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加 藤 良 一 15 May 2010
2010年5月11日、東京文化会館小ホールで平松混声合唱団の第25回定演を聴いた。
平松混声は、その名のとおり指揮者 平松剛一さんが1982年に結成した団体。
1994年、全日本合唱コンクール金賞受賞、1999年、ウィーンにおけるシューベルト国際合唱コンクール第2位入賞/特別賞を受賞、2006年、〈題名のない音楽会21〉に出演するなど素晴らしい実績を残している。また、CD レコーディング、テレビ・ラジオ出演もたくさんこなしているし、作曲家青島広志さんとの共演も数多く行い、2008年には東京国際フォーラムでの〈熱狂の日・ラフォルジュルネ〉にも出演した。さらに、歌謡曲の世界ではキム・ヨンジャさん、吉幾三さんと共演するなどジャンルをこえた幅広い演奏活動を行っているという。2007 年「千の風になって」の作曲者新井満さんの第2弾CD「ふるさとの山に向かひて」をレコーディングしている。とにかくふつうの合唱団の枠には収まらない幅広い音楽活動を展開している。
今回の定演のテーマは「信じる道〜be With You」
2ステージ構成で、前半はモーツアルトなどを中心にした8 曲からなっていた。モーツアルトでは“Requiem”より「Dies irae怒りの日」、「Lacrimosa涙の日」(ピアノ伴奏)、「Ave verum corpus」などが演奏され、前半の締めくくりはこれまでお蔵入りしていたという寺島尚彦の「涙に海の味がする」が歌われた。
休憩後の後半は、ヴェルディのオペラ“椿姫”の「乾杯の歌」で開演、テナーとソプラノの二重唱はなかなか聴かせるものだった。次いで演奏された“トロバトーレ”「鍛冶屋の合唱」には子供も参加したが、鉄をハンマーで叩くところが、ちょっとスリリングでつい応援したくなる雰囲気だったのはご愛嬌というところだろう。3曲目のプッチーニ“トゥーランドット”より「誰も寝てはならぬ」では、ご存知のあのテナーソロをみごとに歌えてしまうのが、ふつうの合唱団と一線を画すところである。
また、指揮者自身のクラリネット独奏で久石譲の「おくりびと」が演奏されたのは、ひらこんならではの出しものといえよう。そのあと、寺島尚彦「通り雨」、「鎌倉は子守歌」を寺島葉子さん(ソプラノ)の特別出演により演奏、さらに平吉毅州「海の不思議」、「気球に乗ってどこまでも」、小林秀雄“こころの風土記”より「かけがえのない日々を」を歌い、フィナーレを「さとうきび畑」で飾った。
じつは前半の締めくくりの「涙に海の味がする」は、フィナーレの「さとうきび畑」と呼応するように置かれていたのである。故寺島尚彦さんの奥様・寺島葉子さんによれば、「涙に海の味がする」は「さとうきび畑」のもとになったのではないか、つまりデッサンに当たるようなものではなかったろうかとのことだった。その話の中で、指揮者の平松剛一さんと「さとうきび畑」とのあいだに意外なつながりがあったことが紹介された。
平松剛一さんのお父様は太平洋戦争のさなか、わずか25歳という若さで沖縄の海に没した。そのとき、剛一さんはお母様のお腹の中にいた。我が子の顔も見ずして戦死という悲しい出来事である。そんなことから、沖縄の海に寄せる剛一さんの思いは人一倍深いものがある。それが、今回の定演のテーマ「信じる道〜be With You」である。会場に来られていたお母様が、寺島葉子さんのお声掛けで聴衆に挨拶されたお姿を拝見し、お元気でと心の中でつぶやいていた。
平松剛一さんは一見強持てだが、とても優しいひとだそうだ。しかし、音楽に対する態度はとても厳しいものを持っていることが次の発言からも窺える。
「様々なコンサートが毎日どこかで行われている。特に東京ではクラシックからポピュラーを含めると、一日だけでも相当な数になる。コンサートに行くとよく受付で袋詰めにしたチラシをどっさりくれる。荷物になるので一通り目を通して捨てて帰ることもあるが、めぼしいチラシがあると、そのコンサートに出かけていく。普通はこのように興味、関心のある又は好みの演奏家や楽団(合唱団)などの演奏会にお金を払って行くわけだから、ほとんどは満足して帰ってくる。時には義理で行かなければならない場合もある。そんな時はじっと我慢の子である。後で感想を聞かれて言葉に困ってしまう。日本人は律儀なので、どんな演奏を聴いても一応に拍手をするが、私は演奏者のためにも習慣で拍手をするのは反対である。」
ひらこんは、ソプラノ5、アルト4、テノール4、バス5という申し分のないパート編成、的確で揃った発声から醸し出されるハーモニーがこの団の特長といってよいだろうか。音楽に豊かな表情が備わっていて、かつ歌詞が明瞭でメリハリが利いているのも聴いていて心地よい。バランスもよく非常に質の高い合唱団である。
ひらこんを身近に知ったのは、たまたま仕事の関係で知り合った小井土恵奈さん(ソプラノのパトリ)を通じてで、ときどきコンサートのご案内が届いていた。
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