは、辛い話でも、悲しい話でもないんだよ………。

 EP8で描かれるのは、戦人が語る最後のゲーム。
 誰もが幸せになれる黄金郷を、彼がその手で描こうというのか。
「このゲームに、ハッピーエンドは与えない。」
 ベルンカステルの赤字と戦人が示す六軒島の真実が、今、並び立とうとしている。

2010/12/24
▼残り一週間

 というわけで、先日『真相解明読本EP7』が発売されました。
 対談で語ったEP7考察はあれを初出にするのが筋だと思ったので、サイトには書いていませんでした。もうEP8直前ですが、考察を再開したいと思います。
 まだ一週間あるから書くよ(`・ω・)!

■【EP7】戦人とウィルと金蔵の過去
 前回、食いちぎられた戦人の指、呪いの結婚指輪、ウィルの失われた左腕などが、すべて「左手の薬指=恋愛と結婚にまつわる描写」であると述べた。
 EP7にはこれと同じ意味を持つシーンが他にもある。若き日の金蔵が、六軒島で黄金を巡る戦闘に巻き込まれたシーンだ。彼が逃げまどうシーンを引用する。

 イタリア人はとどめを刺すために撃ったのではない。重なり合って倒れている、この、右代宮金蔵を狙って撃ったのだ。
「ぅ、……ぅ、……わぁ………!!!」
 彼の死体を跳ね除け、私は床を掻きながら、転げるように走り出す。
 床を掻いた時、それだけのことで左手の薬指の爪が剥げた。
 どれだけ、人は死に対し、全身全霊で抗うというのか。

 はっきりと「左手の薬指の爪」と書かれている。
 金蔵もまた結婚と恋愛に罪を抱えた人物と解釈すべきだろうか。
 EP7のクライマックスにおいて、彼は黄金とビーチェを略取し、後に自分の娘まで毒牙にかけた可能性を提示された人物だ。しかし過去に何が起きたかを自分の目で確認していない人物にとって、それは確定した出来事ではない。複数の真実が同時に成立しうる状態なのだ。
 つまり、中盤で描かれた過去の六軒島は「金蔵を冷酷な悪漢ではなく、善人として描写したシークエンス」と言うことになる。解釈によって異なる真実が成立するということは、これまでに何度も提示されてきたメッセージだ。

■【EP5・EP7】真実のありよう
 ヱリカたちの手で夏妃が犯人扱いされたEP5。
 裁判概要書にはこのように記されている。

「望まぬ結婚を強いられた夏妃は、右代宮家に対し恨みを抱き、復讐心を膨らませていきました。」
「夏妃は、右代宮家がかつて、実家を経済的に屈服させたことへも復讐するため、右代宮家の財産の乗っ取りを画策しました。」

 概要書には、夏妃の強い殺意と冷酷な犯行があたかも真実であるかのように淡々と記述されている。
 だが、夏妃という人物をよく知る私たちは、これが誤りであることを知っている。夏妃は高潔な人物であり、右代宮家や金蔵に忠義を尽くしていた。復讐心からその手を血に染めるような人物ではないのだ。彼女がEP5の犯人でないことはワルギリアの赤字でも保証されている。
 忘れてはならないのは、ヱリカとドラノールの論が「状況と矛盾しない仮説の一つ」に過ぎず、夏妃の犯行を確定させたものではないという点だ。悪意を持って夏妃を眺めれば、裁判概要書に記されたことが真実として通ってしまう。――それを覆す仮説を提示しない限りは。
 これは『うみねこ』という物語のありようを端的に示すエピソードだ。『最終考察』やEP6終盤の考察でも繰り返し述べた通り、真実は「見る者の主観」によっていくらでも歪む。人の数だけ真実が生まれうるのだ。
 ヱリカとドラノールが夏妃を犯人とした論を構築したように、戦人はそれを否定する証拠を示した。EP6ではヱリカと戦人たちが矛盾する人数について赤字を交わした。
 では嵐で閉ざされた六軒島はどうか――。
 EP1から提示され続けていた問題が、EP7では明確な姿を取って描写された。これをどう解釈するか? 『うみねこ』の世界をどういう視点で眺めるべきかが、今こそ試されているのではないだろうか。

■【EP3・EP7】あの日、六軒島で何が起きていたのか?――赤字とベルンカステル
 真実であることを暗示するかのように「赤い背景」と共に描写された過去の金蔵の行いは、提示された可能性の一つだ。
 同様に、EP7の六軒島で殺人鬼と化した霧江も一つの可能性ということになる。

「何? 赤き真実ではっきり宣言してあげた方がいいの? なら言ってあげるわ、赤き真実で。“これは全て真実
「嫌ぁあああああああああぁああああああぁああああああああああああああああぁああぁあああぁぁッ!!!」

 ベルンカステルが言いかけた赤き真実は、縁寿の悲鳴でかき消された。
 霧江が殺人鬼であることを否定する解釈は二通りある。
 一つは、ベルンカステルの語尾が断定で終わっていないため、まだ確定したことではないというパターン。
 もう一つは、赤字の真実をその世界でしか通用しない真実と見なすパターンだ。
 後者は赤字に関する考察で繰り返し述べてきた。即ち赤字は一種の「ルール」であり、それが適用される世界(物語・ゲーム盤・ある個人の心の中)においてのみ真実になる――という解釈である。EP6のラストシーン、ヱリカの断末魔では矛盾する赤字が並び立ち、ぶつかり合った。私はこれを異なる世界の人数の違いと解釈し、二つの世界それぞれの真実が成立していたと述べた。(戦人とベアトリーチェにとっての真実と、ヱリカにとっての真実)
 魔女ベルンカステルの赤字も、現実世界における絶対の真実ではないはずだ。あれは彼女がルールとしての赤字でそう主張しただけであり、他の世界に適用することはできない。ラムダデルタと共に、さも絶対者であるかのように振る舞い続けていたベルンカステル。だが彼女の存在は決して確かなものではなく、ベアトリーチェ同様に儚いものである。
 EP3の「????」(裏お茶会)を振り返ってみたい。ベルンカステルはビルの屋上で飛び降り自殺しようとしていた縁寿の前に姿を現し、戦人を連れ戻せる可能性を提示した。だが、「現実世界の縁寿」は本当にそんな魔女に対面したのだろうか。
 そんなはずはない。煉獄の七姉妹やさくたろうがそうだったように、魔女は姿を持った存在ではなく、あくまでも観念上の存在である。現実世界に対して直接力を及ぼすことができないベルンカステルが、果たして「現実の六軒島で起きたこと」をどれほどの確かさで宣言できるというのだろうか。
 ベルンカステルは無力である。縁寿に向かって発した「これは全て真実」という赤字は、EP7で描かれた世界における真実に過ぎない。現実世界の六軒島で起きたことは、エピローグで戦人が述べたように「辛い話でも、悲しい話でもない」のだと、私は信じている。

2010/12/25
■【EP7】ゲームマスター・ベルンカステルの赤字が意味するもの

「言ってやりなさいよ。甘い夢みてる魔女どもに。」
「えぇ、そうするわ。……奇跡の魔女として、そして、最後のゲームマスターとして、最後のゲームを宣言するわ。そして約束する。」
このゲームに、ハッピーエンドは与えない。

