M-60



 夏 の 秩 父


 加 藤 良 一

2005年7月13日



 男声合唱の夏祭り、おとうさんコーラス大会の季節がやってきた。この大会は平成2年に埼玉で生まれた。当初は埼玉だけで開催していたが、その後、次第に近隣へと広がって参加団体が増えたので平成6年に関東大会へと拡大、そして16回目を迎えた今年は全国大会へと成長した。
 思えば、この大会はそもそも埼玉県川口市のサッポロビール工場の講堂をお借りして、ついでに出来たてのビールも頂戴してスタートしたお祭りだった。参加者の期待は二部のビアパーティにあることはいうまでもなく、この由緒ある伝統はいまでも引き継がれている。

 昨年は静岡県・浜名湖花博ガーデンパークで開かれたが、今年は会場を埼玉へ移し、秩父ミューズパーク音楽堂で8月6日の土曜日に行われる。ミューズパーク音楽堂は、東京からはちょっと離れた不便な場所であるにもかかわらず、わざわざそこでレコーディングを行う音楽家もいるほど音響が素晴らしいといわれているホール。男声特有の緻密なハーモニーを聴かせられるような、ホールの特性を生かした演奏を期待したい。
 ところで、ミューズパーク音楽堂ホールに据えられているグランドピアノは、タカギクラヴィアという会社が納入したニューヨーク製スタインウェイだそうだ。スタインウェイには、ニューヨーク製とハンブルク製の2種類があり、これまで日本に輸入されてきたスタインウェイの多くはハンブルク製で、ニューヨーク製はきわめて数が限られていたのになぜミューズパークに設置することができたのか。じつはその裏には、スタインウェイの日本総代理店が暗躍していたという話があるのだが、別の機会にゆずる。詳しいことを知りたい方は、『スタインウェイ戦争誰が日本のピアノ音楽界をだめにしたのか』(高木裕、大山真人共著)を読まれるとよい。

 さて、今年はもうひとつ男声合唱と秩父を結び付ける話題があるので紹介したい。YARO会のコーナーでも紹介したのでご存知の方も多いかと思うが、つい先ごろ作曲家の多田武彦先生が『秩父音頭』を男声合唱にアレンジし、YARO会にプレゼントしてくれたのである。いずれYARO会で初演する予定である。
 『秩父音頭』は、元々盆踊りとして秩父地方に伝わっていたようだが、歌詞に卑俗なものがあったため、明治から昭和初期にかけて禁止された時期があったという。それを再興させたのが、秩父郡皆野村(現埼玉県皆野町)の医師であり俳人でもあった金子伊昔紅(かねこいせきこう)という人物。伊昔紅は、短歌雑誌「馬酔木」(あしび)の同人で、水原秋桜子や高浜虚子らと交わりがあったといわれる文人だから、自ら作詞もしたし、一般からも歌詞を募って、『秩父音頭』を誰にも親しめるものにしていった。そのような背景があるから、『秩父音頭』には多くの歌詞がある。

 おとうさんコーラス大会は、呼び物と泣き所が表裏一体の関係にある。つまり、合唱とビアパーティのセットが前提だから、参加団体が多くなると必然的に演奏時間を短くせざるを得なくなる。ただ、ビアパーティでももちろん合唱を楽しむことができるから、その不足分は相殺され、いちおうそれなりの顧客満足度が得られる仕組みにはなっているが、演奏時間が短いのが恨めしい。そんなことから「全国大会」と銘打ってはいるものの、実際に全国各地から集まってもらうにはやはり無理があるだろう。仮に全国から出場団体を募るとしたら、これまた1日で収まるはずもない。演奏時間5分間のために、わざわざ遠くから出かけてもらうわけにはゆかないだろう。もっと別の方法を考えねばならないだろう。
 ネックは、数百人を収容できるような巨大なパーティ会場があるかどうかである。それも演奏会場に近接していないとやりにくい。会場としては、ドイツのオクトーバーフェストが繰り広げられるような場所がベストである。
 いろいろ難しい問題が多いが、発祥の地、埼玉県連では、いずれは札幌のビール園でやろうじゃないかと意気込んでいるのである。
 





音楽・合唱コーナーTOPへ

HOME PAGEへ