読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 1999年03月

『原爆をつくった科学者たち』, J・ウィルソン 編
『輝く永遠への航海 上・下』, グレゴリイ・ベンフォード
『地下鉄に乗って』, 浅田次郎
『どちらかが彼女を殺した』, 東野圭吾
『私が彼を殺した』, 東野圭吾
『神の鉄槌』, アーサー・C・クラーク
『盗聴』, 真保裕一
『リボーン』, F・ポール・ウィルスン
『造物主の掟』, ジェイムズ・P・ホーガン
『造物主の選択』, ジェイムズ・P・ホーガン
『オンリー・イエスタデイ』, 景山民夫

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『原爆をつくった科学者たち』 J・ウィルソン 編
岩波同時代ライブラリー 本体:874円(90/11)、★★★☆☆
 マンハッタン計画に従事した12人の科学者たちの原爆開発の回想録。過去に何度か途中まで読んで挫折していたのを新たに2ヶ月ぐらいかけて読んだ。アンダースン&ビースンのSF『臨界のパラドックス』を読んで興味が向いていたのが良かったのだろう。
 執筆者は「サイエンス」誌編集者、カリフォルニア大学バークレー校物理学教授、フェルミ国立加速器研究所所長などとなっているが、私が名前を知っているような科学者は書いていない。登場する有名な科学者はフェルミ、オッペンハイマーなどで、先日死去したグレン・シーボーグも人名索引を見たら出ていた。
 12編がそれぞれの立場での回想録なので重複が多いのと、理解しにくい文章を書く人がいるので読み通すのが結構つらかった。しかし、当時の核研究の現場を良く伝えていて興味深い。兵器としての有効性が分かると、実験道具を自費で買う状態から、膨大な研究費を注ぎ込める状態に変化する。当初から日本に向けて使われる予定で開発されていた様に読めたのだがどうなのだろう。筆者たちが開発した核兵器によって多くの命が失われ、放射能で苦しんでいる人がいる事をどう受けとめてるのか、ほとんど記述が無い事が不思議に思える。この科学者たちがおもちゃを与えられた子供のように幼く感じられた。  

『輝く永遠への航海 上・下』 グレゴリイ・ベンフォード
ハヤカワ文庫SF(SF1194,SF1195) 本体:各740円(97/6)、★★★☆☆
 『夜の大海の中で』(SF658)、『星々の海をこえて』(SF662)から続く有機生命と機械文明との戦いを描いたシリーズ最終作。導入にあたる二作品に続いてビショップ族とメカの戦いを描いた『大いなる天上の河』(SF805,806)、『光の潮流』(SF879,880)『荒れ狂う深淵』(SF1121)がある。
 銀河系の中心のブラックホールに突入したビショップ族はそこで人類の生き残りに出会う。ビショップ族のトビーはナイジェルから人類史を聞く。ナイジェルは最初の二冊の主人公で、ここで何千年という時を生きてきたのだ。メカとの戦いもゆっくりと最後の時を迎えつつあった。
 有機生命と機械文明との戦いというと〈バーサーカー・シリーズ〉を思い出すが、それより重厚で難解な作品。メカとかの言っている事とやっている事が必ずしも一致しないのが気になる、それが互いに理解しあえない部分なのかとも思うけど分からない。巨大ブラックホールの中の時間の流れとかを計算して書いているらしいが、時空の壁に人間が町を作り日常生活を送っている。その間の現実感はどこへいったのだろう。余り難しく考えずにぼーっと読むのが良いかも。  