 ベルンカステルは赤字でこう述べた。EP6では物語の「はらわた引き裂いて、中身を全て引き摺り出す」と宣言していたように、EP7のゲームマスターは彼女だったとされている。
 そもそも、ゲームマスターとはどういった存在だろうか。
 これまでに登場したゲーム盤がすべて何者かの創作だったように、ベルンカステルも現実世界の誰かに生み出された魔女と考えるのが妥当である。
 前述したように、赤字は「現実世界における真実」と同義ではない。よってゲームマスターとしてのベルンカステルは「該当する架空世界(EP7)の語り手」と考えられる。すべての物語の背景にいる真のゲームマスター・ヤス(=紗音)とは違い、あくまでも物語の中に閉じた存在、作中の登場人物に過ぎないのだ。

 では、ベルンカステルはどんな役割を課された魔女なのか。
 ベアトリーチェを始めとする、これまでにゲーム盤を彩ってきた架空の登場人物たちは、多くが戦人に敵対した過去を持つ。しかし、結果としてそれが戦人の反骨精神を引き出し、彼を真実に近づけていったというのは、これまでの考察で述べてきた通りだ。
 繰り返すが、ベアトリーチェたちがどんなに厳しく残酷な態度を見せていても、それは真実を探る役割を課された戦人にとって必要なものだったのだ。かつてのベアトリーチェのみならず、ワルギリア、ロノウェ、ヱリカやドラノールたちでさえも、真実への階段を照らし出す協力者だったのである。
 ベルンカステルとラムダデルタについても同じことが言えるのではないだろうか。彼女たちは現実世界に影響力を持たない架空の人物だ。しかし真相が明かされつつある今もなお、残酷な攻め手を変えようとしていない。
 これは「まだ解明すべき真実がある」という言外のメッセージではないだろうか?
 ウィルは言っていた。

「俺が教えてやるんだよ。バッドエンドしかないと絶望して死んだベアトリーチェに、ハッピーエンドもありえるんだって教えてやるんだ。だから絶対にお前を、下ろさねェ。」

 彼は運命に抗おうとしていた。そしてベルンカステルはそんな彼をあざ笑うかのように、前述の赤字を宣言したのだ。
 ウィルと理御に運命を変えることはできなかった。なぜなら、二人はゲーム盤の上にいる架空の人物だからである。物語の世界で生きる人物に、その世界の真実である赤字を覆すことはできないかもしれない。
 ――しかし、それが可能な人物がいる。
 現実世界にいる者たちである。
 それは『うみねこ』という作品内における現実世界に生きる者であり、あるいはさらなる高みから『うみねこ』を眺めている我々である。ベルンカステルが酷薄な表情で告げたあの赤字は、ウィルが果たせなかったハッピーエンドへの道を諦めるなという、多くの人の背中を押すメッセージと受け止めることができるのだ。

2010/12/26
■世界構造考察――四つの世界とEP8の結末

 ここで一度、『うみねこ』という作品世界の構造を整理してみたい。

・読者の世界……我々読者の現実世界。『うみねこ』という作品の外にある、最上位の世界。
・現実世界……『うみねこ』における現実世界。まだ登場していない可能性がある。
・メタ世界……戦人とベアトリーチェが論戦を繰り広げた上位世界。大法廷のシーンなどもここ。
・ゲーム盤……EP1から描かれてきた、碑文と黄金を巡る六軒島の連続殺人劇。

 これが私の考察の前提になっている世界構造である。
 下位世界の「ゲーム盤」から「メタ世界」「現実世界」へと上っていき、最後は『うみねこ』という作品を俯瞰している「読者の世界」に至る。私たちが六軒島の惨劇を認めることでそれが真実になるというアンチミステリ的な構造が存在することは、以前の考察で言及した通りだ。
 さて、「まだ登場していない可能性がある」と書いた現実世界について補足する。
 縁寿はEP3で病床の絵羽と言葉を交わし、ビルの屋上から飛び降りた。そしてEP4では天草やマモンたちを引き連れて六軒島への旅をしている。あれらは恐らく現実世界だと思われるが、別の解釈も考慮しておく必要がある。
 それは縁寿関係のシーンもすべて「現実世界を模して書かれた架空世界だったのではないか」という視点だ。(もちろん、パラレルワールドだったと考えてもいい)

 最たる理由はEP1のエピローグだ。
 そこには六軒島で現場検証を行った警察たちが凄惨な状況と遺体の一部を発見し、十八人全員の存命を絶望視したと明記されている。特に真里亞は顎の一部が発見されて、歯の治療痕から本人のものであると特定されたという。そして事件の数年後に発見されたボトルメールによって、EP1の物語は「六軒島大量殺人事件」として世間に広まることになったというのだ。
 ここに大きな矛盾がある。
 EP3以降のゲーム盤では、絵羽が事件の真相を知る者として生還しているからだ。当時、この合致しない後日談に首をかしげた読者は多いだろう。
 ――果たして、どちらが真実なのか?
『散』に入ってからも繰り返し描かれているのは絵羽生存の可能性だ。しかし、それも絶対の真実とは限らない。六軒島で全員が死亡したEP1と絵羽が生還した他のEPは、相互に否定し合う関係にある。どちらが真実であってもいいし、両方が虚構であると見なしてもいい。この二つの可能性はどちらも等しく肯定、あるいは否定できる状態にあるのだ。

 即ち、これは「誰も死んでいない可能性」が成立するという意味でもある。

 誰が六軒島で起こった惨劇を「真実である」と保証したのだろうか。
 現実世界に赤字は存在しない。「あの爆発事故と一行の死は真実だった」と断言できる絶対の保証は、まだ一度も登場していないのだ。ベルンカステルが言いかけた赤字「これは全て真実」が現実世界に対して無力であることは、以前の考察で述べた通りである。
 これが冒頭の世界構造において、「(現実世界は)まだ登場していない可能性がある」と注記した理由だ。『うみねこ』世界における現実世界は、戦人が言ったように「辛い話でも、悲しい話でもない」と考えられないだろうか? 生還した絵羽が口をつぐんだように、惨劇に蓋をして闇に葬ることはもちろん可能だ。しかし、それだけではない。最上位の世界にいる私たちは「そんな惨劇など起きていなかった」と主張することが可能なのだ。殺人鬼と化した霧江を否定するだけではない。すべての惨劇を、それこそ過去に遡って否定することもできるはずなのだ。
 戦人がやろうとしていることは――ウィルが目指そうとしたハッピーエンドは、この考え方の先にある未来を示すことではないだろうか?
 誰も犠牲にならず全員が六軒島から生還する結末を、私はまだ諦めていない。
 戦人はきっと、家で待つ幼い縁寿の許に帰ってくるはずだ。

2010/12/28
■【EP7】戦人の生い立ち――彼の親は誰なのか?

