Moonshine <Pray and Wish.>
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Episode 06 リターン・オブ・ドリフター○


  行き過ぎたネタは、お客さんがひいてしまいます。
  その寸前を見極めるのが、プロというものです。
「ドリフ大暴走 '23」


 西暦2023年11月27日、月曜日。7時20分。

 その朝、音々と橘花はひたすら逃げていた。
「音々ねえさん! このままやと、そのうち追い付かれそうなんですけど……」
「うーん……橘花もそう思うか?」
 会話の内容の割には、二人の声には緊迫感が伴っていない。
 いくつかの曲がり角を気の赴くままに進み、やがて目の前に訪れたのは壁。左右にも壁。後ろには今しがた走ってきた通路。
「これって、いわゆる袋小路ってやつやろか?」
「……こないだみたいに、外壁ぶち壊して月面へ逃げるなんてナシにしてくださいよ!」
 すっかり関西弁が板についた橘花がぼやいた。
「判ってる判ってる。いや、あんときはマジでこの辺の地域の住民に避難勧告が出たくらいやからなぁ……」
「奴らはこの先のエアロック近くだ!!」
 背後の通路の奥から、甲高い女性の声が聞こえた。
「ふーむ、こうなったら新必殺技を試さなアカンやろか?」
「な、なーんか嫌な予感がするんですけどぉ?」
 腕を組みながらもっともらしく考え込む音々に、橘花は顔をひきつらせた。そして、数々の必殺技が脳裏をよぎる。

『メパンチビィィィィィィムッ!!!』
 メパンチビーム。コンソ(音々)がメパンチ(橘花)の頭を掴み、相手の方へ顔面を突き出す。コンソの叫び声に合わせて、メパンチは両目からビーム(神霊術)を発射し、敵を一網打尽にする。と言うより、一網打尽にし損ねると後でお仕置きが待っている。

『メパンチ、ハイパァビィィィィィィムッ!!!』
 メパンチハイパービーム。コンソ(音々)がメパンチ(橘花)の頭を掴み、相手の方へ顔面を突き出す。コンソの叫び声に合わせて、メパンチは両目と口からビーム(神霊術)を発射し、敵とか色々なものを破壊し尽くす。と言うより、先日この技で外壁をブチ抜いてしまって空気が流出してしまい、大惨事になるところだった。

『メパンチミッサイィィィィル、ボンバァ!!!』
 メパンチミサイルボンバー。コンソ(音々)がメパンチ(橘花)の頭を掴み、相手へ投げ飛ばす。メパンチは着地と同時に、自分を中心として爆発系の術を発動。周囲を色々と破壊する。
 別バージョンとして、メパンチミサイルボンバー&エスケープという技があり、これはメパンチを投げ飛ばした後のコンソが、メパンチを回収せずに逃亡するという荒技。

 どれも嫌な思い出ばかりだ。
「……メパンチブーメランってのはどないやろか? うちが橘花をぶん投げて、適当に術をブチかました後で、飛んで戻って来るっつー感じで」
 音々は呟いたが、すぐに首を振った。
「あかんあかん、イマイチ地味やわ! ん〜、メパンチシュート。うちが橘花を蹴っ飛ばして……これもミサイルのパチモンみたいで嫌やなぁ」
 その時、通路の奥に人影が見えた。数は5〜6名ほどだろうか。
「居たぞ!! 橘花様は殺すな、女だけ仕留めろ!!」
「……わたしも女なんやけどなぁ」
 橘花は小さくため息をついた。とりあえず遠距離から術を放って来るだろうから、音々と自分の身は守っておいた方がいいだろう。
 そう思った直後、いきなり首根っこを音々に掴まれた。
「思いついたでっ!」
 喜々とした表情で、音々は橘花の身体を片手で持ち上げた。追手の放った術が、二人の方へと光の残像を描きながら迫ってくる。
「メェェパンチシィィィィィィルド!!!!」
「シ、シールドぉ?!」
 音々の雄叫びと、橘花のぼやきが重なった。追手の術を真正面から橘花が受け、大部分を無力化しつつ、一部を周囲に分散させるように受け流す。
「お、判ってるやんか。完全に無効化したんじゃ、イマイチ見た目がかっこ良くないからなぁ」
 音々は上機嫌で、橘花の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「そりゃもう、相方やからねぇ……。あぁ、髪の毛が変になるぅ〜!」
 不機嫌そうに言ってみせたが、こんな風に撫でられるのは嫌いではない。いや、むしろ心が和みさえする。
「構へん構へん!! ほれほれほれほれ〜〜!!」
 橘花の内心を知ってか知らずか、音々はより乱暴に橘花の頭をかき乱す。
「くそっ!接近戦に持ち込まれると勝ち目がないぞ!?」
「しかし、術で橘花様にかなうわけがないじゃないか!」
「し、仕方ない! この場は撤退して増援を頼もう!」
 判りやすい会話とともに、追手はこぞって退却していった。遠ざかる足音が完全に消えるのを確認し、二人は安堵のため息をついた。
「さーて、とっとと脱出するで!」
「うん!」