『地下鉄に乗って』 浅田次郎
徳間文庫 本体:514円(97/6)、★★★☆☆
 地下鉄には“メトロ”とルビがふってある。『鉄道員』に“ぽっぽや”とルビをふった短編集の作品が相次いでドラマ化、映画化されている浅田次郎さんをはじめて読んだ。
 戦後の焼け跡から急成長した会社の社長の次男・真治は家を出て結婚しどうにか生活していた。クラス会で不快な思いをした日、地下鉄のホームでかつての教師に出会う。その会話から今日が地下鉄に飛び込んで自殺した兄の命日だと思い出す。地下鉄の階段を出るとそこは30年前の東京だった。
 信じられない事態への適応が早いのに驚いたがファンタジーだと納得する。憎む父に似ていると言われる自分に苛立つ真治の気持ちが痛い。その父の一生を知っていき、徐々に理解をしていく姿が感動的だ。ラストのファンタジーらしい理由付けも話に合っていて良かった。  

『どちらかが彼女を殺した』 東野圭吾
講談社ノベルス 本体:780円(99/1,5刷)、★★★★☆
 96年に出て最後まで犯人が明かされないミステリーとして評判になったらしい。加賀刑事の登場する作品でもある。  不審な電話を最後に東京で暮らす妹の連絡が途絶える。東京に向かった愛知県警交通課の和泉は自殺している妹を見つける。部屋を調べ他殺を確信した彼は、その証拠を隠して復讐のため犯人探しを始める。しかし、彼の考えを推理した加賀刑事が立ちふさがる。
 読者に挑戦している話だと知っていたので普段より気を配って読んだ。すっきりとした舞台で分かりやすく書かれているので、推理に集中できて良い。物語的にも警察官同士の対決が盛り上がっていくのが面白い。殺しの動機が弱いので、他殺に見せかけた自殺だと予想していたら、最後の方で納得する動機が出てきて「どちらかが彼女を殺した」状態になる。動機は妹を悪人にしすぎると話を壊してしまうからこの辺がぎりぎり。
 犯人当ては、読み終わった時点で重要なヒントは理解できたけど犯人は解らなかった。少し考えて、閃いて、確認、おおっ。ほんの短い描写が決め手とは、あれでAは犯人ではない。書いているとき目立たせないように苦労しただろうなあ。次はこれより難解だと言われている『私が彼を殺した』に挑戦だ。
ネタバレ推理  

『私が彼を殺した』 東野圭吾
講談社ノベルス 本体:800円(99/2)、★★★★★
 かつての人気作家・穂高と人気の詩人・神林の結婚式で新郎が毒殺される。穂高と結婚の約束があった女性が毒のカプセルを作って自殺し、彼女のカプセルを手に入れた人物が事件の周辺に三人いた。三人共に動機が存在し「私が殺した」と思っている。加賀刑事は犯人を絞れるのか。
 『どちらかが彼女を殺した』の姉妹編でやはり犯人の名前は明かされない。犯人は指定されないが通常のミステリーでの解決編にあたる物は存在するし、そこで加賀刑事がどこに注目したら良いか指摘してくれる。容疑者の三人が交代で一人称で経過を語る中で「私が殺した」とつぶやくのだ。それがラスト近くでドンデン返しになったときは驚いてしまった。三時間以上使ってある方向に推理を進めたが手詰まりになって、考え直したら正しい方向が見えてほっとした。シンプルな満足できる解答がでたので、これが正解じゃなくてもいいや。前作が重要な一言に気づくかどうかだったのに比べて奥が深いと思った。
 東野さんは大変だったのでこれで最後かもと書いているが、一冊の本にこんなに気持ちを集中させた事がない、とても面白かったのでこれからも続けて欲しい。
ネタバレ推理  

『神の鉄槌』 アーサー・C・クラーク
ハヤカワ文庫SF(SF1235) 本体:600円(98/7,2刷)、★★★☆☆
 2109年、土星軌道を通過して太陽系に接近する小惑星をアマチュア天文家が発見する。報告された小惑星が8ヶ月後に地球に衝突する事が判明、「スペースガード」計画により予てから設計の進んでいた「アトラス」を使って軌道を変えようとするが……。
 地球に小惑星が衝突するという話に未来予測が加わったような内容に、これは『新版・未来のプロフィル』かと思った。過去の隕石落下の話、宇宙開発の歴史、シン船長の半生が短く挟まれる。本筋と直接関係なさそうな事でも割と丁寧に未来史を描いている。月面でのフルマラソンなど奇抜な発想に感心させられた。月面に人が定住するようになれば、クラークが書いたといって意外に早く実現するのだろう。本筋の方は章が短くて乗れず、クライマックスもあっさりしていて物足りなかった。  