 EP1で留弗夫が謎めいた台詞を口にして以来、未だに明かされていない戦人の素性。その論点は彼の生まれにあると語られている。
 果たして、彼の母親は誰なのだろうか? 可能性を列挙してみたい。

・夏妃
 EP5に出てきた十九年前の男が論拠となる。何度も「カアサン」と呼びかけていたことから、彼を戦人と解釈する。これは当の戦人がメタ世界で述べた、自分を容疑者にした仮説そのままということになる。彼は不義の子として右代宮家から追放されたことになる。

・霧江
 明日夢と同じ日に子を産むはずだったが、流産してしまったという霧江。仮にそれが嘘で、無事に出産していたならどうか?
 この場合、なぜ明日夢の子として育てられることになったのかという問題が残る。ここに十分な説得力を持たせることが難しいように思う。「留弗夫が明日夢を選び、子供をすぐに右代宮家に迎えようとしたから」という理由では弱いだろう。霧江がそれを受け入れるとも考えにくい。

・明日夢
 ベアトリーチェの赤字によって親子関係が否定されたように見えるが、『最終考察』で述べたように、メタ世界の戦人と現実世界の戦人を分けて考えれば「戦人は明日夢の子」と主張することは可能である(335ページ「【EP4】戦人の罪U――メタ世界と出生の謎」を参照)。分かりやすいように赤字を引用しておく。
「いいぜ、復唱する。右代宮戦人の母は、右代宮明日夢である。
「……おう。俺の名は右代宮戦人だ。」
右代宮戦人は、右代宮明日夢から生まれた。
俺は、右代宮……ふぐ、…………っ?! ……?!?!」
そなたは、右代宮明日夢の息子ではない
 たとえば、「メタ世界の戦人を生み出したのは物語の筆者・ヤスである」と考えれば、これらの赤字は矛盾せず通る。だが、留弗夫が戦人に明かそうとしていた出生の秘密が謎として残ってしまう。明日夢が母親なら何も問題はないはずだ。
 もし仮に、「父親は留弗夫ではなく、金蔵だった」とすれば?
 妾は黄金の魔女、ベアトリーチェ。
 そして右代宮金蔵の孫、右代宮戦人と戦うためにこのゲームを開催した。

 これはEP4のメタ世界でベアトリーチェが宣言した赤字だ。ネックになるのは「右代宮金蔵の孫」だが、ここで再びメタ世界の戦人と現実世界の戦人を分けて考えれば、「ベアトリーチェが対戦相手に指名した“金蔵の孫としての戦人”は、あくまでもメタ世界の戦人のことである」と解釈できる。

・九羽鳥庵のベアトリーチェ
 ここでも父親を金蔵と仮定し、戦人は「金蔵と九羽鳥庵のベアトリーチェとの間にできた子だった」と考える。両親を「留弗夫と九羽鳥庵のベアトリーチェ」と見なすのは不自然だ。
 つまり、戦人は「ヤスのきょうだい」ということになる。戦人は十八歳、ヤスは十九歳だ。つまり年子(母親を同じくする一つ違いの子)ということになるのだが、もしかすると同時に生まれた双子かもしれない。
 本編から伏線と判断できる箇所を示す。

伏線1……六軒島への道中で戦人が上げた悲鳴「落ちるー!」
 崖から落ちたヤスに対応している。しかし、戦人がどう関係しているかを考えると多くの疑問がつきまとう。
 戦人も崖から落ちた経験があるのだろうか? あの赤子はヤスであると語られているし、転落した赤子が二人だったとも思えない。「落ちるー!」という悲鳴は「双子であることを強調するために、ヤスの過去を戦人に投影した描写」と解釈してみたい。つまり、ヤスと同一の存在――表裏一体の、血の繋がった双子であるということを暗示していたのではないか。戦人はヤスの分身、片割れとしての意味合いを持つことになる。
 これは右代宮家の片翼の翼にも対応する。戦人とヤスはそれぞれが片翼であり、二人が揃うことで両翼になるという意味合いだ。戦人がいない六年間は、ヤスにとって片翼を失った状態も同然だったように。
 ――別のパターンにも言及してみたい。仮に、九羽鳥庵のベアトリーチェが二人を懐妊している最中に楼座と出会い、崖から転落したなら、戦人とヤスが揃って転落を経験する。二人はベアトリーチェの遺体から取り出されたということだ。しかし、描写された状況や赤字を考えると、これはかなり難しい解釈となる。

伏線2……曖昧な性別
 ゼパルとフルフル、そして性別が曖昧なままだった理御。彼らの存在は、まるで男の戦人と女のヤスが鏡合わせのように表裏一体の存在であることを思わせる。

伏線3……金蔵によく似た戦人
 戦人はことあるごとに「金蔵に似ている」と強調されていた。これを「留弗夫ではなく、金蔵の実子であるため」と解釈する。
 九羽鳥庵のベアトリーチェは、金蔵にとって戦時中に出会ったベアトリーチェ(ビーチェ)の生まれ変わりだった。彼女から生まれた子にも同じ目を向ける可能性があったため、源次はヤスの身を案じて彼女は死んだと金蔵に嘘をつき、福音の家に預けるという配慮をしている。
 ヤスのきょうだいである戦人も、同じように人知れず福音の家に預けられた可能性はないだろうか。ヤスは金蔵と夏妃に怪しまれないよう、年齢を三歳少なく覚えさせられた。戦人は一年だけ福音の家で過ごした後、留弗夫と明日夢に引き取られたと考えればどうか。十八歳と言われていた戦人は実際には十九歳であり、ヤスの実年齢と等しくなる。
 戦人が留弗夫たちに引き取られた理由は非常に難しい。実は明日夢が流産しており、その代わりに引き取られたのか。あるいは明日夢は妊娠すらしておらず、戦人を引き取るために偽りの結婚生活を送っていたのか……。明日夢の死後、留弗夫がすぐに霧江と籍を入れたのは、戦人が実の子ではなかったことに由来するのかもしれない。仮に留弗夫の心が最初から霧江だけに向いており、明日夢との生活が何らかの理由で強いられたものだったがゆえに、彼女の死後すぐに霧江と再婚する決意を固めたと考えればどうだろうか。
 この仮説に一致する描写がEP7に登場する。
「………け、結婚後、……ようやく授かった子供が私で、……年子で生まれたのが朱志香だと……、聞かされてきました…。」
「もしお前が今日まで、自分が夏妃の子であることに疑問を感じたことがないのなら。……お前はこの世界の母に感謝すべきだ。お前にそれを悟らせずに今日まで、朱志香と平等に愛情を注いだ。」
 理御とウィルの会話である。これを戦人と明日夢に置き換えて想像すると、含意のある描写に見えてくる。年子という言葉は、戦人とヤスが双子ではなく、一歳違いの子であることを意味するのだろうか。

伏線4……戦人を特別視している金蔵
 金蔵は戦人の素性を知っているかのような反応を見せることがあった。EP5では碑文の謎を解いた戦人を見てこう叫んでいる。

 よりによって戦人がな。
 ……あの、……戦人が……!!
「わっはっはっはっはっはっは…!! うっはっはっはっはっはっはっはっはっは!! 我が生涯の最後の最後に、我は真の奇跡を見たりッ!!」
「ベアトリーチェぇえええぇええッ! この賭けは私の勝利だぁああああああわああっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはぁああッ!!!」

 ベアトリーチェの血を引く戦人が謎を解き、新たなベアトリーチェとなって右代宮家の遺産を引き継ぐなら、そこに金蔵が運命的な意味を見出し「我は真の奇跡を見たり」と叫ぶのも当然と言えないだろうか?

