約 束

2    後編
「もしもし、川野ですが」
「あっ、立川と申しますが咲季さんは?」
「ちょっとお待ち下さい。咲季〜立川さん」
「もしもし」
「もしもし、咲季?大丈夫なの?」
「ごめんね、一ヶ月も連絡しないで」
「そ〜だよ〜心配してたんだよ〜」
「ごめん」
「それでどうなの?調子・・」
「実菜未、うち来れる?」
「うん」
「じゃあ、話は後で」
「わかった。待ってて」
 
数十分後
トントン
「は〜い、実菜未さんね、どうぞ」
「あの〜お母さんですか?」
「そうなの」
「立川実菜未です、初めまして」
「宜しくね」
「こちらこそむ
「座って、今コーヒー入れるから」
「お母さん、やるからいいよ」
「うん」
「顔色良くなつたんじゃない?」
「そ〜う?」
「うん」
「はいどうぞ」
「すみません」
「お母さんちよっと買い物してくるね。実菜未さんゆっくりして行ってね」
「はい」
「これ見て、中学一年の時の写真。この子私の親友だった子」
「へ〜若いね」
「当たり前でしょ、でもこの子私の前で亡くなったの。病気だった。白血病」
「白血病?」
「そう、でも未由は最後まで明るかった。私夕方毎日この子のところに行ってたの。私良くわかった。未由の辛さが」
「咲季、何言ってるの?」
「私の病名は急性骨髄性白血病」
「うそ・・咲季が白血病?嘘でしょう!そんな・・」
「実菜未、今は元気になってる人沢山いるんだよ。未由は残念ながら助からなかったけど」
「それで今家にいても平気なの?」
「一回治療したの。今は外泊ってだけでまた病院に戻るよ」
「治療って何するの?」
「抗ガン剤を点滴で投与するだけ。吐き気とかひどいけど何とかやってるから。髪の毛だってほらっ・・」
「咲季・・・」
「何で泣くの、やめてよ。別に私辛くないよ。未由の事思ったらちっとも辛くない」
「ごめん」
「・・・」
「陽介くんには言ったの?」
「別れた。と言うより振られた・・かな。うちのお母さんが言ったみたいでそしたら電話使われてなくて」
「・・・」
「大丈夫だよ、そんなの。そういう奴だったんだって思ってるだけだから」
 
未由もこんなふうに強がっていたのか。本当は辛くても我慢していつも明るく私と接していたのか・・
未由の気持ちがわかる今、本当の涙が流れる
 
「咲季、泣いてるの?」
「泣いてないよ。泣いてない」
 
次の日から実菜未は本を読んだり色々と勉強するようになった。あの時の私と同じように
 
4日後・・
私は病院に戻った
「どうでした、外泊は?」
「やっぱり我が家が一番ですね」
「そうだよね〜」
主治医が言った
「またすぐに治療が始まるけど今度は一週間だから白血球が上がるまで一回目みたいに時間はかからないと思うよ。二週間くらいかな」
「そうですか」
「咲季!」
「実菜未・・」
「お友達・じゃあ退散するね」
「すみません」
「ごゆっくり」
「私白血病について色々勉強したのね。それでさ〜」
「ありがと」
「何いってんの!それでね〜」
白血病の事をちゃんと理解しようと必死な実菜未。あの頃の自分を思い出す
未由のため・・何かしたい
ちゃんと病気のことを知りたい・・
13歳ながらにそんな事を思っていた自分。未由はそんな私をどう思ったのだろう・・・
それから私は治療を続けて行き、一年が経とうとしている
「咲季ちゃん退院だね、おめでとう」
「ありがとうございます」
 
退院・・長かった一年・・
病院の帰り、私は未由のお墓に行った
「未由、咲季だよ、ごめんねずっと来れなくて。私も未由と同じ病気になっちゃった。でもね、あの頃の未由がいたから私頑張れた。ありがとう・・未由それとね、約束果たせなかった。ごめんね、許してね」
未由は空が大好きな女の子だった
死ぬ前も空を見ていた
私も空を見上げる
 
(松任谷由実さんの”ひこうき雲”の詩が入る)
 
それから私はアルバイトをしながら大学通うようになった
二週間に一度の外来に通いながら後は普通の生活を送っていた
 
生きている事の喜びをまた実感している
私は今、未由との約束を果たす
未由、今日もいい天気だよ。ちゃんと約束守るからね
 
トントン
「あ〜実菜未」
「元気そうだね」
「おかげさまで」
「で、どうしたの?今日は」
「うん、お願いがあるの。ま〜上がってよ」
「お邪魔しま〜す」
「前に言った未由の事なんだけど、男子達に色々言われたりして未由ねっ、亡くなる時に私に言ったの。咲季、私が死んだらみんなに教えてあげて。私こんなに辛かったんだ。こんなに辛い治療に耐えてきたんだ。未由は頑張った。精一杯生きたって言ってほしいって。私、約束したの、未由と・・
けど言えなかった。約束果たせなかった。だから一緒に大学でみんなに伝えて欲しいの。あの頃の男子達はいないけど沢山の人に伝えたい。だから手伝って、実菜未」
「わかった、やりたい、私もやりたい」
「ありがとう」
 
私たちはまず白血病の事をもっと知ってもらうため、パンフレットを作った。そして私たちは大学で講演会を開いた。私が白血病だと言うことは誰も知らない
 
「私は大学二年の時に急性骨髄性白血病になりました。白血病は昔は不治の病とも言われましたが今は元気になっている人たちが沢山います。決して治らない病気ではありません。皆さんの周りにもし白血病の人がいたらどうしますか?もし彼が、彼女が、友人が白血病たただったらどうしますか?絶対に応援してあげてください。白血病の治療はとても辛く厳しいものです。薬の副作用で髪が抜けたり吐き気に襲われます。そんななかでもしも応援してあげられなかったら患者はもっともっと辛く苦しい毎日を送る事になってしまいます。九年前中学一年の頃、私の親友が白血病で亡くなりました。彼女は元気なときに一度だけ学校に来たことがあったんです。「こいつ白血病だろ〜」「病気だぜ〜」などと言われ彼女は「病気だからって何が悪いの!!」と大声で叫び飛び出してしまいました。それ以来彼女は学校へ来なくなりました。病気の人は健康な人と何か違うでしょうか?彼女はいつも明るかった。本当は辛くて辛くて仕方なかったはずなんです。それでも最後まで明るく精一杯生きました。吐き気に耐え、痛みに耐えそして末期の頃は自分は死ぬんだとわかっていながらあかるきく振る舞っていた彼女の気持ち・・
病気は白血病だけではありません。他にも色々な病気と闘ってる人が沢山います。病気と闘いながらみんな一生懸命生きています。人は誰でもいつどうなるかなんてわかりません。何年後皆さんのうち誰かが白血病に、他の病気になるかも知れません。そんな時周りの人たちにぜひ応援してもらいたいです」
 
伝えたい事がみんなにうまく伝わったかどうかはわからない。けど少しでもわかってくれたら
 
未由との約束も九年後の今やっと果たすことが出来た
私はまた空を見上げる
未由色々ありがとね
約束果たすの遅くなっちゃってごめんね
未由はいっぱいいっぱい辛い思いしたけど、未由のおかげで沢山のひとたちに伝える事ができたよ
これからも沢山の人たちに伝えていくからね
 
「ありがとう、咲季」
 
今、未由の声が聞こえたような気がした
 
「ありがとう」
 
そう今のは幻聴ではない・・・
確かに未由の声だった・・・
 
END
 



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