『盗聴』 真保裕一
講談社文庫 本体:467円(98/1,5刷)、★★★☆☆
 表題作の中編一編と四短編を収録、いずれもミステリー。

「盗聴」は盗聴機探査の会社の話。社員たちが政治団体の事務所に盗聴機が仕掛けられている事に気づき探査に乗り出して殺人事件に巻き込まれる話。乱歩賞受賞第一作の短編に加筆しての中編化だそうだが、何か物足りない感じもする。長編の題材かも知れない。

「再会」は夫の浮気を知って妻が自殺をする。病院に集まってくる友人の中の誰かが密告者ではないかと疑う男。嫉妬深い不気味な妻か、夫を愛するかわいい妻か中途半端。

「漏水」は漏水を調べに来た水道局の男が妙な話を始める。あのことを知っているのかと緊張する二人。不気味な展開がいい。

「タンデム」は国際A級に昇格間近のライダーが忌まわしい過去を振り返る。事件の後味の悪さと爽やかなラストが合ってないかも。

「私に向かない職業」は二百億もの借金を抱える男のもとを訪ねると何者かに刺された後だった。私は警察の取り調べを受ける事になる。ハードボイルドのパロディもの。さえない主人公の脱力感に味がある。

分厚い長編が多い真保さんは短編は苦手なのか、題材にセンスを感じるけど切れ味がイマイチ。  

『リボーン』 F・ポール・ウィルスン
扶桑社ミステリー文庫 本体:699円(95/12)、★★★★☆
 読み残していた〈ザ・ナイトワールド・サイクル〉の最後の一冊。最後と言っても順番で読んでいないのでシリーズ通じて真ん中あたりの作品。
 ノーベル賞受賞の遺伝学者が飛行機事故で死亡し、売れない作家ジムがその遺産を相続する事になる。孤児だったジムはその遺伝学者が自分の父親だと思ったが遺書には記述がなかった。ジムは厳重に隠された日記を見つけ出し恐るべき事実を知ってしまう。
 既に〈ザ・ナイトワールド・サイクル〉シリーズの全ての邦訳が出ているのでタイトルを書いておく。

『ザ・キープ 上・下』扶桑社ミステリー
『マンハッタンの戦慄 上・下』扶桑社ミステリー
『触手(タッチ) 上・下』ハヤカワ文庫NV
『リボーン』扶桑社ミステリー
『闇の報復 上・下』扶桑社ミステリー
『ナイト・ワールド 上・下』扶桑社ミステリー

 始めの三冊はシリーズを意識していない様だが、本書と『闇の報復』から『ザ・キープ』の続編になっている。最後の『ナイト・ワールド』ではシリーズ中の登場人物が次々集まってきて大団円を迎える。読む順が違っても興ざめする事なく楽しめた。まだ闇と光の戦いは序盤を迎えただけだけど、ウィルスンのストーリーテイラーぶりが発揮されていて飽きさせない。読み進むにつれぐんぐん引き込まれていった。シリーズ中でどれが一番面白いだろうかと考えたが、一作毎にすごく雰囲気が違うので決めにくい。『触手』は一番好きな話だし、『ナイト・ワールド』も集大成だから面白くない訳ないし、本書も『闇の報復』もいい。端役のニックは神父が世話をする孤児のひとりで、主流には何も関係してこないが天才ぶりが憎めなくて好きだ。  