・注記
 ここまで書いてきた、明日夢以外の人物を母と見なす解釈には大きな障害がある。
右代宮戦人は、右代宮明日夢から生まれた。
 明日夢の項目でも引用したこの赤字だ。現実世界とメタ世界を分けて考えた場合でも、この赤字は非常に苦しい。伏線と思われる要素を抜き出していくと、戦人の両親が留弗夫と明日夢である可能性はかなり低いように思うのだが、どの解釈をするにしても赤字に引っかかってしまうのだ。
 この謎を解釈するのは非常に難しく、完全に納得の行く赤字の抜け方を思いついていない。
 今は可能性を列挙するにとどめて、EP8を読む上での一つの指標としたい。

2010/12/29
■【EP7】ヤスの人物像T――クレルのはらわたと過去の事故。六軒島という牢獄

 EP5で行った「ベアトリーチェを生み出したのは紗音」という考察は、EP6〜7を経ても大きな変更はない。ウィルが指摘したベアトリーチェ殺人事件の犯人は彼女だろう。だが、それは物語の世界に考えを限定した場合である。紗音はあくまでも想像上の人物であり、嘉音と同じく物語の中にしか存在しないと思われるからだ(EP7ファーストプレイメモの終盤も参照)。
 一方、EP7で登場したヤスは「現実世界に実在する人物」だと思われる。EP6の終盤以降、物語の主題はゲーム盤から現実世界へとシフトしつつあり、ヤスの存在もまた「現実世界の真実」を強く意識させるものだ。
 ここがEP7考察の要点と言える。

 ヤスは一体どのような人物なのか。劇場で行われたクレルの朗読によって、私たちは彼女の心情を丹念に追いかけることが可能になった。戦人への恋心はもちろん、年齢に三歳のずれが生じていた点も紗音に強く重なっている。
「あぁ、我こそは我にして我らなり」
 このフレーズは満たされない感情を抱えたヤスが、想像の世界で様々な登場人物を生み出していたことを示すものだろう。「我」はヤス、「我ら」は紗音、嘉音といった架空の人物たちだ。真里亞の心の中にさくたろうがいたのと同じことである。
 違うのは、ヤスが自分自身を世界から遠ざけて、その人格を架空の人物に託した点だ。
 ある時ヤスは紗音に「使用人を辞めて魔女になる」と宣言し、自分の心を二つに分けてしまう。真里亞と同じく友人がいなかったヤスは、人間としての理想の自分を紗音に託し、孤独な世界から逃避したのだろう。彼女が鏡を嫌うのは自分の「本当の顔」が見えてしまうからだ。
 やがてヤス(=物語における紗音)は戦人と出会って恋心を抱くようになる。

「その日が来たら……、俺が白馬に跨って、迎えに来てやるぜ。」

 この約束を忘れ去った戦人に対し、彼を信じて待ち続けたヤスはいつまでも受け身である。自分から島を出て戦人に会いに行くという発想をしたこともあったが、ガァプやクレルの姿をした魔女(=どちらもヤス自身の心)に「信じて待ち続けろ」と声をかけられて、結局は使用人を続ける道を選ぶ。
 内向的な性格ゆえの選択だったのかもしれないが、なぜあれほど恋い焦がれた相手を何年もただ待ち続けていたのだろうか。一度は決意しかけたように、使用人を辞めて彼の許へ駆けつけるという選択肢は常にあったはずだ。だがヤスは最後までそれをしなかった。約束を疑うことは戦人への不信の証しと考えていた節があり、同時に彼の心を確かめることを恐れていたように思える。
 しかし、本当にそれだけだろうか。
 彼女には「戦人に会いに行くことができない理由」があったのではないだろうか?
「Tea Party」(お茶会)の内容を確認してみたい。
 ベルンカステルが死んだクレルの腹を切り裂くと、あふれ出た臓物と共に三つのシーンが立て続けに表示される。金蔵による黄金の略取。九羽鳥庵のベアトリーチェに迫る金蔵。そして源次と南條に悲痛な訴えをする謎の人物だ。

「どうして…!! どうしてあなたたちは私を助けたんですか?! どうして死なせてくれなかったんですか?! 私はあの時の大怪我で、……こんな体で生きさせられている!! こんな体で、生きていたくなんかなかった!! こんな、恋をすることも出来ない体で……!! そんなの、そんなの、生きる価値がないんじゃないですか?! そんなのニンゲンじゃない…!! 家具じゃないですか!!」
「そう、私は、家具……!! 家具なんだ…!! どうして、………私をあの時に死なせてくれなかったんですかッ!! ぅわぁああああぁあああああぁああぁああ……!!!」

 これは「クレル=紗音=ヤスが腹の中にしまい込んでいた真実」と解釈するのが妥当だろうか。もちろん彼女の主観による真実であるため、誤認が含まれている可能性はある。しかし、これらが「クレルのはらわた」として描かれたことには深い意味があるはずだ。
 前述した通り、ヤスはゲーム盤の紗音とは違い、現実世界に実在する人物だと思われる。
 よって慟哭しているのは「現実世界のヤス」であり、「十九年前の赤子(=ヤス)は崖から落とされて大怪我を負ったが、かろうじて生きていた」と読み取ることができる。
 戦人との恋愛に一歩を踏み出すことができなかったのは、この怪我による影響と考えられないだろうか。「恋をすることも出来ない体」という台詞を、たとえば「顔や身体に大きな傷を負ってしまった」と解釈するのだ。
 しかもそれが、六軒島から出られなくなるほどの大怪我だったとすれば……?
 戦人を追いかけず、不自然なほど六軒島に閉じ籠もっていたヤス。
 六軒島で十年も使用人を続けていた紗音。
 現実世界と物語の世界は、理由を違えつつも常に重なり合っている。

 転落事故で傷つき、片翼を失った鳥は、六軒島という籠の中でもがき苦しみながら、ただ想い人を待ち続けることしかできなくなってしまったのかもしれない。
 作中に何度も「檻」「牢獄」「密室」という表現が登場するのは、六軒島に縛られてしまったヤスが自らの境遇を暗に告白していたためと考えられないだろうか……。

■【EP7】ヤスの人物像U――ヤスの恋愛
 一度視点を紗音に移そう。
 紗音は年相応の健康な身体を持ち、譲治との恋愛は順調だったように思える。障害になっていたのは右代宮家の男と使用人の女という身分、そして紗音が抱いていた戦人への感情だけだ。彼女に大怪我という要素が反映されているようには見えない。
 しかし、EP2の序盤に気がかりな描写がある。

「えええぇえぇえぇ?! べ、別部屋って何だよ?! じゃあ、わざわざ紗音と譲治兄さんは別の部屋に泊まったのかよ?!」
「は、……はい…。ぁの、……そんなにもおかしかったでしょうか……?」
「…しゃ、紗音さ、何のために沖縄まで旅行に行ったんだよ…。それも譲治兄さんと二人っきりで!」

 紗音と朱志香の会話である。この後、紗音は譲治の提案に従って別室に宿泊したと述べるのだが、仮にこのエピソードを「紗音は譲治に肌を見せたことがない」という文脈で読めばどうなるだろうか。「身体に刻まれた傷痕を嫌悪しているため、譲治に肌を見せることを嫌った」という解釈も可能になってくる。ヤスの心が反映された描写と見るのだ。
 これだけでは仮定を重ねた憶測の域を出ないが、かつてヤスの分身たる黄金の魔女ベアトリーチェが、ラムダデルタに「みすぼらしい存在」と嘲弄されていたことを思い出したい。EP3の「Tea Party」(お茶会)から引用する。

「…………元々、魔女ですらないあんたが、本当はどんなにみすぼらしい存在だったか、いつだって思い出させてあげるんだから。」
「………あんたは、元々が惨めだから、惨めなカケラも実に選び甲斐があるわ。…くすくすくすくすくすくす。」

