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秩父の山々に響け! 男声合唱




 

加 藤 良 一

 


 
 夏休み真っ盛りの8月はじめ「おとうさんコーラス大会」が今年も開かれた。全日本合唱連盟関東支部、埼玉県合唱連盟、朝日新聞社の主催によるこの大会も今年で12回目を迎えた。今回は、とても響きのよい秩父ミューズパーク音楽堂に、関東一円1都8県から31の男声合唱団が集い、得意の演奏を披露しあった。

 

 

写真はビールを横目に健気にも司会をする 筆者。
そのうしろで缶ビールをかたわらにキーボー ドをいじるのは
埼玉県合唱連盟理事長の宮寺 勇先生。

 

 この大会は、第一部は真面目な演奏会、第二部が渾身の懇親ビアパーティという男ならではの構成で、埼玉が全国に先駆けてはじめた催しである。この懇親会を絶対にはずせないところが「おとうさん」コーラス大会のおとうさんたるゆえんであり、ありがたいことにビール会社や酒造メーカーが後援してくれている。ぼくが所属する男声合唱団コール・グランツは第1回目から出場している。おとうさんという言葉に引っかかるんだよナ、とは独身男性のぼやきであるが、ここはなんとしても「おとうさん」でなければならないこだわりがある。

 さて、いまどきの男声合唱ではどんな曲を歌っているか、今回のプログラムからご紹介しよう。まずは「いざ起て戦人(いくさびと)よ」「斎太郎節」「雨」などの男声合唱定番モノ、“Lord, I want to be a Christian”、“Steal away”などに代表される黒人霊歌、「巡礼の合唱(タンホイザー)」「プレギエーラ 祈り(ロッシーニ)」などのクラシック、「見上げてごらん夜の星を」「上を向いて歩こう」などのポピュラー、さらに「明日があるさ」といった流行りの曲がそれぞれに趣向を凝らして演奏された。また、長年の歴史のなかから『おとうさんコーラス愛唱曲集』(埼玉県/宮城県合唱連盟)という曲集も出版され、第二部に全員で歌うときにかならず使われている。

 聴衆はやはり男性中心だが、黄色い声の応援団もいっしょにバスで駆けつける団もある。そんな団は、場内アナウンスで出番を告げられると、女声のハモった声援が客席から沸き上がったりして楽しい。じつに巧い演奏、それほどでもないが心を込めてやっているのが伝わってくる演奏、乗りきって楽しんでいる演奏などレベルも内容もさまざまだ。第一部で男声合唱を堪能したあとは、野外ステージへ場所を移して、いよいよお待ちかねの懇親会である。野外ステージは、5千人も収容できるという、巨大なドーム状の屋根付きだから雨の心配もない。

 司会は、この人をおいて他にないというわけでもなかろうが、ぼくが仰せ付かった。どうやって盛り上げようかといろいろ事前に考えてもみたが、はっきりいえば宴会だから式次第などないし、とにかくぶっつけでやることにした。

 宮寺勇理事長の指揮で「乾杯の歌」を歌いながらビールで乾杯し、第二部がスタートした。まず、わがコール・グランツが口火を切って「最上川舟唄」を披露することにしてあったが、直前に男声あんさんぶる「ポパイ」もいっしょに歌うことに話しがつき合同演奏となった。まぁ定番だからどこでもすぐに歌える曲だが、最後の追い込みのところで一歩まちがえると滅茶苦茶になるむずかしい曲でもある。揃いの鉢巻きをしめ、とりあえずトップバッターとして無事歌い終えた。あとはゆっくり飲んで歌って楽しんでいればよい。司会者を除いては…。

 司会はここからが仕事。時計とにらめっこで、ステージの進行に合わせ、次はどこの団に歌ってもらおうか、元理事長や支部長などの大御所にはいつ指揮をしてもらうか、曲は何にするかなど、飲んでいる連中のあいだを調整に走り回る。やれ女声合唱も聴かせろ、やれ同じ曲を二度やるな、やれあの演奏は長すぎる、などなどたくさんの注文も受けつけながら、同時進行でプログラムを決めていくのである。

 予想外だったというか、うすうす危惧していたというか、心残りはビールや秩父の銘酒を飲むひまがあまりなかったことである。ぼくに司会をやらせたのは、どうもこの辺りに企みがあったのではないかと思う。理事長から届いたねぎらいの挨拶状に「来年はゆっくり飲んでくれ」と書かれていた。

 来年は新潟で開催される予定だ。新潟はいいところである。とにかく酒が美味い。来年もた くさんの男声合唱団が参加してくれることを願ってやまない。



(文芸社ホームページ・バラエティコラム No.70より転載)