翌朝、荒々しい足音で目が醒めた。
「なんてこと!」
女の叫び声で飛び起きた。
「おまえたち、何をしたのかわかっているの!」
「私たちは愛しあっているのです」
隣で上半身をあらわにしたまま従弟が答えた。
「今まで、おまえたちはそんな仲ではなかったでしょう」
伯母が従弟に近寄った。
「母上が、ミルヤをよく思っていないのは承知しています。しかし、私は愛しているんです」
この人は、何を言っているのだろう、と妹は思った。
夜じゅう、何度ティーニと叫び、ささやいたことか。
それは、女教師の名前だった。
「明け方、王太子妃殿下はお亡くなりになりました」
伯母はゆっくりと言った。
「ひと月喪に服します。それが明けたその日に、王太子殿下は、妃を迎えられます。国王陛下は命ぜられたのですよ。ミルヤを妃に迎えると」
やっぱり、と妹は思ったが、顔が蒼ざめていくのを止めることはできなかった。
「でも、もうこうなってしまった以上は、しかたありません」
伯母は怖い顔になった。
「支度なさい。急いで」
早朝のことで、みなを起こさないよう気遣いながら、マントを頭からかぶせられた状態で馬車に乗りこんだ。
「おまえたちには、遠くへ行ってもらいます」
馬車の中で伯母は言った。
「ほとぼりが冷めたら、すぐに呼び寄せるからね」
いくらも行かないうちに伯母は馬車を降りた。
「怪しまれないよう、私は先に帰ります。おまえたちはこのまま行きなさい」
そして、従弟と妹にキスをした。
幾晩も馬車は走り続けた。
宿で休むたび、従弟は妹を求めた。不愉快な名は数えればキリがないほどくり返されたが、始まりと終わりには、従弟は必ず、愛しているのだから。必ず責任はとるから。と言った。
今はまだこんなだけれど、と妹は思った。この人は私を必要としている。それに、あの女教師とは二度と会えない。じきに忘れるわ。
勝った、と思った。
馬車は長い間走った。
半月ほどして、妹は具合が悪くなり、先へ進むことができなくなった。
伯父は妹を最寄りの尼僧院に預けた。
「必ず迎えに来るよ」
従弟は泣きながら妹を抱きしめた。
そして、別れ際に
「オレの宝物だよ。オレだと思って持っていておくれ」
と、何かを妹に握らせた。それは髪留めだった。石と木の実で作った美しいもので、妹には見覚えがあった。それは、女教師の髪にあったものだった。