 音々と橘花が出会って、かれこれ二ヶ月以上が過ぎていた。
 二人は音々の部屋で普通に暮らしていたのだが、ほんの一週間ほど前、ついに居場所を突き止められてしまったのだ。あとは迫り来る追手を撃退しながら逃亡を続ける毎日である。
「なんとかして、早いこと地球に戻らんとなぁ……」
「そうやね。急いだほうがええと思います」
 二人には急がねばならない理由があった。
 事の発端はつい先日の事だ。橘花の意識に呼びかける、か細いが懐かしい声があった。二十年以上前に橘家を出奔した、桜からの声である。
 桜がまだ橘家にいた当時、既に疎まれつつあった橘花にとって、桜は数少ない友人だった。そんな桜が樹華と恋仲になったという事は驚きだったが、「桜を連れ出したい」と言う樹華に、複雑な気持ちながらも手助けしたこともある。また、橘家内で『桜は橘花によって粛正された』という事で話を通したのも橘花だ。
 それ以来、桜との音信はまったくの不通だったのだが、意外な形で久々に聞いたその声は、橘花の記憶に残っている声のままだった。
 さすがに地球から月まで声を飛ばす事は、かつて橘家屈指の術者であった桜にも困難だったらしく、呼びかけの声だけが微かに届いたに過ぎなかった。そこで、それを受けた橘花がから、逆に桜へと意識を飛ばした。
 後にそれを聞いた音々は、
「なんや判らんけど、便利なモンやなぁ。テレパシーみたいで」
 と言ったものだが、そういうものではないらしい。樹華と交わった事で体に変調をきたした桜だったからこそ、こういう形での意思の疎通が可能だったのだと言う。詳しくは語らなかったが、今の桜の存在は、人間よりも精人に近いものなのだという。意識を飛ばすという行為は、橘花にとってもかなりの消耗を伴うらしく、ほんの数分の会話を交しただけで気を失ってしまい、数時間は目を覚まさなかったほどだ。
 しかし、その数分の間に得た情報は貴重なものだった。
 今、日本自治領を騒がせている「黒い魔人」の正体が、あの鳳拓也だというのだ。さらにそれを操っているのがシェラ。二人とも、音々がそれなりに知っている人間だ。橘花にとっても、拓也が桜の息子である以上は放っておくわけにはいかない。

 そういう経緯で、今二人は空港に居た。月面を飛ぶわけではないのだから「空港」ではなく「宇宙港」と言うべきなのだが、月面開発プロジェクトの記者会見でどこかの偉い人が間違えて「空港」と言ってしまったため、それが正式名称になったらしい。なんともおかしな話だ。
 空港には着いたものの、音々も橘花も宇宙船の操縦など出来るはずもない。かと言って正規の経路は使えない。もしかしたら音々だけは偽名で行けるかもしれないが、顔が割れている今、税関を何事もなく突破できるとは思えない。いや、そもそも日本自治領への直行便のない今、いったん地球へ降りてから空路で自治領へ向かっていたのでは、何日かかるか判ったものではない。
 それに思い至ったのがつい十分前。宇宙船のドックに侵入し、実機を目の当たりにして初めて気がついたのだ。その直後、空港警備員をしていた橘家の術者に発見され、ひと騒動あって現在に至っている。
「いったん、引き返した方がいいんとちゃいます?」
「アカンアカン! 戻ったところでいい手段が浮かぶとは思えんし」
「それはそうやけど……」
 二人して腕を組んで考え込む。
「……アンタの術でぱーっとひとっ飛び!!ってのは駄目?」
「無理ですよぉ。わたし一人ならなんとかなりますけど、音々ねえさんを連れてってなると……」
 呼吸の問題は音々の精霊術でなんとかなるとしても、危険要素はいくらでもある。
「大気圏突入くらいがせいぜいですよぉ……」
「ちっ! 使えん相方やのぉ。こうなったら仕方ないし、あの手で行こか……」
「なんとなく想像がついて、しかも嫌な予感がするんやけど、どんな手なん?」
「右手」
 その瞬間、橘花の顔が引きつった。
「そこでツッコミを入れんかい!!」
 ウケなかった事に逆ギレした音々が、橘花の眉間にチョップを食らわせる。
「つ、つまらなかったんですよぉ!」
「やかましいわ!! メパンチの分際でうちの高尚なボケを非難するなんて、三週間早い!」
 やけに中途半端な数字なのは、音々自身でもくだらないネタだった自覚があるせいだろうか。
「……はぁ。で、どんな手なんですか?」
「古典的に宇宙船ジャック!!」

