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HP管理人が観た映画の感想



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 岡山映画鑑賞会  〒700-0822 岡山市北区表町1-4-64 上之町ビル4階
   Tel 090-9732-3330
   URL http://www.max.hi-ho.ne.jp/okayamaeikan/index.html
   Email okayamaeikan@max.hi-ho.ne.jp

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リストマーク 最近見た映画の感想(HP管理人) 
  56 「精神0
  (監督:想田 和弘)
  (出演:山本 昌知、山本 芳子)


 想田監督とHP管理人 (右が想田監督)
  ドキュメンタリー映画「精神」を見たのが2009年7月19日。それから11年。作品の被写体は「こらーる岡山(現在は閉院)」に通う患者さんから、山本昌知医師と妻の芳子さんに変化している。
 途中で挟まれる白黒の映像に映るテキパキした様子が無くなった芳子さんはいつもニコニコと座っている。
 穏やかな老夫婦の姿をじっくり観察した映画である。  (2020.7/10)
   →「精神」の感想はこちら
  55 「FAKE
  (監督:森達也)
  (出演:佐村河内守、妻、両親)
 オウム真理教信者を撮った「A2」以来、森達也監督の15年ぶりの監督作品。
 自分のイメージを示して新垣隆氏に作曲を依頼していた聾者の佐村河内守氏が、マスコミを主体とする勢力からバッシングを受けて自宅に籠もっている所から撮影がスタートする。
 佐村河内夫妻が苦悩する一方、新垣隆氏などの関与者は正式な取材申し出に応じない卑怯さも炙り出していく。
 森監督は佐村河内氏に一つの仕掛けをしてその成果を達成し、さらに被写体への問いかけの答えを待つ場面でクローズしている。
 マスコミやネット住民によるバッシングにより追い詰められたのは、この佐村河内氏だけでなく、STAP細胞研究の小保方晴子氏や東京五輪エンブレムの佐野研二郎氏など、すぐに思い出せるほど多い。
 佐村河内氏に立派なことを言って番組出演を依頼しながら、断られると嘲りの対象とする番組制作者の非常識さを映し出しているが、そのような番組を家庭で見て笑っている自分が存在しないよう戒めたい。 (2016.6/25)
  54 「ヤクザと憲法
  (監督:圡方宏史)
  (出演:二代目東組二代目清勇会)
 組事務所の内部やそこでの組員の日常を見るだけでも価値がある。若い「部屋住み」を殴る(カメラは入れない密室での出来事なので想像だが)シーンはあるが、淡々とした日常。
 マフィアのようにアンダーグラウンドではなく、存在することは認めながら暴力団排除条例で暴力団員や家族、関係者をとことん追い詰めることに疑問を感じさせられた。
 自分から暴力団に入りたいと来た21才が言っていた「異質な人も受け入れられる社会」という言葉や日本国籍がないから投票に行けないという65歳の組員など、暴力団が弱者の受皿の一つになっていることを実感した。 締め付けて組員が減れば、行場のない人達は何処に行けばいいのか。
 昔はヤクザを含めて社会全体で支えていたのが、自分には関係ないこととして行政に負わせているのではないか。  (2016.2/28)
  53 「独裁者と小さな孫
  (監督:モフセン・マフマルバフ)
  (出演:ミシャ・ゴミアシュウィリ、
     ダチ・オルウエラシュウィリ)
 独裁政権が革命によって崩れ、大統領と幼い孫二人が逃亡するが最後は民兵や住民に見つかって捕らえられるまでの物語。
 独裁政権に反対する者は残酷な方法で処刑や拷問し、国民は独裁者への怒りに満ちている。しかし、独裁政権崩壊後は武器を持つ者たちによる略奪やレイプ、殺人が日常茶飯事の暗澹たる社会に変貌してしまう。
 処刑しようとする民衆の中に「怒りの連鎖を止めないと同じことが繰り返される」と言う元政治犯が割って入る。独裁者が処刑されたかどうかを映さずに映画は終わる。
 誰かを敵にして国民の団結を声高に叫ぶ者に踊らされて悲しい目に遭うのはまた国民であることを自覚していきたいと思う映画であった。日本が暗澹たる社会になるのも目前に迫っているのかもしれない。  (2016.2/19)
 52 「北朝鮮強制収容所に生まれて
  (監督:マルク・ヴィーゼ)
  (出演:シン・ドンヒョク、
       クォン・ヒョク、
       オ・ヨンナム)
