M-11







コンクール
あるいは コンテスト 審査について






松 村 一 夫


2002年4月18日

 


 

 

 「コンクール・こんくーる」 (M-4)の中で、加藤さんが紹介している青木さんのご意見に出てくる 「審査結果の発表」 と 「審査員の再審査」 について少し考えてみた。
 「『審査結果の発表』 は、最近ではよく行われているが、『審査員の再審査』 はまだこれからというところである。」 というところで議論を切り上げておられるが、ここまでの議論ではどうもまだ先は長い。筆者は 「コンクール」 より 「コンテスト」 の方が表現として馴染んでいるので、以下 「コンテスト」 の 「審査」 として、もう少し先まで話を進めてみよう。


キログラムとメートルの換算
 コンテストで、審査をして順位付けをする、というのは何らかの尺度をもって比較するのだから、「尺度」 が判ることが青木さんの提案の隠れた本質の一つの筈である。即ち 「コンテスト・ルールとして評価の尺度の明示」 が必要となる。しかし、現実の問題としてこの 「尺度」 は一つではない。
 例えば文中の 「学校での議論」 のところに 「発声、テクニック、音楽性、マナーの四つの区分で評価」 とある。この4つの区分で採点したとして、総合判定をするときに、その重み付けはどうするのか。あるいは、それぞれの区分の中では、どの程度の違いがとう評価されるのか。
 コンテストに限らず、ものごとの 「評価」 で難しいのは、一つは何処かで 「『1 キログラム』と『メートル』はドチラが偉いんだ」という問題が出てきて、これに納得できる換算基準を示さなければならないことであり、もう一つは実績と可能性のどちらを重要視するかである。
 難しいところだが、コンテストを魅力あるものにするためには、この 「異なるカテゴリーの尺度をどのように換算するか」 を 「コンテスト・ルール」 として明示することではないだろうか。そうすれば、結果として 「このコンテスト・ルールだったら出てみたい」、あるいは 「これじゃ面白くないので出る価値がない」 として淘汰が進むのではないか。今は 「尺度」 が釈然としないので、後者ばかりでコンテスト離れが進んでいる。

昔は俺がルール・ブックだといった審判もいたが
 今のやり方というのは、「尺度換算表」 の代りに 「審査員」 を事前発表するやり方だから、「審査結果」 が数値化されて発表されても、結局は尺度が不明で良くわからない。「尺度」 は 「審査員の音楽性の総体」 として推定するしかないから、「コンテスト審査員の作曲・編曲した曲を演奏したがる」 等の、合唱の本質から見ると、まことに意味不明の現象が起こる。
 一方、「審査員の再審査」 も 「明示されたコンテスト・ルール」 がなければどうやって 「客観的な再審査」が出来るのだろう。「ある審査員の個人的な好み」 が気に入らないということを 「別の個人の個人的な好み」 から批判するだけの事になりはしまいか。ソルトレーク・シティのフィギュア・スケートで審査員が糾弾されたのも、ルールから見た採点結果の異常値として取り上げられたのであって、単なるお国びいきだけでは水掛け論から先へは進めない。

ただいまの審査についてご説明します
 野球でも相撲でも判定がだいぶアカウンタブルになってきた。合唱のコンテストでも、「審査員の再審査」 より手をつけやすく有効そうなのは 「審査内容の説明」 である。コンテストで比較するには、尺度が公開されているにせよ、いないにせよ、審査員はある理想像に対して 「加点ないしは減点して」 順位付けをするのだから 「その加点の理由、減点の理由」 を説明できるはずである。

何のためのコンテスト参加か
 プロにとっては有名になるための登竜門としてしか位置付けはないかもしれないが、アマチュアにとってコンテストとは「より上手くなるための専門的アドバイスをもらえる」貴重な場でもあるはずだ。
 アマチュアの合唱団は、もっと上手くなりたいから、あらゆる場面で前向きのアドバイスを渇望している。コンテストでなく、演奏会でも必死になってアンケート用紙を配り、聴衆の書いてくれたことに一喜一憂しない合唱団があるであろうか。審査員は 「少し特殊な聴衆」 であるが、そのより専門的な見地からのアドバイスが、その合唱団の進歩に繋がらない筈はない。そして 「審査結果の発表」 とは本当はここまで行って一丁あがりの筈で、採点結果の発表だけでは、路半ばである。


少しだけ宣伝
 書き始めればキリがないので、今回の議論はこの辺で止めておくが、関連する議論を追いたければ、筆者が菅野さんと共著した 「バーバーショップ・ハーモニーへの招待」  を改めてご一読あれ。
 あの本のテーマは、まず第一にはバーバーショップ・ハーモニーに親しんで頂きたい一念だが、「審査と審査員」 について追っていけば、今回のテーマについても 「考えるヒント」 となることが随所で議論されているはずである。勿論 「審査結果の説明」 も 「審査員の再審査」 もトピックスとして取り上げているし、「審査員の人物像」 や 「審査制度の変遷」 についても相当ページを割いた。バーバーショップ・ハーモニー協会の場合は、よりよい審査制度の構築が協会の主要活動の一つとなっている。
 お手元にない方は、最近ではヤマハ銀座の地下楽譜売り場にストックがあるので売り場でお尋ねを。




文中に出てくる「バーバーショップ・ハーモニーへの招待」は本コーナー(音楽/合唱)でご紹介しています。
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