「はーい、ジャックさん。お元気?」
「は?」
 音々にナイフを突きつけられ、宇宙船の船長は素頓狂な声をあげた。ネームプレートには伊崎祐一と書かれている。
「この船はたった今から、うちら秘密結社コンソメパンチの支配下に置かれた!! 頼むから逆らわんといてや」
 そう言って音々不気味に笑みを浮かべた。
 音々が寒いギャグを飛ばした後、地球行きの船の貨物室に忍び込むことに成功した二人は、船が月面を離脱してからちょうど10分後に行動を開始した。
 スチュワーデスを人質にとって操縦室に押し入り、緊急連絡用ボタンを押される前にナイフを突きつける。そして呼びかけた言葉が「はーい、ジャックさん」という訳である。
「う、宇宙船ジャックか!?」
「ご名答〜。ちなみにハイジャックって言葉の語源、知ってる?」
 にやにやと笑いながら音々は尋ねた。船長は顔を引きつらせ、左右に首を振る。
「むかーしむかし、飛行機を占拠したある強盗団が、機長だった『ヨシオ・ジャック・石原』さんに、『はーい、ジャック』って呼びかけたから、っていう説があるんよ。ホントかどうか知らんけどね」
 そう説明している最中も、相変わらず音々の笑みは消えない。
「き、貴様らの目的はなんだ!?」
「うちらを連れて日本自治領へ向かって貰おか」
「日本自治領だと!? 無理だ!!」
「無理でも行けって言うてるんや!!」
 音々は怒鳴りつけると、突きつけていたナイフの切っ先で、伊藤船長の喉仏を軽く撫でる。
「音々ねえさん、ほとんど悪人やないですか……」
 人質のスチュワーデスを縛りつけたロープを片手に、橘花がぼやいた。
「すまんな。うちらにも事情があるんやわ。あ、ちょっと船内放送を使わせてもらうで」
 そう言って音々はマイクを握り、
『あんああ〜〜〜あたしカ・タ・ギ・リッ!! オットネェェェェ……』
 ど演歌をだみ声でがなり始めた。

「……って訳にはいかんよなぁ」
 自らの妄想に苦笑しつつ、腕を組んで考え込む音々。
 だが、転機というものは唐突に訪れるものだ。
 考え込んでいるうちに再び追っ手に見つかり、音々と橘花はまたも逃げ出す羽目に陥った。だが多勢に無勢。数分後には袋小路に追いつめられてしまった。
「強行突破するしかないなぁ……」
「うぅっ……。突破したかて、先なんか無いやないですか……」
 二人の背後には閉鎖された防火壁が立ちはだかり、眼前には百人は下らないと思われる橘家の術者たち。強行突破できなくはないが、死傷者も出るだろう。それは音々としても橘花としても避けたいところだった。彼女らとて、身内には違いないのだ。
(防火壁を突き破って逃げるか……それともまた精霊術で酸欠でも引き起こすか……)
 音々が逡巡していると、術者達の間を割って、一人の女性が前に進み出てきた。見覚えのある顔だ。
「……ヨッ!大統領!!」
 音々の挨拶に顔をしかめ、そこに華音が立っていた。今や月政府の大統領となった彼女は、その立場に似つかわしくないラフな服装に身を包んでいた。いつでも一戦交える覚悟があるという意思表示ともとれる。
「ひょっとして、大統領ってけっこう暇なん?」
「貴様らを発見したら至急知らせるように命じておいただけだ!」
 華音は語気を荒げた。が、すぐに気を取り直し、
「……まぁいい」
 自らを落ち着かせるように小さく深呼吸をする。
「音々。お前は一体、何がしたいというのだ? 既に戦争は終わり、新しい秩序が産まれつつある。今さら橘花様を連れ出して、一体どうなるというのだ?」
「うーん……」
 音々はしばらく考え込み、
「もっぺん戦争をおっぱじめる、ってのはどないや?」
 そう言ってケラケラと笑ってみせる。
「本気で言っているのか?!」
「嘘に決まってるやんか。とくに何がしたい、っつーわけでも無いんやけどな……」
 為政者、いや支配者として橘家はよくやっていると言えるだろう。それが恒久的に続くかどうかは判らないが、少なくとも戦争で疲弊した世界を、良い方向へ向けていることは確かである。
 しかもそれらは、結果として精人を出し抜いた橘家によるものだ。つまり精人の意思とは別のところで行われている。精人たちが長年に渡って繰り広げてきたゲームに勝利したのは、桜花でも橘花でもなく、橘家の「人間」たちだ。
 橘家は打ち倒されるべき「悪」ではない。それは誰の目にも明らかだ。
「そやな。アンタらは勝者、うちらとか咲夜の連中は敗者。それは判ってる。ただなぁ……」
「ただ、なんだ?」
「ケリがついてない問題があるやんか。日本自治領」
 痛いところを突かれ、華音は言葉に詰まった。
「あそこをなぁ、あの女に任せといたらアカンのとちゃう?」
 月政府軍が侵攻する前に、理沙は半ばクーデターのような形で日本地域を制圧していた。そしてそのまま月政府に帰順し、自治領の長という形に収まっている。それらは事前に密約があったこととは言え、月政府とは別の支配系統が存在していることには違いない。
 そして、理沙が素直に他人の下に落ち着く人間ではないということも、華音はよく知っている。
「それはそうかもしれない。だが、それと橘花様とどういう関係がある!?」
 音々の言うように理沙には問題があるとして、それと橘花とは関係がないはずだ。
「んー……こいつ、橘家では疎まれてるみたいやから、別に連れ出したってええやん。アンタらと敵対する訳やないし」
「そういう問題ではない!!」
「……桜花が、まだあの地にいます」
 華音の怒鳴り声に、音々ではなく橘花本人が答えた。
「桜花のことは、わたしと樹華とで決着をつける必要があります。そして今、少なくとも音々さんは、わたしのことを必要としていますから」
 橘家にとって、自分はもう必要ない。橘花の言外にはそういう響きがあった。
「どうしても行くというのですか、橘花様……」
 華音が問いかける。橘花は静かに頷いた。
「さっきも言うたようにアンタらは勝者、うちらは敗者や。で、うちは敗者復活戦がやりたい訳やない。最下位決定戦をやっとる訳やな。アンタはチャンピオン席で、それを見物しとったらええんと違う?」
 華音は何も答えない。
 音々は小さくため息をつくと華音に近づき、肩をポンポンと二回叩いた。
「日本自治領は任せとき。ちゃんとした形で、アンタらに渡したるから。だからうちらを、地球へ行かせてくれへんか?」
「……わかった」