 北朝鮮強制収容所に収容されていた父母から生まれ、22歳で脱出するまでそこで過ごしたシン・ドンヒョクと強制収容所の所長や秘密警察員のインタビューとシン・ドンヒョクの収容当時の状況を再現したアニメーションにより、北朝鮮の強制収容所の実態を明らかにした映画。
 同じアングルでのインタビューから本人たちの揺れ動く気持ちが伝わってき、想田和弘監督の観察映画を思い起こされた。
 強制収容所の所長は収容者への暴行等をインタビューでは平気で話す一方、韓国で幸せそうな生活を送っている妻と一人息子には自分の過去を話していない。
 このインタビューを聞きながら、マルガレーテ・ファン・トロッタ監督のハンナ・アーレントで語られた「悪の凡庸さ」-ユダヤ人を大量虐殺したアイヒマンは凶悪な人物ではなく、人間としての思考を停止した平凡な人間であった-と同じ人なのだと感じた。
 日本でも少数の者による扇動によって、「悪の凡庸さ」を体現する多くの人が現れることを危惧しなければならない状況になっているように感じる。  (2014.4/15)
 51 「約束
  (監督:齋藤潤一)
  (出演:仲代達矢、樹木希林、
      天野鎮雄、山本太郎)
 昭和36年に起こった「名張毒ぶどう酒事件」の犯人として拘留されている奥西勝死刑囚の再審請求を求める中で明らかになる不十分な証拠の数々。しかし、物的証拠に基づかず、過去にした証言に依拠した判断が続いている。
 再審を認めた裁判官は辞任したり、地方へ飛ばされたりと、客観的な判断を下すことを自分の人生をかけてしなければならない理不尽さ。裁判所の中で闘っている裁判官もいるだろうが、外から見たら過去の過ちを認めない「権力」そのもの。
 奥西裁判の不合理性と自分の人生をかけて支援している人たち、離ればなれにされた息子と母親の姿だけを描けば良かったが、死刑囚のおかれている状況も合わせて描こうとしているため、テーマがぼやけたように感じる場面もあった。
 しかしながら、物証による裁判を受けることさえ拒否され、拘留され続けている人がいることを忘れてはならない。  (2013.5/27)
 50 「ライク・サムワン・イン・ラブ
  (監督:アッバス・キアロスタミ)
  (出演:奥野 匡、高梨 臨、
       加瀬 亮)
 イランの監督が日本人俳優を使って日本で撮影した映画。
 元大学教授が女子大学生のデリバリーヘルス嬢を自宅に招くある日の夜から、女子大生のストーカー的な恋人との付き合いに巻き込まれてしまう翌日の昼までの短い期間に起こる濃密な出来事を描いた映画。
 上京して大学生になったが友人とデリバリーヘルス嬢として働いている女性、女性との結婚だけを望み暴力で相手を従わせようとする自動車整備工、都会の片隅で隠居生活をしている大学教授と彼を見つめ続けている隣家の老女。日本の社会の縮図をイラン人の監督が109分の映画にまとめられたことに驚くと共に、最後の虚無的な終わり方に声が出なかった。
 アッバス・キアロスタミ監督の作品にはイランを舞台にした「友達のうちはどこ?」、「そして人生はつづく」、「オリーブの林をぬけて」やエルマンノ・オルミとケン・ローチとのオムニバス映画「明日へのチケット」があるが、全く趣が違った映画である。  (2012.12/13)
 49 「演劇1、2
  (監督:想田和弘)
  (出演:平田オリザ、青年団)
 「選挙」、「精神」、「Peace」に続く想田和弘監督の観察映画。劇作家で演出家の平田オリザが主宰する劇団「青年団」の稽古や団員を中心に描いた「演劇1」と、平田オリザの活動を中心に描いた「演劇2」で構成されている。どちらも2時間50分の長編作品であるが、全く飽きることなく最後まで映像に引き込まれた。
 補助金がなければ劇団を運営できない厳しい現状の中で、新しい作品を作り自分の演出を続ける平田オリザの魅力が満載で、笑える場面もたくさんあった。当時野党だった民主党の若手議員-前原誠二や細野豪志等-との懇親会の様子も映っていて興味深い。
 また、いろいろな場を活用して演劇を初めとする文化の大切さを説き、演劇界を活性化しようとする活動を続ける姿勢に頭が下がる思いであった。
 青年団の拠点の「こまばアゴラ劇場」のアゴラ(АГОРА)とは、ロシア語で、「古代ギリシャ人の人民集会・集会場」という意味。  (2012.11/21&23)
 48 「第五福竜丸
  (監督:新藤兼人)
  (出演:宇野重吉、乙羽信子)
 1954年(昭和29年)3月1日にアメリカがビキニ環礁で行なった水爆実験で被曝したマグロ漁船「第五福竜丸」とその船員たちの悲劇をドキュメンタリー調に描いた作品。主演は第五福竜丸の無線長久保山愛吉を演じる宇野重吉。
ラストに歌われる「原爆許すまじ」(浅田石二作詞、木下航二作曲)が印象的。

