【第160回】

 

〜 リュウイン篇 〜
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
24章 北方の姫君(三) ……その5

2009.5.6

 

 一年が経ち、尼僧院に思わぬ客が訪れた。従弟だった。お忍びで帰省するのだと言う。

 子の行方を訊かれたが、妹は答えなかった。

「オレたちの子だよ」

 従弟は訴えた。

「では、その前に、私を妻として、南の国へお連れくださいまし。そうしたら、子を呼び寄せますわ」

「それはできない」

 従弟は言った。

「オレは結婚したんだよ」

 亡命先のドーンで世話になっている人の娘だという。年上で知的で色っぽい人だと、訊ねもしないのに、うれしそうに話した。向こうから誘ってきたのだとも言った。

「一度ヤっちゃったら、男としては責任とらなくちゃいけないだろ。だからさ」

 しかたがなかったんだ、と言う。

「許してくれ」

 と、従弟は言った。

「オレは、君にも責任があるのに。果たせないオレを許してくれ」

 泣きついた。

 この人は、どうしてしまったのだろう、と妹は思った。

 昔は泣き落としなどする人ではなかったのに。

「とうに許していますわ。お帰りください。もう二度とこないで」

「オレは償いをしなくちゃいけない。一生をかけて償うよ」

 妹の膝に身を投げだして泣いた。

 償いなどいいから忘れてと言えば、忘れられない、事実は事実だと返される。新しい人生を歩みだしたのだからと言えば、捨てないでくれとしがみつく。捨てたのはそちらのほうだと言えば、悪かった、責任はとると抱きしめる。責任などとれるわけもないし、どうでもいいと言えば、愛している、本心から愛しているとくり返し、涙ながらにキスをする。慰めるうちに一夜を明かす。朝になれば、従弟は気もそぞろに出ていく。

 そんなことが、年に二、三度くり返された。

 自分は何をやっているのだろう、と妹は思った。

 

 

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