 その後はすんなりと事が進んだ。
 数時間ほど待たされたものの、税関も正規の手続きで抜ける事ができた。それも、「片桐音々」と「橘花」としてである。
 日本自治領へは専用機が用意され、搭乗口には大勢の術者が正装で集まっていた。皆、橘家の者たちだ。
 橘花と音々がタラップに足をかけると、彼らは一斉に頭を下げた。
「……別に嫌われてないんと違うん?」
「…………」
 音々の呟きに、橘花は無言のままでタラップを上がった。後を追おうとした音々を手で制止、乗降口の手前で振り返る。
「お見送り、感謝いたします。あなた方、橘家の皆さんは、私にとって大切な子供たちだと今でも思っています。」
 橘花の瞳から、一筋の涙が零れた。
「子はいつか、親から離れていくものです。皆さんは既に、私の元から巣だっていった立派な大人たちです。それに引き替え、ずっと子離れが出来ずにいた私を、どうか許してください」
 そこで橘花は深々と頭を下げた。
「……みなさん、ありがとうございました。後のことを、よろしく頼みます」
 もう一度頭を下げると、橘花は皆に背を向け、船内に消えた。その後を追って音々もタラップを駆けあがり、立ち止まることなく宇宙船に乗り込んだ。
 二人が搭乗すると、すぐに乗降口の扉は閉じられ、エンジンが始動し始める。
「なぁメパンチぃ……」
「なんですか?」
 知らず知らずのうちに標準語に戻ってしまっていたが、音々はそれには何も言わなかった。
「もし、この専用機そのものが陰謀とかだったら……どうする?」
「そんなことは……」
 ないはずだ。だが音々はニヤニヤと笑い、
「宇宙空間に飛び出たところで暴走し始めて、太陽系を突破してはるか彼方のナントカ星雲まで行ってしもたらどーする?」
「そんなの、光の早さでも何年かかるか判りませんって……」
 一光年の距離でも光の早さで一年かかるというのに、太陽系のさらに向こうとなると気が遠くなる。
「そりゃそうやな。でも、いきなり船が爆発するとか。うちらの事を疎んでる連中がおってさ」
「大丈夫ですよ、たぶん……」


 西暦2023年11月28日、火曜日。11時58分。
「まもなく本船は、地球大気圏への突入フェイズに移行します。皆様、シートベルトの着用を今一度……」
 女性の声によるアナウンスで音々は目を覚ました。窓からは、地球を彩る青と白の色彩がよく見える。
「奇麗やなぁ……」
「そうですね」
 ふと口をついて出た言葉に、橘花がにこりと微笑んで答える。
「なんやメパンチ、うちがこういうこと言うなんて不思議やとでも言いたそうやの?」
「べ、別にそんな事は……」
「いーや、顔に書いとるで。明朝体でくっきりと『意外で不思議でござ候』って書いとる!」
 無茶苦茶なことを言いながら、音々は橘花のほっぺたをつまんで左右に引っぱる。
「む、む、むに〜! いたひたひたひ!」
「ほれほれほれほれ〜!!」
 と、その時。橘花の身体が、ほんの一瞬だけ硬直した。その表情から、先程までのくだけた様子は消えてしまっている。
「……ん? なんかあったんか?」
「桜が……」