ふるさとの街やかれ 身よりの骨うめし焼土に
今は白い花咲く ああ許すまじ原爆を
三度許すまじ原爆を われらの街に

ふるさとの海荒れて 黒き雨喜びの日はなく
今は舟に人もなし ああ許すまじ原爆を
三度許すまじ原爆を われらの海に

ふるさとの空重く 黒き雲今日も大地おおい
今は空に陽もささず ああ許すまじ原爆を
三度許すまじ原爆を われらの空に

はらからのたえまなき 労働にきずきあぐ富と幸
今はすべてついえ去らん ああ許すまじ原爆を
三度許すまじ原爆を 世界の上に

長崎に原爆が投下されて以降、スリーマイルアイランド、チェルノブイリ、そして福島第一原発の事故で三度以上の放射能汚染が起こっている。
これからも、戦争はなくても原子力発電所の事故は起こりうるだろうし、その負債は今エネルギーを使っている人々すべてが背負わなければならない。(2012.7/6)
 47 「私が、生きる肌
  (監督:ペドロ・アルモドバル)
  (出演:アントニオ・バンデラス、
       エレナ・アナヤ、
       マリサ・パレデス 他)
 「バチ当たり修道院の最期」「神経衰弱ぎりぎりの女たち」といった人間コメディーから、「オール・アバウト・マイ・マザー」やペネロペ・クルス主演の「抱擁のかけら」といったストーリーで見せる作品などを撮っているスペインのペドロ・アルモドバル監督の最新作「私が、生きる肌」は、怪しげな大邸宅を舞台にして、外科医のロベル・レガルと美しいベラ・クルス、不思議な使用人マリリアの生活を描いている。過去と現在を行き来し、意外な結末が待っていたのは、驚きであった。(2012.7/2)
 46 「”私”を生きる
  (監督:土井敏邦)
  (出演:根津公子、佐藤美和子、
      土肥信雄)
 東京都教育委員会が石原慎太郎知事の号令に従い、日の丸・君が代の強制や教職員への圧力を強めている中で、言論の自由や基本的人権をないがしろにすることが生徒の教育にとって良くないとして抵抗する3人の教師を描いている。
 監督は「沈黙を破る-元イスラエル軍将校が語る”占領”」を撮った土井敏邦。
 単に自分が日の丸や君が代をいやだからではなく、生徒の教育のことを考え、追いつめられてもくじけずに反対し、自殺を考えたり体の不調も来している。それでもここまで自分を貫く人々を尊敬せずにはいられない。(2012.3/10)
 45 「プリピャチ
  (監督:ニコラウス・ゲイハルター)
  (出演:プリピャチの住人、
   研究所員、警官、チェルノブイリ
   原発技術者 他)
 「いのちの食べ方(2005)」を撮った、オーストリアのニコラウス・ゲイハルター監督の作品で、1999年に公開されたものが、福島第一原発の事故をきっかけに再映された。
 チェルノブイリ原発から約4kmのゾーン(周辺30kmの立入禁止区域)内にある街、プリピャチに住む人々や関係者を撮っている。
 白黒でナレーションもなく、人々へのインタビューで構成されている。淡々と日常を送る人々はまさに今、福島で暮らしている人たちと重なるが、強制的に移住させたソ連と、「除洗」という、人々の不安感を取り除くことはできない行為に邁進している日本とどちらがいいのか考えさせられる。(2012.3/10)
 44 にほんのうた フィルム映画祭
   のうち、
   「黄金虫」(監督:山下敦弘)
   「花のまち」(監督:手塚眞)
   「世界のどこにでもある、場所
   (監督:大森一樹)
   (出演:熊倉功、柳田衣里佳、
       松村真知子 他)
 「にほんのうた」とは、日本人の大切な文化である唱歌・童謡をこれからも歌い継いでいこうという思いからスタートし、坂本龍一氏プロデュースによる音楽アルバム「にほんのうた第一集〜第四集」をもとに18人の映像作家がショートムービーを制作した。
