2 .                                                                                         

         化石fossils

               化石、ずっと不思議だと思わされてきたもの

               かつて存在していた身体の殻を今もまとい

               存在の痕跡を刻印されたものとして

               生きていた往時の体は去り行き、その命の炎も絶ち消えた時代になおも居残り、在り続けねばならぬもの


     
               化石よ、君に心はないものなのか

               君は、ただ自然を従順に信奉し今日を自然に従ってあるあれら非生物と同等のものなのか           

               その欠片(かけら)、死も無く、意志も無く、何物も宿りはしないものなのか



               化石よ、かつて存命した生命は今をどこへ、今、君はそれを思い出す「よすが」でしかないのだろうか

               「よすが」と言えば、君はヒトが造る「よすが」としての「墓」に似てはいない

               「墓」は容易に朽ちていく、だが

               造化によってこそ造られた君はそうたやすく朽ちたり消え去ったりはしない



               化石、ふぉしるふぁっさる、

               過去を想起させつつ現在をなおも生きねばならないもの

               君がそのように「自然」からずっと残るように命令されているのなら

               ・・またもしこの世に「宇宙」というものがあるのなら

               君の存在はまさに小さな「宇宙」そのもの

               なぜなら、宇宙と化石、どちらも死と生を貫いた大宇宙の輪廻に組み込まれてある、幾つもの「宇宙」としてあるのだから

               宇宙が悠久を旅するのなら、君もまた悠久を旅するもの



               自身の生身の生命も消え失せたまま、自らが無い時代をなおも生き続けなければならぬもの、その化石よ、

                そして、

               そういった化石と同様、 ヒトの中にもまたそのように自分が無い時代を生きることを強いられた人びとがいる。

               ( ―― そのことをわかってほしい。何らかのやむをえない理由で、命と炎は無くしたも同様奪い去られ、

                ただ抜け殻の体だけをかろうじてまとい、維持して生きていかねばならない人びとを・・・)

               人にもまた、自らの命を燃やすことができず、ただ空蝉のごとく時間の中に体をさらし余生を見送り続けなければならない人がいる。

  

               君の存在は、それらの人びとにとって辛さを感じると同時に救いともなるもの

               それらの人びとは、化石を、やはりこの世のひとつの不思議として、誌し伝え、読み知る、手に取る

                それらの自由だけは保持し得て

               化石と同じ日々、同じ時代を生き続けているのだから。

                                                                                       

         
       郊外点景

             帰化鳥はいつまでも帰化できないと言うようにそそくさと飛び立ち
 
              中空ではカラス一羽がさながら鳶の真似事をするように旋回する、が似合うはずなく慌ただしく羽をばたつかせ降下する
 
 
             春の町はずれ、郊外の手植えの苗、水張りの田に
 
              淡水魚の稚魚やおたまじゃくしが泳ぎ、とんぼは水平に飛行している、嘴の長い鳥も来る――この情景が今あることに驚き
 
 
             楠の若木に架けたハンモックのある緑陰、芝にクロスが敷かれ、その向こうへ桃の木の果樹園が続いている
 
              さらに奥の遠景に灌木の茂みが横たわっている。果樹園とは輝きの言葉、人の生の陽の側面の(いい)だと眺める
 
 
             切り口は苔、腐食の葉、枝切れ、土くれ等に覆われ、捻れ見捨てられたただの灰色の切り株
 
              もしも数センチも下に切ればみずみずしい切断面を再び現してくれるのだろうか、心に思い描く
 
 
             また或る時、
 
             黄色に重なり合っては少し盛り上がっている枯れ葉、落ち葉の集まりとうずくまり、それらを雨が色いっそう艶やかに打ち
 
              煙るような水の光で包んでいた
 
 
             また或る時は、
 
             天の四空一面に拡がる薄い雲、その奥で月のように淡く輝く太陽が、今しもその在り処を示し見事な陽炎を雲越しに円周の外に揺らしていた
 
 
             冬も半ばを過ぎ山裾の道縁り、畑の野面、人家の小庭、素朴な神社の境内にとそこここに結びほころび咲く花
 
              雪や寒風、みぞれの曇りの中でもその花の香を(おこ)させる佳い一日
 
 
             これら地上と天空に見るもの、これからもあり続けていくのだろうか
 
              いや、それとも、今はただ偶然と蓋然の際を辿るあやうい途次であるに過ぎず、すべて存続は限りも分からず予測もできないものというのだろうか




               泉
                    何もいらない
                    泉が・・

                    人の手を借りず
                    自然(じねん)に  こんこんと
                    湧き出づる水

                    周りに
                    野があるかどうか
                    (分からない)

                    しびれた  夢の泉か・・
                    一隅  ふつと
                    滲み出づる

                    開くことへの  根源的な
                    呼び醒まし

                    僅かの  伏流水に
                    焦がれと

                    からびた脳髄に
                    晴れた日中も
                    漆黒の夜も

                    届くものへの
                    下方の流れ

                    何もいらない
                    ただ

                    泉が・・                                                                                                     
                                                                                          
 
                                                                     
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