 それよりもほんの少し前。
 地球では、晃司の危機を助けようと飛び出した漣の前に、シェラが立ちはだかっていた。
「邪魔はさせない、です」
 冷たく微笑み、シェラは懐から抜き出したナイフを投げた。術は使えるものの戦闘経験は無いに等しい漣に、それを避ける事など出来るはずもなかった。
「あぁっ!! 痛い! 痛い!!」
 自分の太股に突き刺さったナイフと、そこからにじみ出てくる血で、漣はパニックに陥る。そこにシェラがつけ込む隙が産まれた。
 漣の視界が暗い紅に染まった。炎の赤ではなく、血の紅だ。傷口から流れる血が、漣の視界を埋めつくしていた。
『漣! 気をしっかりともちなさい!!』
 脳裏に響く桜の声も、漣の意識を素通りしていくだけだ。
 傷みと恐怖、それだけが今の漣が認識できる全てと化していた。

 それが、橘花へと届いた、ほとんど断末魔の絶叫に近い桜の意識だった。声だけでなく光景までもが伝わったのは、地球への距離が近づいたせいか桜の必死の力だったのか。
 どちらにせよ、最悪の状況には違いがない。
 橘花は、桜が見たものを音々に語った。
「駄目……今からじゃどうやっても間に合わない……」
 船は、大阪地区にある空港へと向かっている。どんなに急いでも、二人が到着する頃には決着がついているだろう。それも最悪の形で。
「メパンチ一人だけでも無理なんか?! 自力で大気圏突破くらいやってみぃや!!」
「私だけならなんとかなります……でも、私には樹華の子を止められない。正面からぶつかりあえば、霊力で私が勝っていても、それだけじゃ勝ち目は……」
 その言葉を聞いて音々はニヤリと笑った。
「まぁ落ち着くんや、メパンチ。また標準語に戻っとるで」
「は、はぁ……」
 橘花は涙をたたえた瞳で、音々の顔を見上げた。
「ええか。そんじゃメパンチは先にアイツらのとこに向かうんや。うちも後から向かう」
「後からじゃ間に合い……」
 間に合いません、と言いかけた橘花の口を、音々は左手で押さえた。そのまま、空いた右手でチョップを食らわせる。
「うちも自力で大気圏突入する。精霊術で自分の周りを空気で覆って、摩擦熱かてなんとかする」
「そんな! 危険すぎます」
「成功率10割!!」
 橘花の心配に反し、音々はきっぱりと断言した。
「ただ、着陸地点だけは精霊術じゃどうにも出来へん。だからメパンチ、先に行っといて、うちをアイツらのとこまで引っ張るんや。それくらい出来るな?」
「……はい。必ず、無事に着陸させます!」
「ええ返事や。ついでやから、コンソメパンチの名乗りでもあげよか」
 そう言って音々はケラケラと笑った。
「前にやったやろ? まずメパンチがメロディを口ずさむ。んで、二人そろって『コンソメパーンチ!』ってアレ」
「そ、その前に、一つ聞かせてください。成功率10割の根拠ってなんですか?」
 その問いに対し、音々は黙り込んだ。
「やっぱり出任せなんですね……」
「……技術的確率2割、気合いと根性6割、友情パワー2割。合わせて10割! これで文句あるか!?」
「音々ねえさん……」
「グダグダ言うな! 早く行かんと間に合わんやろ?! コンビやったら相方を信じろ!!」
 橘花は泣きながら頷いた。
「そういう事やコクピット!! どうせ会話は聞いとんのやろ?! とっとと前の気密を確保して、こっちの乗降口を開けんかい!! でないと強行突破すんで!!」
 音々が叫んだ直後、ガシガシという機械音が機内に響き始めた。音々の指示通りに動いているのだろう。
『乗降扉、開きます!!』
 アナウンスに続き、乗降扉が開いた。機内の空気が激しい勢いで漏れ出していく。
「メパンチ!! 地球で逢おな!」
 吹き飛ばされないよう、座席にしがみつきながら音々が叫んだ。既に音々を取り囲む空気の球体は完成している。
「はい!!」
「アレを忘れんなよ!! ちゃんちゃかちゃんちゃんってアレ!!」
「はい!!」
「よっしゃ! 先に行けっ!!」
「はいっ!!」
 そして橘花は、乗降口から飛び出して行った。やや遅れて音々も宇宙空間へ飛び出す。
「……失敗したら死ぬやろな」
 一人になると、急に不安が押し寄せてきた。
 やれる自信はある。だが、それ以上の恐怖もある。
 目の前に輝く地球が、とてつもなく巨大なものに見える。今から自分が降りるべき地点なんて、今こうやって見えている中ではほんの小さな点でしかないのだろう。
 橘花はちゃんとナビゲートしてくれるのだろうか? もし失敗したら、途方もない速度で地面に打ちつけられて死ぬだろう。大気圏から飛び降り自殺をするようなものだ。ビルに換算したら何百階建てのビルから落ちる事になるのだろうか?
(……っと、集中を乱してたらアカンな)
 精霊術で空気を保持しつつ、神霊術で推力を発生させる。ほんの僅かな力だが地球の重力との相乗効果で、次第に速度は上がってゆく。
 やがて大気圏に突入していく。摩擦を極力抑えるように空気の流れを調整する。
 次第に地球の重力を身体に感じるようになってきた。今、自分はどこの地域の上空を飛んでいるのだろうか?
(生身で大気圏突入を果たしたのは、うちが初めてやろうなぁ……)
 なんて事を考えていると、音々の身体をを強く引っ張る力を感じた。橘花の力だろう。
「さぁメパンチ、うまいことやってや……」
 速度はぐんぐん上昇していく。もはや自分の周りの景色さえも見えない。
 橘花が力加減を制御しているのだろうか、徐々に速度が落ちていくにしたがって、見覚えのある地形が目についた。これは確かに日本列島の一部だ。
 高度はどんどん下がっていく。どこかの山中へと音々の身体は引き寄せられているようだ。
 やがて、そこに居る人間達の姿が米粒大程度で確認できるようになった。米粒大からボールペンの蓋程度、握り拳程度とどんどん大きくなっていくに従って、なんとなしに状況も掴めた。
(とりあえず、あの男はしばいたる!!)
 頭を抱えながらも刀を離そうとしない男を睨み付け、音々はそう思った。無論、その男とは拓也のことだ。
(昔の借りもあるこっちゃしな!!)
 橘花の力にほんの少し逆らって軌道を修正し、音々は拳を握った。