 その中の「黄金虫」、「花のまち」と、大森一樹監督の「世界のどこにでもある、場所」を見た。「世界の~」は、詐欺容疑で追われている投資会社で働いていた男が、精神科クリニックの治療で動物園と遊園地に来ていた患者達に迷い込むところから始まるところがおもしろく、引き込まれた。誰が患者か誰が先生かが分からず、私も含めて誰もが患者になっても不思議ではないと思わせる。2011年2月26日から上映されたが、すぐに東日本大震災が起こり、上映機会がなかったとのこと。
 上映後、出演者の大関真氏司会で大森一樹監督と緒方明監督の対談も行われた。(2012.3/9)→写真はこちら(工事中)
 43 「世界の夜明けから夕暮れまで
  (制作:東京(日本)、北京(中国)、
   モスクワ(ロシア)、キエフ(ウクラ
   イナ)、ミンスク(ベラルーシ)
   の学生)
 5つの作品のうち、キエフと東京を見た。キエフ編はドニエプル川を下る遊覧船に乗船している人々の会話を撮っており、退役軍人が老女を口説いたり、片腕や片足の傷痍軍人がスターリンの命令により強制的に街から排除された過去を話す人、ロシアの姫がフランス王に嫁いだ話しをいろいろな人にする老人、司祭に宗教の無力を訴える女性、出稼ぎに来た黒人とウクライナの女性など、第二次世界大戦(大祖国戦争)やソ連崩壊を経験した人たちとロシアになってから生まれた人の対比をしていた。見知らぬ人でもすぐに声を掛けて会話が弾む様子は日本人とは全く違うと感じた。
 一方、日本編はラジオ体操をする団体、能を仕込まれる子役、終戦の日に軍服を着て集まる人々、精霊流しと、戦争、集団を切り口にして日本を捉えていた。(2012.3/9)
 42 「汽車はふたたび故郷へ
  (監督:オタール・イオセリアーニ)
  (出演:ダト・タリエラシュヴィリ、
       ビュル・オジェ 他)
 最初、森の中の廃屋で男性二人が女性に映画を見せるところから始まり、ニコとルカ、バルバラの子どもの時代に移る。国内で検閲を受ける映画監督がフランスに出て映画を作るが、プロデューサーによってフィルムをバラバラにされたり、自分の映画の試写会の途中で観客がみんな出て行ってしまうなど失望して再び故郷に戻ってくるストーリーであるが、映画だけを見ているとあらすじがなかなか分からない。
 グルジアのオタール・イオセリアーニ監督の半生を描いた作品であるが、彼はフランスに留まったまま、故郷には帰っていない。(2012.3/9)
 41 「善き人
  (監督:ヴィセンテ・アモリン)
  (出演:ヴィゴ・モーテンセン、ジェイソン・
      アイザックス、ジョディ・ウィッテカー)
 舞台は1937年から1942年、ヒットラー率いるナチ党の勢いが増し、第二次世界大戦に突入する時代。ピアノを弾き続ける妻に代わって家事と娘と息子の世話、認知症の母親の介護に奔走する大学教授がふとしたきっかけでナチ党に入会し、若い教え子と再婚したことから、ユダヤ人の友人や家族を追いつめ、ユダヤ人を迫害する側に図らずも巻き込まれていく。
 ドイツを舞台にしているのに英語で話すことに違和感を感じたが、「特定の時代を描くのではなく、普通の人が時代の波に巻き込まれる姿を描きたい」という監督の話を読んで納得した。(2012.3/2)
 40 「ヤクザガール 二代目は10歳
  (監督:セルゲイ・ボドロフ)
  (出演:荒川 ちか、六平 直政、
       ヴァディム・ドロフェーエフ 他)
 浅野忠信がチンギス・ハーンを演じた「モンゴル」や、チェチェン紛争を撮った「コーカサスの虜」の監督、セルゲイ・ポドロフの娯楽映画で、ヤクザの組長の孫娘と脱獄囚のロシア人のどたばたが軽快なテンポで進み、前二作とは全く違った映画として楽しめた。撮影当時10歳の荒川ちかのロシが語や演技が良かった。(2011.4/30)
 39 「未来を生きる君たちへ
  (監督・原案:スサンネ・ビア
  (出演:ミカエル・パーシュブラント、
   トリーネ・ディアホルム、ウルリッヒ・トムセン)

