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「楽しい合唱」考




菅 野 哲 男




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まえがき
海外の合唱団の演奏会を聴くとお国柄が感じられる。我々が伝統的に親しみを感じているドイツの合唱団は直立不動で歌っているが、一般のドイツ人は音楽を身近に感じているせいか、それで十分に楽しんでいるようだ。アメリカのバーバーショップは完全にエンターテインメント指向で、聴いた人は誰でも楽しめる。北欧の合唱団はこれらの中間だろうか、高い合唱技術と楽しい演出とで聴衆を楽しませてくれる。合唱を「芸術」と考えて歌う合唱団と、それを「教養」として聴く聴衆、という図式の日本では、楽しい合唱とはどんなものだろうか? これから書くことが、それを考えるヒントになれば幸いである。
 
●     私が聴いた北欧の合唱団
ヘルシンキ大学男声合唱団(略して YL )やスウェーデン放送合唱団の来日や、指揮者の松原千振氏の活動によって、わが国の合唱人にも北欧の合唱曲の愛好家が増えてきたのは嬉しい。しかし、情報源が楽譜や CD に限られ、本場の合唱団の生演奏を聴く機会が少ない状況を考えると、気がかりなことがある。それは、楽譜や音源は「形」を伝えることは出来ても、その「心」までは伝えてくれないということである。その「心」とは、合唱演奏会の楽しさ。
私は、YL やスウェーデン放送合唱団も好きだが、スウェーデン王立男声合唱団(オルフェイ・ドレンガー、略して OD )がとりわけ好きである。たびたび来日しているためか、わが国には YL のファンが多いが、OD の発声法やハーモニーの作り方を知ると、日本の合唱団には YL より OD の方が向いていると思う。私はこれまで OD を、一度だけ来日した演奏会(指揮:エリック・エリクソン)、多くの LP レコードや CD、更に、1992年には本拠地のウプサラ大学のホールでの演奏会、と聴いてきた。
 
●     OD の「プロムナード・コンサート」
ストックホルム北方約 60Km のウプサラで開催された1992年の、「プロムナード・コンサート」と名づけられた演奏会は、指揮者がエリック・エリクソンからロバート・スンドに代わった後だった。ビートルズの「ミッシェル」で始まり、バンド(トリオ)をバックにジャズを歌い、お得意のアルベーンを代表とするスウェーデンの合唱曲を歌い、詩の朗読があり、時には団員が出てきて指揮者をからかったりして、一つのショーとして楽しめるものだった。(これと似た雰囲気を伝える LP が2枚あるが、CD には無いようだ。) 聴衆の平均年齢も40歳以上に見えたが、実によく笑い、楽しんでいた。OD は世界中の合唱祭や合唱シンポジュームにも招かれるそうだが、それを伝える記事でも彼らの楽しそうなパフォーマンスの写真を見たことがある。
 
●     合唱の楽しさを味わうために
ヘルシンキ大学男声合唱団の来日公演もそうだが、北欧の合唱団の演奏会は楽しく、途中に聴衆の笑いを誘う場面があり、それこそ一般市民が合唱を楽しめる雰囲気がある。わが国の合唱人はもっと北欧の合唱団、特に OD を聴いて欲しい。多くの日本人が海外旅行に行くこの時代、合唱人が合唱演奏会を聴くために北欧を訪ねるのも良いのではなかろうか。合唱の楽しさは生のステージからしか伝わらない。  ()



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参考) スウェーデン王立男声合唱団( OD )HOME PAGEhttp://www.od.se/




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