K-5


 
  ヨネンコクチ???

 


尾 形 義 秀
 

 



 皆様は「ヨネンコクチ」の意味がお分かりになりますか? 
 「小学校4年生」になった告知でも、或いは「余命が後4年」という告知でもありません。皆様、それぞれに想像されてから後段をお読み下さい。

 時代は一気に元禄15年の年の瀬に戻ります。
 赤穂浪士の一人であった大高源五は、俳名を子葉といい、当時有名な俳人でもありました。赤穂浪士としての彼の役目は、吉良上野介が在宅の日を探ることでした。そのために、 彼は、先ず、蕉門十哲の一人である俳人宝井(榎本)其角に弟子入りし、其角を介して茶人の山田宗偏の弟子になり、茶道具運びとして吉良邸に出入りするようになります。 然し、上野介が確実に在宅する日がなかなかつかめません。
 元禄15年の年の瀬、日本橋の上で、子葉大高源五と山田宗偏がバッタリ出くわします。子葉大高源五が、「宗匠どちらまで?」と声をかけました。そこここから上がる焚き火の煙りを、 橋の上から目にした宗偏が、

    「落ち葉焚く、いずこの空や十四日」

と俳句で答えます。これを聞いた、子葉大高源五ハット「そうか、上野介の茶会は十四日」なのかと合点します。ことほど左様に、落ち葉焚きは、江戸時代から年の瀬の風物詩の一つでした。

 我が家の庭にも、欅、柿、ざくろ、どうだん、のうぜん葛、海棠、山法師等落葉樹が10本ほどあります。早いものは、11月の末ころからハラハラと葉を落とし始めます。その頃庭掃除をしても後から後から落葉しますので徒労に終わります。よくしたもので、12月の中頃には大方落葉し、庭や通りのおちこちにたまります。

 私も、江戸時代のひそみに倣った訳ではありませんが、2年前のまさしく12月14日落ち葉を集め、焚き火をしようとしました。火を付けようとしたところ、30年輩の女性が、「焚き火をしてはいけないんですよ」と云って通り過ぎました。おそらく、野焼きをすると、ダイオキシンが発生するとの情報を聞きかじってのことと思います。然し、市条例でもあったら厄介だと考えた私は、先ず市役所に電話しました。
 例によってあちこち転送されたあげく、「そのような条例はありませんが、念のため、消防署に確認してください」との回答を得ました。消防署となると都条例か、ややこしいなと、いぶかりながら、消防署に電話しました。やはり数回転送された挙げ句、「焚き火禁止の都条例はありません。念のため、市役所にも確認しましたが、市条例もありません、ただし、焚き火をするに当たっては、『ヨネンコクチ』をして下さい」と妙な意味不明の回答を得ました。
 私が、「『ヨネンコクチ』とはなにか? どういう字を書くのか?」ときつい調子で質問しまし た。帰ってきた返事は、「予燃告知」でした。敢えて英語でいえば“preliminary notice of fire”とでもなるでしょうか。焚き火をするに当たっては、予め焚き火をする人の氏名、焚き火をする年月日、時刻等を電話で予告して下さい、という意味でした。
 皆様の想像と合致していましたか? 皆様どう思われますか?

 

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