 スサンネ・ビアはデンマークの女性監督。「アフター・ウェディング」(2006)を見て、その緻密な演出で監督の虜になった。この映画では、迫害によって難民キャンプでの不自由な生活に押し込まれる者、デンマーク在住のスエーデン人がなまりなどで差別されること、それらを同時並行的に展開し、大人の社会で起こっている暴力が、子供の世界にもいじめとして同じよう反映されていることを描いている。原題は「復讐・報復」という意味で、それがこの映画が伝えたかったことであると思う。
 高福祉で総ての人が幸せな国と思っているデンマークやスエーデンを舞台にして、いじめや暴力行為が描かれているのは衝撃であった。   (2011.11/ 1)
 38 「戦火のナージャ
  (監督・脚本:ニキータ・ミハルコフ
  (出演:ニキータ・ミハルコフ、オレグ・メンシ
       コフ、ナージャ・ミハルコワ)

 1994年に制作された「太陽に灼かれて」の続編。出演者も重なっており、全作では8才だったナージャが24才の従軍看護婦として出演し、面影を残しつつも一人前の女性になっていた。全作と同じく、スターリンの独裁に翻弄される人々を描き、前線でのドイツとの戦いは迫力満点である。しかし、全作がスターリン時代の粛正の恐怖感が心に響いてくるのに対し、今作は戦闘シーンと親子愛に主眼が置かれすぎて、のめり込めなかった。
 しかし、ソ連からロシアに代わってからもこれだけの作品を取れる監督はニキータ・ミハルコフ以外にはいない。   (2011.7/25)
 37 「Peace
  (監督・撮影・編集等:想田和弘
  (出演:橋本至郎、柏木寿夫、
       柏木廣子)

 「観察映画・番外編」と題された映画。ナレーションも音楽もなく淡々と人々の日常を描いているが、自分の外ではこんな日常が営まれているのかと、その世界に引き込まれる。街を行き交う人々を撮った映像も、普段見過ごしている風景で、私たちが自分の世界だけに引きこもり、回りを見渡していないことを実感させられる。
 岡山が舞台なので、見慣れた風景が出てくるだけに親近感を感じる一方、自分が知らなかった岡山を見ることができる。   (2011.7/25)
 36 「442 日系部隊
    アメリカ史上最強の陸軍」
  (監督・脚本:すずきじゅんいち
  (出演:退役軍人とその家族)