 怪我を負った自分の身体を呪い、鏡を嫌った現実世界のヤスに強く重ねられる台詞だ。
 紗音はヤスが生み出した「恋ができる自分の姿」でもあったのではないだろうか? ヤス自身は魔女となって現実世界から遠ざかった。人間としての自分を使用人・紗音という架空の人物に託していたことは、本編に描かれた通りである。
 クレルのはらわたと共に提示されたシーンが事実なら、現実世界のヤスは譲治とも自由に恋愛ができない状態だったはずだ。しかし物語の中で描かれている恋愛は「ヤスと譲治」ではなく、あくまでも「紗音と譲治」という架空人物のものである。
 これについて二通りの考え方をしてみたい。
 一つは「ヤスは心と体に傷を負ったまま譲治と恋愛をしており、物語ではそれを紗音に置き換えて描写していた」というパターン。
 もう一つは「物語はすべて虚構であり、現実世界においてヤスは恋愛をしていない」というパターンだ。
 前者は紗音の恋愛感情に基づくこれまでの考察に合致する考え方であり、EP7を踏まえるとこちらの可能性が高そうだ。
 後者はすべてが覆される仮説であるため、かなり不確かである。ヤス(=物語における紗音)の恋愛が妄想の産物だったとすると、戦人や譲治との関係、即ちホワイダニットが曖昧になってしまう。
 答えはどちらなのだろう。それとも第三、第四の解釈もあり得るのだろうか?

 ヤスについては次回もう少し考えを進めてみたい。

NEW!! 2010/12/30
■【EP6・7】戦人とヤスの関係――結婚と血縁、黄金蝶のブローチ

 仮に戦人とヤスがきょうだいだったとすると、物語の根底にいるヤスに大きな影響が出る。血を分けた二人が結婚することはできなくなってしまうからだ。
 ヤスはこの可能性を知っていたのではないだろうか?
 だからこそ恋の苦しみが増してしまった。形を変えて何度も登場した「生まれながらにして」というフレーズは、決して解決できないこの問題を暗示していたのかもしれない。
 EP6を振り返ってみたい。縁寿とフェザリーヌは、黄金蝶のブローチについて次のような言葉を交わしている。

「つまりこういうことよ。“どうして家具は、恋をしてはいけないの?”」
「……魔法という奇跡なくしては、なぜ恋が許されぬことになっているのか、か。」
「そして。……頑なに恋が出来ないと嘆いていた家具たちに、それを許すことの出来る、黄金蝶のブローチって。一体、何だって言うの?」
(中略)
「さぁて。……恋と結婚は別物としか、言い様がないであろうな。」

 ひどく暗示的な台詞だ。
 このブローチはEP6でも紗音と嘉音に絡めて考察した。「一人に満たない魂」という言葉が出てくるため、主眼に置かれているのは分かたれてしまった心、紗音と嘉音だ。
 しかしその一方で、EP7を踏まえると戦人とヤスの関係を表しているようにも見えてくる。血を分けた双子、遠く引き裂かれた二人。一つに戻るべきブローチは、ヤスが戦人との再会を願って書いた要素なのだろうか……?

■【EP7】ヤスの願望と本心――金蔵の死と瓶詰めの遺言
 若き日の金蔵は死地を探し求めていた。意志を持つことを許されない、操り人形のような毎日を送っていた彼は、戦場で死のうと考えていた。しかしいざ戦闘が始まれば恐怖で逃げまどい、命が惜しいという感情に支配されてしまう。願望と本心は別だったのだ。
 一方のヤスは、六軒島に縛り付けられたまま毎日を過ごしていた。重い怪我の後遺症を抱えながら、自由に恋をすることさえできず、十九年という時間が経過する。それは意志を持たない操り人形にたとえられるのではないか。彼女は死を意識しながら、同時に幸せな生を強く望んでいたと考えられないだろうか。
 六軒島の爆発は、誰かを殺すことよりも、「自らを殺す手段」に重きを置いて引き起こされたのではないだろうか? ヤスは籠に囚われた日々の中で、自分の心を投影した長い物語を執筆する。そして、いつかそれを誰かに理解して欲しいと願いながら、読まれる保証もない瓶詰めの手紙として海に投じる。それは金蔵が信じた確率の奇跡、強い意志によるリスクとリターンに通じるやり方だ。そして親族会議の日、ヤスが本当に欲しかったものは手に入らず、絶望のうちに起爆装置を作動させることになってしまう……。
 即ち、あのメッセージボトルの物語は「ヤスの遺言」だったのではないだろうか。
 この解釈に合致する要素を過去のEPから拾い上げてみたい。

・金蔵の遺言と筆耕
 EP1の冒頭、まさに最初のシーンで金蔵と南條が遺言に言及している。一部のみ抜粋する。

「いいや違いますぞ。……遺言は、意思を残すことだ。遺産分配のことだけを書くものじゃない。」
「馬鹿馬鹿しい。この右代宮金蔵、後に残したいことも伝えたいこともただのひとつもないわッ!!」
「………………だが未練はある。残すものは何一つないが、残したまま逝けぬものが、ひとつだけある…。」
「私が生きている内でなくてはならぬ、私は死ねば魂はすぐに契約の悪魔に食らわれて消え去ってしまう! 死後の世界も安らぎも私にはないのだ! だから全ては私が生きている内でなければならぬ!! だから遺言状など私には必要ないッ!! そのようなものを書く暇があったなら……」

 金蔵にとっての心残りは黄金の魔女ベアトリーチェだったが、ヤスが自らの心残り、戦人への感情を金蔵に託して叫んでいたと見なせばどうなるだろうか? 「全ては私が生きている内でなければ」という言葉も当然ということになる。
 しかも金蔵は、これだけ否定していた遺言をEP2で「紗音に」書かせているのだ。ヤスの分身である紗音が遺言を代筆する――これはヤスの遺言という意味合いを暗示していたのかもしれない。
 金蔵の死はゲーム盤共通の設定だった。同じように、ヤス自身も物語が読まれる時にはすでに死んでいることを想定していた――つまり「死を覚悟してこれらのシーンを執筆していた」のではないか?

・碑文の最終段
 安らかに眠れ、我が最愛の魔女ベアトリーチェ。
 ――碑文はそう結ばれている。EP7の回想シーンにおいて、ヤスは「設定を変更」して自らを魔女に変え、人間の自分を紗音に託していた。碑文を作成したのは金蔵だというが、これはまるでヤスの死をも暗示しているかのようだ。
 碑文の謎は解かれたが、後半部は一切扱われずに終わった。そこに込められた意味は、惨劇の否定とヤスの死だったのだろうか。「最後は愛情に包まれて逝った」と読み取ることもできるのだが……?

・ヱリカの死
 当時、矛盾した人数を示す赤字を「ヱリカにとっての真実と、戦人・ベアトリーチェにとっての真実、即ち異なる世界の真実」と考察した。このシーンはヱリカの死=現実世界におけるヤスの死を暗示していたのではないか?

