埼玉県合唱連盟が全国に先駆けて20年前に始めた「おとうさんコーラス大会」は、今では関東支部主催にまで拡大し、ますます盛んになってきました。うれしい反面、規模がでかくなりすぎた結果、今年8月の千葉大会では各県3団体という制限を設けざるを得なくなりました。そうなると多くの出られない団がなんとかしてくれとなるのは至極当然のことです。やはり発祥の地埼玉としては、希望する団にはすべて参加してもらいたいということで、8月に引き続き埼玉だけで「彩の国 男声コーラスフェスティバル2009」と銘打って開催しました。

 今回の催しは県連と朝日新聞社の主催ですが、「ちちぶ芸術祭2009参加事業」にも指定されましたので秩父市が共催となっています。ありがたい協賛会社は、アサヒビールさんと矢尾百貨店秩父店さんです。毎度ありがとうございます。

 男声16団体に加え賛助出演の女声4団体、総勢300人ほどが参加しました。ちなみに男声合唱プロジェクトYARO会の5団体は、イル・カンパニーレ、ドン・キホーテ、コール・グランツ、あんさんぶる「ポパイ」、メンネルA.E.C.のすべてが参加しました。また、出演者以外にも応援団や一般の方も会場へ詰めかけてくれました。

 第一部の演奏会が行なわれたミューズパーク音楽堂は、東京からわざわざレコーディングのために来るほどのとても響きのよいホールです。
http://www.muse-park.com/info/ongaku.htm

 このフェスティバルは、ようするに元祖「おとうさんコーラス大会」のリニューアル版です。ふつうの合唱祭やコンサートとはひと味ちがってビアパーティ付き──というかこちらが本命かと思わせる気楽な催しですので、ほとんどの参加団体は自由な普段着でステージに上がっていました。


 持ち時間は6分。タイムオーバーするとステージの袖から「時間です!」のプレートが指揮者に見えるようにちらちら掲げられる仕組みとなっています。今回はちょっと趣向を凝らして、もっとも素晴らしかった合唱団を決めようじゃないか、ということで女性陣による人気投票をしてもらいました。その結果は第二部ビアパーティで発表することとしました。
 演奏はア・カペラが原則ですが、自分で楽器を持ち込むのであれば何を使ってもかまいません。実はア・カペラが原則というのには裏がありまして、もともとビール工場の講堂でスタートした企画ですから、良いピアノなんか望めないし、まして調律代も出したくない、そんな金があったら飲み代に回したい、それより男声合唱の基本はア・カペラだ、という背景があるのです。そんなことから、音取り用のキーボードだけはステージに置いてあります。


 演奏された曲を紹介します。まずは、男声合唱。
「夢みたものは」(木下牧子)、「十二人の盗賊」(ロシア民謡)、「秋の日ぐれ」(平井康三郎)、「島原の子守歌」(宮崎一章・福永洋一郎編曲)、「狩人の別れ」(メンデルスゾーン)、「静かな夜」(ブラームス)、「冬の夜更けに」(牧野統)、「ヴィブ・ラ・コンパニ」(米国学生歌)、「Take Me Out To The Ball Game」など。


 そして男声合唱とくれば必ず出てくるのが多田武彦作品です。
『月に寄せる歌』より「T 新月」「U 月光の谿」、『草野心平の詩』より「雨」「さくら散る」、「雨中小景」など。
 また、タダタケさんの師匠でもある清水脩の『月光とピエロ』も根強い人気を誇っています。
『月光とピエロ』より「V ピエロ」「X 月光とピエロとピエレットの唐草模様」「U 秋のピエロ」

 もちろん男声合唱の定番曲も揃っていました。
「いざ起て戦人よ」「Ride the Chariot」「Steal Away」「Soon Ah Will Be Done」「I'v Got Six Pence」「斎太郎節」など。余談ですが、「斎太郎節」は「さいたらぶし」と読みます。


 つぎはフェスティバルに花を添えてくれた賛助出演の女声合唱です。男声合唱の中にうまい具合にちりばめられていました。


「ほたるこい」(小倉朗)、「涙そうそう」(
Begin・大田桜子編曲)、「刈干切唄」(小林秀雄編曲)、「赤とんぼ」(山田耕筰・大岩篤郎編曲)、『キュイジーヌ』より「W オムレツ」「X 大阪風お好み焼き」、『Mamma Mia!』より「I Have A Dream」「Mamma Mia」「Dancing Queen
 女性ならではの華やかさ、優しさに包まれながら、かつ説得力のある演奏を楽しませてくれました。





 さて、お待ちかね第二部ビアパーティはすぐとなりの野外ステージに移動して行いしました。今回も主催者からのご指名で私が司会進行を任されました。司会といっても、コンサートほどタイムスケジュールがきっちりできているわけじゃないので、その都度の調整が必要になり、どうしても一人でやっていてはビールを飲んでいる暇もありません。そこで2年前に引き続き男声合唱プロジェクトYARO会の仲間、関根盛純さん(男声あんさんぶる「ポパイ」)にお手伝いをお願いし、二人三脚で進めました。

