E-68

 

ゼロ金利政策と庶民感覚
 


加 藤 良 一
 

2007年8月2日

 


 日銀の大きな役割の一つは、金融政策を通じて物価と経済の安定を図ることである、と日銀法に規定されているそうだ。この“なんやかや”欄に先日掲載した島崎弘幸氏の「金、kane、かね」(E-67)は、庶民感覚から日銀のゼロ金利政策に噛み付いたものである。

日銀のゼロ金利政策と、銀行の合併や統合でかろうじて生き延びたのは事実であろう。最近は、その公的資金を国に返還し始めていて、「どうだァ・・・」とばかりに、返還を始めた銀行は見得を切っているようにも思えるが、ちょっと待て・・・、「その金はだれの金だ」と、銀行各社に問いたい。その金は、庶民の預金に、これまでほとんど金利を払わなかったからじゃないのか・・・と。


 私自身も経済はまったくの門外漢でくわしいことは判らないが、庶民としては大いに気になるところである。そこで、金利がゼロとはどのようなことか調べてみた。
 ゼロ金利政策とは「超短期の銀行間の資金の貸借りの金利を実質ゼロに近づける政策」で、ここでいう超短期というのはまさに一日のこと。つまり、オーバーナイト金利をゼロにすること。日銀がゼロ金利政策を決定したのは1999年2月。それは、金融危機懸念とそれに伴う景気の悪化やデフレスパイラルの懸念が広がりを見せたためで、その後、日銀が市場に資金をどんどん供給し、銀行間のオーバーナイト金利をほとんどゼロになるまで誘導した。
 ゼロ金利政策は、それなりの効果を発揮し景気が緩やかに回復したのを受け、日銀は 2000年8月、ゼロ金利政策を解除した。このときは、政府や専門家から時期尚早と反対があったが押し切ったという。ところが日銀が考えていたほどには日本経済は回復せず、デフレ進行の中で再び悪化し日銀に批判が集中した。実際には、国内問題だけでなく、米国経済の影響や安価な海外製品の流入なども無視できず、ゼロ金利政策解除がすべての元凶というわけではないようだが。その後、日銀は 2001年3月、ふたたびゼロ金利政策を復活させた。というあたりまで調べたところで、島崎弘幸氏の「金、kane、かね」を掲載したことを掲示板にカキコんだ。

 


「金、kane、かね」  投稿者:加藤良一 投稿日:2007年 6月28日(木)

 ご常連の島崎さんが、日銀のゼロ金利政策について書いてくれた「金、kane、かね」をなんやかや欄に掲載しました。庶民感覚に溢れる怒りの一文だと思います。
 ゼロ金利政策は、ファイナンシャル・プランナーの石原敬子氏によれば、@超短期の銀行間の資金の貸借りの金利を実質ゼロに近づける政策、A金融市場の一時的混乱により、優良な銀行や企業までもが資金が借りられないことによって倒産してしまう事態を避けるため行った非常手段、B景気回復に伴い一旦解除されたが、米国同時テロ後の景気下降により再開された、とのことです。
 ゼロ金利政策の元では、本来なら破綻すべき企業が再生の見込みもないままに生き延び、不良債権の処理を遅らせているという面があるようです。構造改革派の専門家の中には、金利を3−4%に引き上げて、倒産寸前の企業は倒産させて、速やかに市場から退場させて、構造改革を行うべきだと主張する人もいるとか。
 メリット、デメリット双方を知ることがフェアーでしょうから、詳しくは下記のHPをご覧ください。
http://allabout.co.jp/career/economyabc/closeup/CU20030110A/


(↑紹介したHPの記事がいつまで掲載されているかは判らない。見に行ったら消えていたということもあるかも知れないが、当方では責任を負いかねるのでそのときはご容赦願いたい。)

このカキコに対し、みつおおぎ氏がつぎのような解説をしてくれた。


Re: 「金、kane、かね」  投稿者:みつおおぎ  投稿日:2007年 7月 1日(日)

 ゼロ金利政策がとられた背景は、景気低迷とデフレ現象です。長期金利は経済成長率+物価上昇率によって市場で決まって行きますが、政策金利である短期金利は日銀のオペレーションによって誘導されます。もちろん金利が低めに誘導されますとお金の貸し手から借り手への所得移転が起こりましから、預金者のミクロの怒りもある意味納得が行くのかなアとも思います。しかし、マクロの景気が落ち込んでしまったら、些細な預金金利所得より給与所得そのものが落ち込んでしまい、可処分所得の減少という意味で怒りはもっと大きくなってしまうでしょう。
 金利が低下する過程において、数年前は日本経済の中で教科書に出てくるような流動性トラップが発生していました。金利が下がっても投資が増えない状態が現実に起こっていたと思います。ゼロ金利政策はこのような事態を打破するために、危機的に採用された政策です。日銀も政策のノリシロが無いので、早く公定歩合を引き上げたいと考えているのでしょう。また流動性供給が多すぎて、株式市場や不動産市場で投資ファンドが横行する様子を良い感じには思っていないはずです。中国等の安い労働力が、日本をはじめとした資本主義経済に組み込まれてしまい、構造的なデフレ圧力が加わる中、金利はなかなか上昇しにくいと思われます。
 日本経済は、労働集約的産業が衰退し、資本集約的知的産業が発展する過程にあるのでしょう。かといって若者の職が奪われてはいないと思います。日本経済の労働力は完全に不足し、売り手市場であり、賃金の上昇傾向すら見受けられます。外食産業や建築労働者は万年不足していますし、学生の就職活動も超売り手市場ですね。
 少子高齢化社会への変化に少しずつ舵を切り、政策も対応し始めた日本経済。景気がそこそこ良い中インフレが起こらず金利も上昇しない、この緩やかな景況感は当分続きそうですね。


ところで、「みつおおぎ」とは聞いたことのない名前だが、どのような人だろうか。けっこう専門的な見地らしいことを書いているところをみると、その筋の人にちがいない。そこで、心当たりを探ってゆくと、私の友人で確か証券アナリストをやっているはずのH氏に辿り着いた。H氏に確認はしてないが、ほぼみつおおぎ氏にまちがいない。


Re:Re: 「金、kane、かね」  投稿者:加藤良一  投稿日:2007年 7月 2日(月)

みつおおぎさん
 ご丁寧な解説ありがとうございます。経済門外漢にとっては少々難解な面もありますが、大筋理解しました。
 ゼロ金利政策は、奥の手というか伝家の宝刀というか、やたらに振りかざすものではないのですね。<預金者のミクロの怒り>とはうまいことを言いますね。経済をマクロ的視点で捉える必要は分かりますが、ミクロの不満も切実なものがありますからね。


 





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