・金蔵の死体
(※これはかなり実験的な考察であることを前置きしておきます)

 なぜか必ず焼かれた状態でゲーム盤に登場する、金蔵の死体。
 私は「金蔵がすでに荼毘に付されていたことを示す描写」と考察したことがある。
 だが、これもまたヤスの死を暗示した情報と考えられないだろうか?
 戦人がEP6で発した赤字を引用する。

「そうだな……。この閉ざされた六軒島では、この死体が祖父さまのものだと示せる客観的な方法はない。

 それを金蔵の死体と判断するための論拠は、六本あった足の指だけだった。「ヤスの足の指が六本あった」と考えれば崩れてしまうような、頼りない論拠である。
 EP5でドラノールが発した言葉にも触れておこう。

“金蔵が存在しない”のは、すでに確定事項のハズ。ラムダデルタ卿もベルンカステル卿も、それをよくご存知のはずデス。」

 これに違和感を覚えた。
「金蔵はすでに死んでいる」というのは何度も出てくる赤字だ。しかしここでは「存在しない」と書かれている。これはゲーム盤における金蔵の死体が偽物であることを示す情報ではないか?
 その正体がヤスの死体だったと考えれば……?

証拠提示。右代宮金蔵と識別可能な遺体を提示する…!!

 EP5で戦人が提示した死体は、金蔵ではなくヤスのものだったのではないか。
 一方、この解釈に抵触しそうな赤字も存在する。

登場人物以外の死体は登場しないと知り給え。」

 これが「EP5時点で顔と名前を明かされて登場した人物に限る」という意味なら、金蔵の死体=ヤスの死体という仮説は消える。しかし、その限定を明示する赤字が見当たらない。「EP1当初からヤスという死体が登場していた」と解釈したならば?
「当初からの登場人物に限る」という意味合いを持った赤字はこれである。

ノックス第1条。犯人は物語当初の登場人物以外を禁ズ!!

 ゲーム盤における犯人は物語当初から登場している人物に限られる。よって、仮にこの死体がヤス本人のものであっても、ゲーム盤におけるヤスは連続殺人事件の犯人ではない。

身元不明死体について、その身元を全て保証する。即ち、替え玉トリックは存在しない!

 この赤字も、身元不明死体がヤス本人であるなら「保証」との齟齬は生じないのだ。

 ……以上、実験的な推理でした(´・ω・`)ノシ
 今夜中にもう少し更新予定です。追い込みであれこれ書いてみます。

NEW!! 2010/12/31 AM1:30
▼直線考察最終回

 日付が変わってしまった。……ということで、追い込みラストの考察アップです。
 検証が不十分だったりしますがご容赦下さい。

■【EP4・7】遺族に送られた封筒
 ヤスが遺言としての意味合いを持たせて瓶詰めの物語を海に投じていた場合、南條や熊沢の遺族が受け取っていた封筒は遺産分配の意味合いが強くなる。黄金が吹き飛んでしまうため、送ることができたのは現金化したごく一部の遺産のみということになる。
 あの回りくどく謎めいた宛名は、六軒島を彩る魔女幻想の一環だったのだろうか。しかし、どうも意味合いが異なるように思える。EP7から地下貴賓室での会話を引用する。

「そうそう。忘れていました。………私に死に銭など必要ありませんので。これも皆さんにお渡しします。」
「……キャッシュカード?」
「黄金の一部を現金化していました。それが入っている口座です。」
「なるほどな。黄金の魔女の、まさに魔法エネルギーっちゅうわけやな。」
「いくら入っているんだね?」
「詳しくは忘れました。でも、10億以上は入っています。」
「10億…! ……そりゃあ確かに魔法だぜ!」
「そうね。それだけのお金で、出来ないことはないでしょうからね。」
「そうですね。ニンゲンの反魔法の毒素にもっとも強い唯一の魔法が、この黄金の魔法。……ある意味、このカードはインゴットよりも、強い力を持つかもしれませんね。」
「まったくだね。インゴットより、現金の方が喜ばれるものだ。」
「どうぞ。………私にはもはや、不要なものですので。」

 彼女は金で人間の心が動かせること(=金を介した共犯システム)に言及し、はっきりと「死に銭など必要ありません」と述べている。死後にキャッシュカードが入った封筒を受け取った人間は、これが魔女の仕業ではなく生きた人間の仕業と確信するだろう。宛名こそ謎めいているが、魔女幻想とは相反する行為である。
 ヤスは、この事件に自ら綻びを作ったように見える。それは遺族へのお詫びであると同時に、「真相を曝いて」というメッセージだったのではないだろうか。真里亞の名を借りて、瓶詰めの物語をそう締めくくったように。
 あるいは、「現実世界ではこのクレジットカードが事件前に投函され、遺族の手元に届いている。よってEP7で描かれたように、事件当夜の地下貴賓室でこのようなやりとりが行われるはずはない」という矛盾を示す情報とも受け取れる。

■【EP3・7】理御という名の意味と真里亞の名
 金蔵は受け入れた赤子に理御と名付け、罪を償おうとしていた。
 理御という音は、碑文の鍵を内包したレリーフ「Quadrillion」に通じる。もちろんこれは隠し屋敷の九羽鳥庵の由来と考えられ、そこにいたベアトリーチェとの関連が深い命名だ。レリーフはベアトリーチェへの想いが込められた礼拝堂の入り口にあり、その全文が示すように奇跡的な確率を意味する語でもある。金蔵が理御という名をどれだけ尊んでいたかがしのばれる。
 さて、一族について考えるとき、金蔵が真里亞に付けようとしていた元々の名が気にかかる。

「みんなも知っての通り、お父様は真里亞のことを毛嫌いしてて、ほとんど言葉を交わしたこともない。それに、お父様はかつて真里亞に全然違う名前をつけるように言っていたの。それを私が勝手に真里亞にした。お父様はそれをとても怒っていたわ。」

 楼座はEP3でこう述べている。
 金蔵が真里亞を毛嫌いしていたというのは、もちろん現実世界において確定した事実ではない。彼は真里亞にも理御のような「祝福に通じる名」を付けようとしていたのではないだろうか。楼座はその意図を察することができず、自分の判断で名を決定してしまったという解釈だ。
 金蔵の人間性に関してこのような推理をすることも可能である。

■【EP6・7】続・戦人の出生問題とEP6のメタ世界
 前回述べたパターンとは別の条件を考えてみたい。

・現実世界の戦人は、金蔵と右代宮明日夢の子
 メタ世界の戦人は、金蔵と九羽鳥庵ベアトリーチェの子
 現実世界のヤスは、金蔵と右代宮明日夢の子(戦人とは双子)
 ヤスは、どちらの世界でも「自分が金蔵と九羽鳥庵ベアトリーチェの子と思っている」

 この解釈なら赤字に引っかからないのではないか……?
 現実世界で金蔵が九羽鳥庵のベアトリーチェを襲っていない可能性は、(可能性は低いかもしれないが)やはり疑ってみたい。
 クレルのはらわたで描かれたのは九羽鳥庵ベアトリーチェが戸惑うところまでで、ヤスが二人の子というのは語られたことに過ぎない。しかしウィルやヤスという真相に近い人物の推測・告白だけに、あっさり否定することも難しい。あくまでも可能性の一つという位置づけにとどめるべきか。
 メタ世界の戦人については、別のパターンとして次のように捉えることも可能だろうか?

