一年が経ち、尼僧院に思わぬ客が訪れた。従弟だった。お忍びで帰省するのだと言う。
子の行方を訊かれたが、妹は答えなかった。
「オレたちの子だよ」
従弟は訴えた。
「では、その前に、私を妻として、南の国へお連れくださいまし。そうしたら、子を呼び寄せますわ」
「それはできない」
従弟は言った。
「オレは結婚したんだよ」
亡命先のドーンで世話になっている人の娘だという。年上で知的で色っぽい人だと、訊ねもしないのに、うれしそうに話した。向こうから誘ってきたのだとも言った。
「一度ヤっちゃったら、男としては責任とらなくちゃいけないだろ。だからさ」
しかたがなかったんだ、と言う。
「許してくれ」
と、従弟は言った。
「オレは、君にも責任があるのに。果たせないオレを許してくれ」
泣きついた。
この人は、どうしてしまったのだろう、と妹は思った。
昔は泣き落としなどする人ではなかったのに。
「とうに許していますわ。お帰りください。もう二度とこないで」
「オレは償いをしなくちゃいけない。一生をかけて償うよ」
妹の膝に身を投げだして泣いた。
償いなどいいから忘れてと言えば、忘れられない、事実は事実だと返される。新しい人生を歩みだしたのだからと言えば、捨てないでくれとしがみつく。捨てたのはそちらのほうだと言えば、悪かった、責任はとると抱きしめる。責任などとれるわけもないし、どうでもいいと言えば、愛している、本心から愛しているとくり返し、涙ながらにキスをする。慰めるうちに一夜を明かす。朝になれば、従弟は気もそぞろに出ていく。
そんなことが、年に二、三度くり返された。
自分は何をやっているのだろう、と妹は思った。