化石fossils
化石、ずっと不思議だと思わされてきたもの
かつて存在していた身体の殻を今もまとい
存在の痕跡を刻印されたものとして
生きていた往時の体は去り行き、その命の炎も絶ち消えた時代になおも居残り、在り続けねばならぬもの
化石よ、君に心はないものなのか
君は、ただ自然を従順に信奉し今日を自然に従ってあるあれら非生物と同等のものなのか
その
化石よ、かつて存命した生命は今をどこへ、今、君はそれを思い出す「よすが」でしかないのだろうか
「よすが」と言えば、君はヒトが造る「よすが」としての「墓」に似てはいない
「墓」は容易に朽ちていく、だが
造化によってこそ造られた君はそうたやすく朽ちたり消え去ったりはしない
化石、ふぉしるふぁっさる、
過去を想起させつつ現在をなおも生きねばならないもの
君がそのように「自然」からずっと残るように命令されているのなら
・・またもしこの世に「宇宙」というものがあるのなら
君の存在はまさに小さな「宇宙」そのもの
なぜなら、宇宙と化石、どちらも死と生を貫いた大宇宙の輪廻に組み込まれてある、幾つもの「宇宙」としてあるのだから
宇宙が悠久を旅するのなら、君もまた悠久を旅するもの
自身の生身の生命も消え失せたまま、自らが無い時代をなおも生き続けなければならぬもの、その化石よ、
そして、
そういった化石と同様、 ヒトの中にもまたそのように自分が無い時代を生きることを強いられた人びとがいる。
( ―― そのことをわかってほしい。何らかのやむをえない理由で、命と炎は無くしたも同様奪い去られ、
ただ抜け殻の体だけをかろうじてまとい、維持して生きていかねばならない人びとを・・・)
人にもまた、自らの命を燃やすことができず、ただ空蝉のごとく時間の中に体をさらし余生を見送り続けなければならない人がいる。
君の存在は、それらの人びとにとって辛さを感じると同時に救いともなるもの
それらの人びとは、化石を、やはりこの世のひとつの不思議として、誌し伝え、読み知る、手に取る
それらの自由だけは保持し得て
化石と同じ日々、同じ時代を生き続けているのだから。