・メタ世界における戦人は、ヤスである
 EP6で客間に閉じ込められた際、女言葉の主観が混じるシーンがある。

 口をぱくぱくと、“誰か来て”と動かすのだが、そこから言葉が声となって出ないのだ。
 何、これ……!?
 誰か来て…。どうして声が出ないの…!?
 助けて助けて助けて。
 助けてと、声にさえ出来ないことが、とにかく恐ろしくて恐ろしくて。
 後ろを振り向いたら、……窓の外の暗闇から、この部屋をうかがっていた魔女が、……もう部屋にいて、…自分のすぐ後ろに立っていそうで……、恐ろしい恐ろしい、怖い怖いこわい…。
 誰か助けて誰か助けて…。
 出られない、出られない…。
 この部屋から、……出して……、

 直前まで戦人の主観で描かれていた文章が、唐突に女性的な口調に切り替わるのだ。
 これは彼の幼少時の記憶と考えていたのだが、まさか「戦人ではなくヤスの記憶」なのだろうか?

■【EP7】金蔵にまつわる惨劇の全否定――ベルンカステルの朗読
 金蔵と九羽鳥庵ベアトリーチェの関係は事実のように思えるが、そうではない可能性もわずかに残されているのではないだろうか? ウィルの推理、及びヤスにとっての真実が誤っていた場合だ。
 EP6の「????」(裏お茶会)でベルンカステルはこう述べている。

「朗読者は私よ…? ………私、愛がないから、色々と、おかしな解釈をしてしまうかもしれない。……でも、どう読むか、どう抑揚をつけるかは、朗読者の自由よ。」

 クレルのはらわたを引きずり出したのはベルンカステルだ。
 彼女が「抑揚を付けて」あのような残酷な解釈を突きつけたと見ることもできる。ウィルとクレルが語った真相と相反するため非常に難しい解釈になるのだが、悲劇を否定できる余地は残されているように思う。
 近親相姦という禁じられた関係が描かれたのは、ヤスが戦人への果たせぬ想いを抱えて苦しんでいたからではないのか。それが「金蔵の歪んだ愛情」として描かれたのではないか?

■【EP5・7】ヤスとベアトリーチェ――密室からの脱出
 金蔵の書斎で論戦を繰り広げた後、窓から外に飛び出した戦人。
 中庭からベアトリーチェを招いて彼は言った。

「その窓が俺たちの出口の扉だッ! ……だから飛べ!! お前は密室に閉じ込められてるような魔女じゃないだろうがッ!!」

 密室というモチーフからベアトを逃がす。六軒島という鳥籠からの開放を暗示している。戦人にはそれができる。彼にしかできない。
 ヤスが檻から逃れて幸せを手にできる可能性を暗示しているのではないか?

■【EP5・6・7】黄金の真実とは――二つの解釈と共犯システム
この死体が右代宮金蔵の死体であると保証する…!!
「くっくくくくく……。うむっ、なるとも。そなたが魔法にて、伏せたカップの中に黄金の花びらを生み出した。見事な魔法であったぞ。

 EP5で戦人が、EP7で姉のベアトリーチェが唐突に宣言した黄金の真実。
 これは彼らの優しい嘘、優しい解釈による魔法と考えられる。戦人が提示した死体は金蔵のものと確定したわけではなく、「金蔵の死体であることを否定できない」ものに過ぎない。しかし彼は夏妃を救うために「金蔵の死体」と宣言した。
 姉のベアトリーチェは、自分が目を閉じている間に雛のベアトリーチェが黄金の花びらを仕込んだことを知っている。しかし、彼女はそれを指摘することなく「見事な魔法」と褒めているのだ。
 金文字で表示された黄金の真実は、「曖昧な証拠を元に宣言する、優しい真実」と定義できるのではないだろうか。その証拠は確定させる必要がなく、証明も求めない。ただ「否定はできない」という程度のくだらない証拠さえあれば、「それは真実だ」という魔法をかけられることになる。

 一方、EP7でウィルが述べた推理にもこの言葉は登場する。
「黄金の真実が紡ぎ出す物語は、幻に帰る」
 といった具合だ。これは「幻は幻に」と同じく虚構や嘘を意味するものだが、ヤス(=ゲーム盤の紗音)が用いた「共犯システム」を示すものと考えていいのではないか。

「事件毎に異なる共犯者を得るシステム。………導き出される推理は、犯人が莫大なカネを持っていたという可能性。そして、………全てを黄金郷に招き、……全ての恋を成就をさせる、もう一つのシステム。」

 ウィルの台詞が示すのは、ヤスが所有することになった黄金と爆弾だ。
 黄金をちらつかせることで共犯者を得て、最後は爆弾によってすべてを消し去り、黄金郷という架空の理想世界の中で、叶わなかった恋や失われた愛を蘇らせるということだろう。
 どのゲーム盤の犯行も共犯者がいなければ不可能だった。不自然なほどに多かった共犯者の謎も、このシステムの存在、及びヤスを当主と認めていた使用人たちの存在によって説明されている。(ただし「使用人が犯人であることを禁ずッ!!」というウィルの赤字があるため、使用人たちを共犯から除外する考え方もある。一部の現場はかなり困難な推理を強いられるだろう)

 このように、黄金の真実は二種類ある。
 ウィルが言う黄金の真実は「共犯システム」。
 金字で宣言される黄金の真実は「優しい嘘」。
 これが現時点での私の解釈だ。

■おまけの余談
・「譲治は戦人からの手紙をヤス(紗音)に渡さなかった」という説があるそうですね。その視点はなかった……譲治黒すぎるだろう! ありそうだけど! 現実世界では譲治涙目という昔の推理をプッシュしてしまうぞ! ……それはそうと、戦人が彼女の存在を忘れていたなら手紙の内容も大したことなかったんじゃ? とか考えてしまいますね。あれが「忘れていたふり」だったら戦人くんマジで罪作りですが(笑)。
・主人公がこんなに信用ならない作品は珍しいです。最後の最後まで謎が多すぎます。探偵視点が保証された時点でようやく信じましたが、途中は「実在しない人物じゃないか?」というところまで疑いました(笑)。
・……戦人はメタ世界にしかいない、ヤスの妄想の産物? ……いやいや、それはいくら何でも悲しいがな(´・ω・`)
・嘉音は幼き日の戦人? だからEP6で駆けつける役だった? 嘉音の死体を目撃できなかったのは自分自身だから? しかし探偵視点がある以上、その可能性は低いはずだ。福音の家で戦人とヤスは面識があったり?(さすがに飛躍しすぎか)
・福音の家はやはり重要。ヤスだけでなく戦人出生の謎にも絡みそう。EP8で出てくるのでは?
・「……いいや、違う。…………妾が知りたいのは名前ではない。妾が、何者なのか、だ。……妾は誰で、何で。…いつからここにいて、…そしていつまでここで日々を過ごせば良いのか。」
――自分が何者かを知りたがっていた九羽鳥庵ベアトリーチェには、ヤスの自問自答が重ねられている?
・金蔵のものと言われていた死体。人間は黒こげになるまで焼かれると収縮して手足が曲がるから、金蔵とヤスの体格差が判別しにくくなっていたかもしれない。
・この物語は、叶わなかった恋を物語に書き残して逝った、一人の女性の話だったように思えて仕方ない。

 人は、誰かに理解されて初めて、救われる。
 死後も、何年経っても、……そして、一番わかって欲しかった男に、理解されることなく生を終えた哀れな魔女を、…………もう誰かが赦してもいい。
(EP7より)