『造物主(ライフメーカー)の掟』 ジェイムズ・P・ホーガン
創元推理文庫 本体:680円(85/9)、★★★★☆
 続編の『造物主の選択』を読み始めて、参考にしようと出してきて結局読み直してしまった。それにしても14年前の発行とは驚いた、もうそんなになるのか。
 百万年前の異星の探査船が土星の衛星タイタンに自動工場を建造した。事故の影響で不完全なその工場は単純な工作機械に進化の可能性をもたらした。百万年後、地球では火星に向かう計画で心霊術師を含む派遣団が組まれたが本当の目的は伏せられていた。
 プロローグをはじめて読んだときにとても興奮したのを覚えている。自意識を持った機械知性体が暮らす世界が成立していく過程が描かれている。SFの基本のひとつと言っていいような魅力的な設定なのにこんな話をまだ読んだ事が無かったからだ。今回は冷静に読んでみて、機械人の生活・文化が人類のパロディなのが残念に思った。無理矢理に人類と同じにするのではなく、こういう所は違うというのが書かれていた方が、真実味がでて面白かっただろう。地球とタイタンの環境の違いも生かしていたら完璧だった。それでも偽心霊術師ザンベンドルフの魅力が作品を支えてる。トリックは興味深いし、心理学者マッシーとの対決も楽しい、途中マッシーと理解し合うのに感動した。読者をうまく引き込んでいく事に成功している。
 続編のオビによるとこの本の現在の価格は920円。  

『造物主(ライフメーカー)の選択』 ジェイムズ・P・ホーガン
創元SF文庫 本体:800円(99/1)、★★★☆☆
 土星の衛星タイタンでは百万年前の自動機械から進化して機械人が都市を築いていた。その巨大な生産力を独占する企てを偽心霊術師ザンベンドルフらが未然に防ぎ、人類と機械人は友好関係を築いた。機械人を生み出した異星人の解明がザンベンドルフの知らぬ所で進んでいた。
 心霊術師のザンベンドルフの奇術と種明かしは健在、新たなトリックを披露している。話は途中から惑星タールの異星人ボリジャンの話に移り、どのような経過で探査船が送られたかが描かれる。調査して異星人の事が徐々に判明していく謎解き物を期待していたので少し残念。
 この異星人たちは他を出し抜く事に生きがいを感じるという奴等。このやり取りが一番の読み所だけど、これで彼らに出し抜かれる地球人というその後の展開が予測できてしまう。それが悪い訳でもないけど、何が出てくるかわからないソウヤーとは対照的だと思った。でもまあ、異星人がどうやって地球人を出し抜くのかと楽しみにしていたら、拍子抜け。その後の策も説得力足りないし、最後にもう一回やるのには本当にがっかりした。  

『オンリー・イエスタデイ』 景山民夫
角川文庫 本体:476円(H10/8)、★★★★☆
 著者に名前の似た神山公夫を主人公にした青春小説。1961年の中学3年から1964年の高校3年までの全四章の長編だが、一編毎に独立して読めるので連作短編の様でもある。
 親元を離れ伯母の家から進学校に通う公夫は自作の火炎放射器を学校に持ち込んだという変わり物。 映画「ウェストサイド物語」やジャズを愛し、アメリカでの生活を夢見る公夫が背伸びして経験するジャズ喫茶、初デート、高級レストランなど。恵まれた環境で成長していく姿を描く。
 頭が良く行動的で金持ちの息子だけど、不思議に反感を感じさせない。それは、電車で眺めるだけの女の子に失恋したり、はじめてジャズを聞いた直後に専門的な会話をしてみたり、初デートでのちょっとした失敗に落ち込んだりと彼らがまだ若く余裕がない様子が描かれているからだろう。生徒の半数は東大を受験する様な学校に通い、大卒の初任給の半額に近い小遣いを使い、様々な事に好奇心を持って吸収していくのを羨ましく読んだ。余計な事だけど宗教的な内容が皆無だったのでほっとした。  






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