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  歯を食いしばって、笑って歩いていこう。
  それが赤黒く染まった道であっても。
「英雄譚の始まる日 Reprise」


「スペースコンソメぱーーーんち!!!」

 大気圏から地表までの落下に伴う、全ての運動エネルギーを込めた拳をダイレクトに叩きつけられ、拓也は地面に叩きつけられた。と言うよりはむしろ、地面に全身がめり込んだ。
「お、音々ちゃん……」
「ハイホー! 晃司お兄ちゃん!」
 地上から1メートルほどの場所に浮いたままで、音々はおどけた表情を見せた。
「こらメパンチ! とっとと降ろしてや」
「は、はい……」
 ふらつく足取りで立ち上がった橘花が頷く。と、ほぼ同時に音々が地面に降り立った。
「な、何が起きたってのよ……?」
 少し離れた所では、香織が頭を抱えながら周囲を見回している。シェラの術は解けているようだ。
「漣っ!!」
 晃司は叫び、おぼつかない歩みで漣の元へ急いだ。
 漣は気を失ってはいたが、呼吸はしっかりとしていた。刺さっていたナイフを抜き、自分の上着を引きちぎって包帯代わりにし、漣の太股にきつめに巻きつける。
「早く手当しないと……」
 止血の応急処置としてはこれで良いとしても、雑菌の侵入で傷口が化膿する恐れがある。
 シェラが愕然とした表情で震えていた。
「わ、私、術、消えた? 拓也!!」
「シェラ、もうやめよう。関係のない人達をこれ以上殺さなくてもいいじゃないか……」
 シェラを慰めるように、晃司は言った。が、そんな晃司を音々が突き飛ばした。
「みんな逃げるんや!!」
 異変は叫び声と同時に起きた。音々を中止とした円柱を描くように、周辺の大地が光を発し始めたのだ。
「黙って寝とけばええもんをっ!!」
 音々が大地を蹴って飛び上がるのと、光の柱にえぐられるようにして地面が消滅したのはほぼ同時だった。衝撃波を受け、突風に吹き上げられるように音々の身体が空に舞う。
 その光柱の底から、拓也が飛び出してきた。両手にそれぞれ刀を持ち、音々を睨みつけながら一直線に向かってくる。左手の刀で胴を、右手の刀で首を狙い、挟み込むようにして音々に斬りかかった。音々は空中にいるため姿勢を立て直せない。
「なめんなぁ!!」
 音々の身体が、不自然に急上昇した。そして拓也の刀が空を斬る。
「術で逃げたか……?」
 地上に降り、拓也は刀を構え直した。やや遅れて音々も着地する。そうして二人は再び対峙する。
 だが、音々のすぐ前に晃司が割って入った。
「音々ちゃんは下がってて欲しいんだ」
「なんでやのん!?」
「ひとつだけ、気になることがあるんだ。もし予想が外れていたら……」
 ほんの一瞬だったが、晃司は寂しく微笑んだ。だがその一瞬の間に、音々は晃司の迷いを見た気がした。
「あいつは、僕が止める」
「なんで?!」
「漣を傷つけた奴を、僕は許さない」
 そう言うと、晃司は持っていたナイフを音々に見せた。漣の赤黒い血が、べっとりとそこにこびりついている。
「それに、一つだけ確認したいことがあるんだ」
「……判った。もう止めへん」
「僕が倒れたら、あとは頼むよ」
 寂しげな笑みを浮かべたまま、晃司は前に進み出た。
「拓也。僕の得意な戦法は、障害物を有効に使った奇襲による一撃離脱だ。こうやって一対一でやり合ったら、僕に勝ち目はないだろう」
「冷静な自己分析だな、晃司。死ぬ気か?」
 晃司は何も答えない。ただ、無言でナイフを拓也の方へ突き出した。その姿はあまりにも無防備で、少なくとも構えの類には見えない。
「何のつもりだ?」
「ここにこびりついているのは、君の妹の血だよ。シェラと君がやったことだ」
 晃司はそのナイフを、拓也の眉間を狙って投げた。それを拓也は刀で叩き落とす。拓也が再び構えた時、今度は晃司の持つ銃が拓也の眉間を狙っていた。
「僕は、漣を傷つける奴を許さない」
 狙いを定めたまま、晃司は拓也へと一直線に突進した。そのまま拓也の防御結界を無効化できる距離まで近づく。
