K-23
語彙の日
加 藤 良 一
2007年5月29日
5月1日は労働者の祭典 「メーデー」 とばかり思っていたら、新しく 「語彙の日」 という記念日にもなっていた。昨今の若者、いや若者に限ったことではないが、日本人の日本語力低下は目に余るものがあると日ごろから気にしているので、この種の記念日は大いに賛成である。
「ゴイって何ですか?」
「え、そんなこと知らないの!」
「聞いたことないっスよ。」
「しょうがねぇな。じゃボキャブラリーって言ったらわかる?」
「あ、ボキャ天のことですね。それならわかります。」
「……! 何だそりゃ?」
「えー、知らないんスか? タモリがやっているボキャブラリー天国ですよ。」
「なるほどそーゆーことか。まぁ多分それと同じだ。」
「語彙」 を辞書(大辞林)で引くとつぎのように書かれている。
(1)ある一つの言語体系で用いられる単語の総体。言語体系をどのように限るかによって、内容が変わる。日本語という限り方をすれば、日本語の単語全体を意味し、漁村・農村あるいは特定の職業など、ある領域に限れば、その領域内で使われる単語の全体を意味し、ある個人に限れば、その人の使う語の総量を表す。「漱石の──」 「──が豊富だ」
(2)単語を集め、一定の方式に従って順序立てて並べたもの。解釈の付けられているものが多い。「近松──」
最近、会話能力に欠ける若者が増えていることが問題視されている。ある人材教育コンサルタントが、新入社員研修会で、自分の名前を楷書で書くよう参加者に指示したところ、何人かの手が止まってしまった。どうしたのか尋ねると 「カイショって何ですか?」 と質問された。そこで、ホワイトボードに 「楷書」 と書いたが、さらに 「その“楷書”って何ですか?」 ときた。
そうかと思えば、質問したいのだがどう表現したらよいかわからず、頭の中にある疑問を適切な言葉で表現することができない若者が増えているという。どうすればきちんと質問できますか、と悩みを打ち明けるそうだ。
そのコンサルタントは、若者が理解できようができまいが、とにかく遠慮せずにどんどん難しい言葉を投げかけ、憶え込ませる必要があると締めくくっていた。そうは言っても、ふだんの会話だけで語彙力や表現力がそう簡単に高まるものでもないだろう。そこは、少々時間はかかるかも知れないが、まずは、すこしでも多くの本を読むことである。活字離れが叫ばれて久しいが、これはなにも若い人だけの問題ではない。
閑話休題。ところで、新たな記念日は日本記念日協会という組織が認証、登録するものであることをあなたはご存知だっただろうか。思い思いに 「○△の日」 と名づけるのはもちろん勝手だが、それだけではなかなか世間に認知してもらえるものではない。そこで、日本記念日協会がしかるべき基準に則って審査し、妥当と認めた場合に登録し、世間に広く公表しようというシステムがある。ちなみに登録料は1件5万円也。
「語彙の日」 はいうまでもなく、語(5)彙(1)にこじつけたもので、旺文社の生涯学習検定センターが実施している 「実用日本語語彙力検定」 の宣伝のために2007年3月に制定されたという。
さて、ついでに 「おにぎりの日」(毎月18日) と 「おむすびの日」(1月17日) という紛らわしい記念日を紹介しよう。「おにぎり」 と 「おむすび」 はどう見ても同じもののはずだが、いずれも日本記念日協会に正式にそれも別々に登録されている。
「おにぎりの日」 は、石川県鹿西町(ろくせいまち)の杉谷チャノバタケ遺跡(弥生時代)から日本最古の 「おにぎりの化石」 が発見されたことにちなんでいる。鹿西のロク(6)と、毎月18日の 「米食の日」 とを合わせたというが、「米食の日」 は登録されてはいないようである。鹿西町が 「おにぎりの里」 としての地域おこしのために制定したもの。
いっぽう 「おむすびの日」 は、阪神淡路大震災でボランティアによるおむすびの炊き出しが人々を大いに助けたことから、いつまでもこの善意を忘れないために大震災の発生した1月17日を記念日としたもの。「ごはんを食べよう国民運動推進協議会」 が、ごはんのおむすびだけでなく、人と人との心を結ぶ 「おむすびの日」 を公募して制定した。ご飯粒のついでに 「ちらし寿司の日」(6月27日)、「手巻寿司の日」(9月9日)、「回転寿司記念日」(11月22日)、「いなりの日」(毎月17日)もあることを記しておく。
<関連資料>
何気に使う“ナニゲニ” (K-20) 加藤良一
文字・活字文化の日 (K-16) 加藤良一
ことばを知らない私たち (K-6) 川村修一
日本語を乱しているのは誰か? (ことば欄 2002年8月18日) 加藤良一