 第二次世界大戦中に日系アメリカ人で構成された「422連帯」。敵国人と見なされ差別される中、ヨーロッパ戦線で多くの犠牲者を出しながらもユダヤ人収容所の開放などのめざましい活躍をする。
 生存者へのインタビューと当時のフィルムを交互に映し、当時の状況を理解しながら話を聞くことができる。同席する家族が聞いたことのない出来事も話され、生き残ったことの苦しさが胸に響いてくる。
 現在、リビアではアメリカ、イギリス、フランスが空爆をしているが、その下には生きている人々がいることを忘れてはならない。   (2011.3/26)
 35 「RAILWAYS
  (監督・脚本:錦織良成
  (出演:中井貴一、高島礼子、
      本仮谷ユイカ、三浦貴大、
      奈良岡朋子)

 役員候補だった大手家電メーカーを49歳で辞め、夢だった一畑電鉄の運転手になった男の話。出世のことだけを考えてピリピリしていた男が、非常に穏やかな顔つきに変わるのを中井貴一がうまく演じている。松任谷由実の音楽も美しい。映画のテーマは下に書いた「降りていく生き方」と似ている。金や地位、名誉にとらわれている人を客観的に見るとおかしいと感じるが、自分もまた今の生活水準を守るために「降りていく」ことができない。
 錦織良成はハイチで子供達のためにバナナの木から紙を作ろうと奮闘する女性(主演:小山田サユリ)を描いた「ミラクルバナナ」も撮っている。どちらも感動させる作品である。   (2010.6/12)
 34 「降りてゆく生き方
  (監督・脚本:倉貫健二郎
  (出演:武田鉄矢、沢田雅美、
      渡辺裕之、苅谷俊介、
      権藤栄作)


 権藤栄作(HP管理人と一緒に
        撮ってもらいました)
 HPでも「ストーリーは「?」。それは映画を見てのお楽しみ!」とあるので、ほんのさわりだけ。
 限界集落で一人の老人が作る無農薬米が高値をつけていることに目をつけたファンドが、村の土地を買い占めてレジャーランドを建設することを計画する。そのために送り込んだのが団塊世代でうだつの上がらない社員の川本五十六である。村民の信頼を得て土地処分の委任状を取ろうとし、道路建設に伴って金が転がり込む市長の権藤栄作も巻き込んで、計画が進められていく。
 平行して進むもう一つの話は、道路建設のために寂れた商店街を移転させようとする計画に対し、住民が対立する構図である。その中で、亡き父の酒屋と商店街を守っていこうと市長選に立候補して奮闘する息子を描いている。
 2時間余りの上映時間は長いと感じなかった。人と人とのかかわりの中で金儲けだけが目的ではない生き方へと徐々に気持ちが変わっていく川本五十六の姿や市長選に立候補する酒屋の息子の姿を自分に投影し、自分自身を振り返ることができる映画である。自主上映が全国各地に広がっているのも納得できる。   (2010.4/24)
 33 「抱擁のかけら
  (監督:ペドロ・アルモドバル)
  (出演:ペネロペ・クルス、
      ルイス・オマール、
      ブランカ・ポルティージョ、
      タマル・ノバス
 愛し合っていたレナ(ペネロペ・クルス)を交通事故で亡くし、自分も盲目になった映画監督マテオは、ペンネームのハリー・ケーンを名乗り、脚本家として生活している。14年前と現在の映像が交錯し、マテオとレナの過ごした日々が明らかになっていく。
 オードリー・ヘップバーンのように見えたり、愛人とSEXする姿など、ペネロペ・クルスの魅力が満載であるが、マテオの昔の愛人で、息子とともに身の回りの世話をするジュディットなど、脇役とストーリーも見応えがある。
 「バチ当たり修道院の最後」や「神経衰弱ぎりぎりの女たち」などの独特な作品から、「オール・アバウト・マイマザー」のようにほろりとさせられる作品を作るなど、この監督はおもしろい。この作品の最初のシーンもこの監督ならではである。   (2010.4/11)
 32 「ゆずり葉
  (監督:早瀬 憲太郎)
  (出演:庄崎 隆志、福島 一生、
      今井 絵理子、津田
      絵里奈、西村 知美、
      大和田 伸也)
 全日本ろうあ連盟創立60周年を記念して作られた映画。ろうあ者の早瀬憲太郎が脚本を書き、監督もしている。
 ろうあ者に対する差別撤廃運動を8ミリカメラで記録することに一生懸命だった時、子供を身籠った恋人を亡くし、それ以後運動から遠ざかって一人で生きて来た初老の男、敬一。ろうであることを隠して映画俳優になることを目指している若者、吾朗。製作途中で終わっていた映画の続きを撮ることになった敬一とその映画の主役に抜擢された吾朗が映画を撮る中でお互いに変わっていき、最後には二人の意外な関係が明らかになる。
 単に、ろうあ者への差別や生活が描かれているだけでなく、物語としての完成度も高い。年配のろうあ者と若者のろうあ者の感性・生き方の違いも見所だと思う。出演者も今井絵理子、西村知美、大和田伸也など、有名な人が多数出演しているので、ぜひ、見てください。  (2009.9/12)
 31 「チェチェンへ
     -アレクサンドラの旅」
  (監督:アレクサンドル・ソクーロフ)
  (出演:ガリーナ・ヴィシネフスカヤ)
 チェチン共和国のロシア軍駐屯地に孫を訪ねて来る祖母の姿を描いた映画であるが、戦闘場面は出てこず、バザールはロシア軍人などで賑わっている。しかし、体調を崩したアレクサンドラを家に招いたチェチェン人女性のアパートは砲弾によって崩れており、駐屯地では夜間も若い兵士が見張りに立ち、兵士達が慌ただしく出陣していくなど緊張は途切れることがない。
 アレクサンドラが過ごした数日間に出会ったチェチェン人やロシア軍人を見て、ロシア軍はいったい誰と戦っているのか、なぜチェチェンにいなければならないのか、モスクワなどの華やかな世界とはかけ離れた生活を強いている事への矛盾を強く感じる映画であった。
 ソクーロフ監督の昭和天皇を描いた「太陽」もお勧めである。  (2009.8/7)
 30 「精神」
  (監督:想田 和弘)
  (出演:「こらーる岡山」
       のみなさん)