 しかし、晃司は引き金を引かなかった。そして拓也も刀を振るおうとはしない。
「……どうして撃たない? 俺を許さないんじゃなかったのか、晃司ぃっ!!」
 拓也の絶叫にも近い叫びを放つ。だが晃司は、冷めた目つきでその様子を見つめていた。
「拓也こそ、どうしてその刀で斬ろうとしないんだ?」
 二人とも問いには答えず、動こうともしない。
「こ、殺せ!! その男を、あの女の弟を殺せ!!」
 シェラの金切声が響く。だが、二人とも硬直してしまったかのように動かない。
 やがて、晃司が銃口を下ろした。そして拓也に背を向け、ゆっくりと音々達の元へ戻って来る。
「いったい、何がどうしっちゅーの?! 晃司お兄ちゃん?」
「僕の出番じゃない。あとは任せるよ」
 そう言い残すと、晃司は漣の元へと向かった。香織と橘花が、何やら手当を施しているようだ。おそらくは術による治癒を行っているのだろう。その隣には、まだ気を失ったままの小十郎の姿も見える。
「……ま、ええわ。うちの出番やな」
 首を左右に振ってコキコキと鳴らし、軽く屈伸運動をして身体を動かす。
「さっ! かかってきぃや!!」
 音々の挑発に乗ったかのように、拓也の刀が淡く輝きはじめた。
「術戦にもちこむ気やな?」
 ニヤリと笑って音々は身構えた。
「メパンチ!!」
「はい!!」
 音々に呼ばれ、橘花が音々の許に駆けよってくる。その頭を音々はむんずと掴んだ。その直後、まるで橘花の到来を見届けていたかのようなタイミングで、拓也が刀を振った。刀の軌跡が光を描き、音々へと放たれる。
「メパンチシィィィィィルドっ!!」
 拓也の放った術が、音々の突き出した橘花の手前で霧散し、
「あーんど、メパンチびぃぃぃむっ!!」
 大きく開いた橘花の口から光が噴出し、拓也を襲う。
 その光景を晃司達は呆然とした表情で眺めていた。
「……な、なに? あれ……」
 香織が呟いた。はっきり言ってケタが違う。拓也の放った術は見た目こそは地味だったが、丹念に練り込まれた霊力を限界近くまで凝縮して放たれた、かなり強力なものだったはずだ。香織でも防ぎきれたかどうか自信はない。
 それをあの少女はあっさりと無効化しただけでなく、それ以上の術を放ち返してみせたのである。そんな芸当が出来る者といえば、桜花、もしくは……
「橘花様……」
 漣の口から言葉が漏れた。いや、漣ではなく桜の方だろう。
「橘花!? あの女の子が、橘花だって言うんですか?」
 よろめきながらも上体を起こし、桜は頷いてみせた。
 拓也はなんとか橘花の術を防ぎきった。その背後に居るシェラも無事らしい。
 しかし、その拓也の眼前に音々がいた。右手に掴んだ橘花の頭で、拓也の顔面を殴りつける。
「これぞ必殺!! 真・コンソメパンチ!!」
 一発、二発、三発と、まるで橘花をボクシングのグローブのようにしながら、拓也の顔面やら脇腹を殴りつける。
「ふんふふーん。ふふふふーん。ふふふふふんふふーーーん」
 何やら鼻唄さえも口ずさみながら、音々の連打は続く。
「お、音々ねえさん痛いんやけど……」
「やかましいメパンチ!! うちの歌を邪魔すんな!! ……ふふんふーーん!!ふふんふーーん!! ふっふっふっふーーーん、フーーーン!!!」
 サビの部分を歌い終えるのに合わせ、拓也の顎を打ち抜くように、音々のフィニッシュブローが炸裂した。そして、拓也と橘花の二人はその場に崩れ落ちる。
「さ、て、と……。シェラぁぁぁ!!」
 気を失った拓也に背を向け、音々はシェラの方に向き直った。シェラはまるで寒さに耐えるかのように、膝を震わせている。
「昔っから、なんか思い詰めた性格しとるなーとは思っとったけど、これはちょいとやり過ぎちゃうか?」
 だが、シェラは音々の姿など眼中にないようだった。むしろ、正気を失っているようにも見える。
「一発ぶん殴って、目ぇ覚まさせたろか?」
「お、音々ねえさん、一発殴るって言うといて、一発で済んだためしが無いやないですか……」