■web拍手レス
やっとEP7プレイメモへの拍手にレスができる……。
遅くなってすみません(;´・ω・)ゞ

・戦人と紗音(理御=ヤス)は双生児?
> 初めまして。うみねこでふと思ったんですが、戦人と紗音(もとい理御)は二卵性双生児、という可能性はないでしょうか。南條や源治から他言無用と言われていた、とか。そうすればEP1で留弗夫が「家族で話したいことがある」と言ったことにも説明がつくかもしれないですが、そうなると戦人の母親である明日夢と留弗夫が何故、結婚したのかという疑問がでてくるんですよね。みゅみゅみゅ…。大分、考えの浅い考えを披露してお目汚し失礼いたしました。
 同意です。
 戦人とヤス(=紗音)の本当の年齢、そしてEP7の内容を考えると非常に怪しいですよね。
 結構前にやった『真相解明読本EP7』対談でも、「二人は双子だったのではないか?」と語りました。この対談では対談相手の加納さんが、戦人出生の謎について私とは異なる意見を述べられています。かなり複雑なお話なのですが、その一部をお話すると「生まれた赤子がヤスになる世界と、戦人になる世界がある」といった仮説ですね。(もしお持ちでしたら『真相解明読本EP7』を参照してみてください。どちらも62ページに入っています)
 問題になるのは赤字の抜け方で、現実世界、メタ世界、ゲーム盤と選択肢が広く悩ましい。うーん、他の要素を考えても双子が一番怪しいと思うんですが……。
 留弗夫と明日夢結婚の理由は難しいですね。右代宮家の利害が関わっている可能性は高いと思いますが、実はもっともっと人情的なお話かもしれません。血縁の有無を問わず「親子の情」という要素が色々なところで描かれていますから。

・金蔵の行動、および戦人の紗音への思い
> ぶっちゃけ最初から金蔵嫌いだったので今回の話見て思ったとおりの爺さんだなという事が分かりました。前々から金蔵妻が可哀相と思っていたので。ベアトの発言からレイプもしてそうだと思ってました。気がついたら子供が出来ていたとか、娘レイプとか性欲魔神過ぎて呆れます。なっぴーがなんで慕っているのかよく分かりません;なんとなくビーチェと本当に愛し合っていたのは源次で金蔵はビーチェをレイプしたとかもあり得そうだなと;留弗夫もそうですが、うみねこの事件の本当の原因は彼らの女性関係のだらしなさと性欲魔神が原因だと思います。ただ、戦人も一見、そういう風に見えますが、留弗夫の一件で憤慨した事から考えると父親のそういう行動にはかなりの反発があったように見えるので、戦人の方がある意味、その二人と比べると一途な面があるのかなと思います。約束忘れた事は酷いですが、ベアトへの態度を見ると紗音に対しては本当はどう思っているんでしょうね。
 性欲魔神www確かに「金蔵め……!」というのが最初の感想でした(´・ω・)
 だが待った! 待ってくれ……! どの描写が真実だったかはまだ確定していないんだ!
 いや、あれば真実だった可能性は高いわけですが……背景が赤かったし……。それでもまだ分からない。解釈の方法はあります。愛があれば視える、ような気がする!(うつろな視線で)
 戦人の感情は信じてあげたいですが、約束を完全に忘れていたと語られていますね。ただ、あの物語はヤスの主観が反映されたものですから、「本当の戦人がどうだったのか」という点は謎も多いです。これが『うみねこ』の難しいところですね。
 EP8ではヤスを救って惨劇を回避してほしいなあ……。

・ファーストプレイメモへの質問と回答
> プレイメモ、とても興味深く拝読しました。解らない箇所があったのでもし差し支えなければ、教えて頂けますか?
 ご質問の箇所は考察で詳しく語りましたが、改めて(`・ω・)

> 紗音すらも想像上の人物だった……?
> 物語にはまだまだ多数の脚色がされていたということだ!

>紗音が想像上の人物、というのはおもしろいですね。どの辺りから読み取られたのですか?
 中盤でヤスが「設定を変更」し、紗音の主観で生活し始めたところでまず「んっ? これは!」となった記憶があります。想像上の人物と確信したのはプレイメモの通り、ラスト近くのクレルのはらわたですね。
 あのシーンで金蔵とビーチェの恋愛が嘘だった可能性が提示されてしまいました。そしてヤスは「恋もできない」と慟哭しています。すると六軒島の物語はヤスの主観に基づいて描かれたものに過ぎず、「本当は異なる現実があったのでは」という視点にシフトせざるを得ません。

> 熱いな! その姿勢と切断された腕は……なるほど! そういうことか!

>どういうことですか?もしご迷惑でなければお願いします。これからも応援しております。
 EP5〜6当時の考察をそのまま当てはめました。
 腕が「左」だったことがポイントですね。あれは指を食いちぎられ、呪いの結婚指輪をはめられた戦人との一致を示す伏線であり、物語の執筆者が恋愛感情と結婚にどういう感情を持っているかを示す情報と受け止めました。
 問題は若き日の金蔵が左手の爪をはがしていたこと。これをどう読むか……? 違う路線でも解釈できるかもしれません。どうしても重要になるのは「結婚」ですよね。血縁関係に主眼を置いてEP7を考察したのもここに絡んでいます。恋愛はできても結婚できないですもんね。
 うーん、どうだろう……。

・黄金の真実とは?
> ファーストメモお疲れ様でした。TIPSの七姉妹をいじると使用人版になるとかなんとか・・・ところで、「幻は幻に」と「黄金の真実」の違いですが、自分的には「幻は幻に」・・・紗音と使用人一同の嘘「黄金の真実」・・・黄金(金塊)を使って親族を買収、口裏あわせだと考えてましたがどうでしょう?
 なんと……そのグラフィックは気づきませんでした(;`・ω・)
 ウィルが推理で述べた黄金の真実については仰る通りだと思います。私も同じ意見です。
 考察本文で言及しましたが、金字で表示される黄金の真実はどうやら意味合いが違うみたいなんですよね。特に雛のベアトリーチェが行使した魔法は「黄金を用いた口裏合わせ」とは明らかに違うので、分けて考えた方がよさそうです。
 ……何で同じ名称なんでしょうね(笑)?

・EP8のゲームマスターは?
> EP7の考察を読みました。共感できる部分もあり嬉しかったです。ところでEP6でのGMはバトラでしたがEP7のGMはベルンカステルでした。(GMは不変ではない?)という事はEP8でのGMもベルンではないでしょうか?赤き真実が真実のみを語るというのであればベルンが書いたゲームはハッピーエンドが存在しないという事と考えます。今の状態ではEP8のGMは分かりませんがEP8が発売されたら討論したいものです。
 気になりますよね。誰なんでしょうね……?
「えぇ、そうするわ。……奇跡の魔女として、そして、最後のゲームマスターとして、最後のゲームを宣言するわ。そして約束する。」
 確かに本人がこう言っているので、仰る通りベルンカステルの可能性が高そうです。
 ちなみにゲームマスターは物語の作者が設定する存在だと思うので、現実世界を意識しつつ考える必要があると思います。もし、現実世界の戦人がEP8の「作者」だとすると、ベルンカステルを「ゲームマスター」に据えて語り、最後に「ゲームマスターと物語」をまとめて葬り去るのかもしれません。惨劇の否定です。
 ……無能にそれが果たせるのか? こうご期待!
 では一眠りした後、EP8を入手しにビッグサイトへ出発したいと思います(笑)。

 プレイ後のファーストプレイメモでまたお会いしましょう!
(´・∀・`)ノシ

(――EP8は別ページに追加していきます。更新情報のお知らせはtwitterブログでも行っています)

 

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