妹にせかされて、従弟は学友を呼んで別荘へ出かけた。
道中、妹は学友たちに媚びた笑いを向け、そばに寄り、体に触れた。
しかし、従弟は窓の外をぼんやり眺めるだけで、混じろうともしなかった。
きっと、女教師のことでも考えているんだわ、と妹は思った。
別荘では釣りをし、栗やきのこをとった。夜になると、酒を飲み、歌い、奏でて踊った。旅の吟遊詩人を途中で拾ったので、歌わせた。
倍ぐらいの年の男で、胸は厚く、むきだしになった腕は太く、妹の腿ほどもあった。目は注意深くようすをうかがい、客に頼まれる前に望みの曲を奏でた。
この人がいい、と妹は思った。
「お部屋まで送ってちょうだい」
背に寄りかかり、ささやくと、詩人はうなずいた。
部屋に入ると、妹は酒を用意し、当然のように詩人のあぐらの上にすわった。
「旅のお話をしてちょうだい」
詩人は竪琴なしで、歌うようなリズムで語りだした。
子守歌みたい、と妹は思った。
うとうとした。
人に触れているのは、なんて心地よいのだろう。
遠い国の夢を見た。見たこともない石造りの街並み、石畳みの上を馬がカッカッと駆けてくる。乗っているのは青いマントのパーヴの王弟。白い歯がまぶしい。自分に向かって手をさしのべる……。
「旅に出たいわ」
妹はつぶやいた。
「遠くへ連れていって」
それから、何かまぶたの裏が赤いのに気づき、目を開けた。
まぶしい。暗闇の中にランプの灯り。
体を動かすと、ぎしりときしんだ。いつの間にかベッドに横たわっていたらしい。
「よりにもよって、あなたは」
従弟の声が真上から降ってきた。
「友人から選んでくれれば心から祝福できたのに。あんな男を選ぶなんて」
少し、ろれつが回らないようだった。
灯りもふらふら揺れている。
「あんな男、愛してなんかいないくせに」
ランプのふたが開き、ひと息。
部屋は闇に没し、ベッドがさらに大きくきしんだ。
愛してなんかいないクセに。と、妹は思った。