 ふらつきながらも、橘花が起き上がる。が、
「やかましい!」
 音々にゲンコツで殴りつけられ、再び地面に突っ伏した。
 だが、そんなやりとりもシェラの瞳には映っていないようだった。誰も居ない空間に、シェラはぶつぶつと何かを言っている。
「……何を言うとるんや?」
 音々が近づいていくが、シェラはやはり意に介さない。手を伸ばせば届くような距離まで近づいてようやく、シェラの呟く内容がはっきりと聞こえるようになった。
「なぜ拓也が負ける? なぜ? なぜ? なぜ? これまで誰にも負けたことないのに? なぜ? なぜ? なぜ? 誰よりも強い霊力を持っているのに? なぜ? なぜ? なぜ? 」
「あのなぁ……」
 ため息まじりに、音々はシェラの肩に手を置いた。その瞬間、シェラの身体がビクリと跳ね、
「タクヤァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」
「うぉぉぉぉぉっ!!」
 彼女の発した絶叫にも近い奇声に呼び覚まされるように、拓也が雄叫びと共に立ち上がった。
 拓也の発する霊力が引き起こしたのか、大気が震えるような錯覚を覚えた。いや、あるいは彼の気迫のせいだったのかもしれない。
 再び刀を手に、拓也が音々に飛びかかる。
「俺は詩織を守ると約束したぁっ!!」
 だがその特攻にも近い拓也の一撃を、音々はあっさりと避けた。そして隙だらけになった拓也の急所に、音々が一撃を喰らわせようとした瞬間、辺りを闇が包んだ。と同時に、拓也の姿どころか気配さえもがその場から消えていた。
 そして数秒後。闇が晴れると、二人の姿はそこから完全に消えうせていた。
「ふん。逃げよったか」
 少しすねたように音々が吐き捨てた。
「ネオン様……」
 いつの間にか目が覚めていた小十郎が、目に涙を浮かべながら音々の方へ近づいて行った。
「無事だったんすね……!」
「あったりマエやろ? ちゅーか、何があるっちゅーねや」
「そ、そうっすよね。ネオン様なんですもんね」
 目尻をぬぐい、小十郎は笑みを浮かべた。その小十郎の脳天を音々が小突いた。
「その呼び方はもう古いわ。今はネオンねえさんって呼んでくれへん?」
「ねえさん、っすか?」
「そ。お笑い界で目上の人には『にいさん』『ねえさん』って呼ぶのが筋やろ? こいつは橘花ねえさん、って呼んだりや」
 そう言って音々は、地面に突っ伏していた橘花を拾い上げる。
「うちとコイツの二人で『コンソメパンチ』言うねん」
「……どうも。橘花ですぅ……」
 疲労の色を浮かべながらも、橘花は愛想よく頭を下げた。が、小十郎は橘花には何も言わず、
「ひ、ひどいっすよネオンさ……ネオンねえさん!!」
「何が?」
「僕という部下がありながら、そんな人とコンビを組むなんて……」
 この世の終わりとでも言いたげに、小十郎はがっくりとうなだれた。
「そない言うても、アンタおらんかったやん」
 頭をポリポリと掻きながら音々は呆れたように呟く。
「呼んでくれれば行きましたよ!」
「あの、よろしければ代わ……」
 何か言いかけた橘花の脳天を、音々はゲンコツで殴りつけた。
「しゃーないな。ま、荷物持ちくらいはやらせたるわ」
「か、感謝の極み!!」
「別にコンビにこだわらないで、トリオでもいいんじゃ?」
 ぼそりと尋ねた橘花に、再び音々のゲンコツが炸裂した。
「お笑いはコンビが基本いうのが、うちの美学や!!」
「盛り上がってるところ、悪いんだけど……」
 晃司が三人の許へ近づいてきた。その後を、漣がゆっくりと着いて歩く。
「よく帰ってきてくれたね、音々ちゃん」
「へへっ……」


 音々が帰還したこの日を境に──
 支配者である橘家の者達を観客に、日本自治領の未来を賭けた戦いが始まったと言っても過言ではなかった。

 そう。この日から、英雄譚は始まったのだ。

To be continued.
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