 宮寺勇連盟理事長の音頭で恒例の「乾杯の歌」を歌ってカンパイ。制限時間が1時間30分しかないので、立て続けに歌ってもらう趣向としました。

 あらかじめ出演順に5団体ずつに分けて歌ってもらう曲を指定させていただきました。参加者全員が歌えるようにという配慮から埼玉県連が出版した<おとうさんコーラス愛唱曲集>(19曲収載)に載っている曲を歌ってもらいます。
 第一部の演奏と多少かぶるところもありますが、ほかの人たちも歌いたいんですからいいでしょう。まさに愛唱歌のオンパレードです。女声陣には「花」を、そして混声で「夢をあきらめないで」「大地讃頌」などが歌われました。これらの曲は、埼玉県連が今年発行したオリジナルの愛唱曲集<彩のうた>(34曲収載)に入っています。

 また、男声合唱プロジェクトYARO会の面々は、今回の会場である秩父市に因んで埼玉を代表する民謡「秩父音頭」の男声版を披露しました。この曲は、多田武彦先生からYARO会にプレゼントされたものです。原曲よりテンポを落として重厚な雰囲気を醸し出したものとなっています。楽譜はタダタケさんの自筆をそのまま印刷していますので、ちょっと珍しい譜面ではないでしょうか。ご希望の方には楽譜を300円でおわけします。

 ここで、第一部の人気投票の上位3団体をご紹介します。投票用紙には「団体名」と「選んだ理由」を書いてもらいました。

 「斎太郎節」を歌い、「声に華があり美しい響きで感動しました」「エネルギーを頂ける歌で、やっぱりもう一度聴きたい」「力強い演奏」「かっこよかった」「若いって素晴らしい」「迫力が素敵」という評価をもらって第2位となったのは<秩父で第九を歌う会>でした。
 そして『草野心平の詩』より「雨」「さくら散る」で「舞い落ちるマイオチルまいおちる
素晴らしかったです」「難しい曲に挑戦されている」「メリハリの利いた確かな音程素晴らしい!」「身内の合唱団だも〜ン?」「ハーモニーが良かった」「楽譜も持たずしっかりハーモニーを保ち、人数以上の声量が聴こえた。もう一度聴きたい」と、この上ない評価を集めた<男声あんさんぶる「ポパイ」>が同点で2位に食い込みました。

 そして栄えある“女性に人気の”第1位は<ピエロ>という若手11人の合唱団でした。彼らは小松原高校音楽部のOB合唱団で今年結成されたばかりです。歌ったのは定番中の定番「いざ起て戦人よ」と「Ride the Chariot」でしたが、その歌唱力の高さと若々しさで会場の人気を総なめにしてしまったようです。たしかにあの定番曲でも歌心のある若い人が歌うとまたひと味ちがうなと唸らされました。


 「若い!のびのび。気持ちよさそう。11名でも十分なパワー」「ソロも見て!聴いて!というソウルフル」「ソフトなテノール、もう一度聴きたい」「若さあふれる力強い歌声」「音色が統一されていた」「一人ひとりの音取りが完璧」「初舞台だそうですね。これからも続けて下さい」「可愛いから」「エネルギッシュな演奏」「将来有望」「清々しい歌声」「厳しい世の中、明るく皆で合唱している姿に涙が出そうでした」「初演とは思えない」と圧倒的な人気を集めてしまいました。
 1位の<ピエロ>は、東京の男声合唱フェスティバルなら来年は招待演奏をとなるところですが、とりあえず栄誉を称えて再度演奏を披露してもらいました。

 さて、事前に宮寺理事長から「今日はサプライズがあるからね」と耳打ちされたのが、なんと、あの「旅立ちの日に」を作曲した坂本浩美さんがビアパーティに駆けつけてくれるということでした。「旅立ちの日に」は、いまや全国の学校の卒業式で「仰げば尊し」などに代わって盛んに歌われている超有名な曲です。その作曲家が来てくれるとはありがたいことです。

 坂本浩美さんは元埼玉県合唱連盟の理事で、埼玉県秩父市立影森中学校で教鞭をとっていた1991年にこの曲を作曲しました。

 作詞は当時の校長先生であった小嶋登さん。荒れていた学校を建て直し、いつでも歌声の響く学校にしようと、音楽の坂本先生と一緒に作ったのが『旅立ちの日に』です。いまでは、混声三部版、混声四部版、女声三部版、同声二部版があり、多くの生徒に大切に歌いつがれているのはみなさんご存知のとおりです。
 フェスティバル当日、坂本浩美さんは学校の運動会でしたが、後片付けもそこそこに会場に駆けつけてくれました。そして、リクエストに応えて「旅立ちの日に」のピアノ伴奏を快く引き受けていただき、参加者全員で歌いました。素敵なひとときとなりました。


 最後の締めくくりは、今年県連理事に就任し〔おとうさんコーラス〕担当となった須田信男さん(YARO会の団内指揮者、男声合唱団メンネルA.E.C.指揮者)の指揮で「遥かな友に」を高らかに歌ってお開きとなりました。

               




関連情報<音楽/合唱 欄>
20088月「19回関東おとうさんコーラス大会 IN ぐんま」(M-78
20058月「16回おとうさんコーラス大会」(M-62
20057月「夏の秩父」(M-60
20048月「渋滞は忘れたころにやってくる」(M-48
20038月「14回おとうさんコーラス大会 in 秩父」(M-33
20023月「秩父の山々に響け! 男声合唱」(M-2

(以下は、音楽/合唱欄の下のほうにあります)
200293日「関東おとうさんコーラス発祥の地 サッポロビール埼玉工場閉鎖
2002811日「関東おとうさんコーラス大会 in 小出郷」





       
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M-87

彩の国 男声コーラスフェスティバル              2009

2009103日(土)
秩父ミューズパーク音楽堂および野外ステージ

加藤良一  2009年10月13日