 想田監督(HP管理人と一緒に
        撮ってもらいました)
 ドキュメンタリー映画「精神」は、観察映画と監督が呼ぶ「選挙」に続く第2弾。岡山市にある神経科クリニック「こらーる岡山」の日常を撮っており、患者さんもそのまま映されている。モザイクなしでの出演を依頼して承諾されたのは、10人中1人か2人とのことであるが、みんな自分の症状に苦しみながらも冷静に自分を観察し、「こらーる岡山」では生き生きとした姿も見られる。この映画は観た人に様々な感想をもたらすと思う。「精神障害者は感情が豊か」、「精神障害者は危険」と、一括りで語ることが意味のないことをこの映画の終わりに近い二つの出来事で感じた。上映会終了後、監督、出演者、山本医師の対談の中で、気違い-精神障害者-統合失調症と呼び方は変わったが、自分は変わらないとの発言があった。「障害者」を「障がい者」と書き換えるのと同様、言葉の置き換えで満足しているのは、心や体の障害に苦しんでいる当事者以外の人たちではないかと思う。この映画に出演され亡くなられた3人のご冥福をお祈りします。  (2009.7/20)
 29 「沈黙を破る
  (監督:土井 敏邦)
  (出演:ユダ・シャウール、
       ラミ・エルハナン 他)
 「世界一道徳的な」イスラエル兵として占領地区へ赴任した若い兵士達が、そこでパレスチナ人に対してどのような行為をしたのかを語ることを始めて作られたNGO(非政府組織)が「沈黙を破る」である。証言する兵士はまだ20代の若者であり、その証言には「モンスター(怪物)」という言葉がたびたび出てくる。状況に慣らされ、人がいかに簡単にモンスターになれるのかを彼らが実証している。NGO「沈黙を破る」の顧問は、パレスチナ人の自爆テロによって14歳の娘を殺された父親である。憎しみが消えることはないが、抑圧-反発-恐怖-抑圧の悪循環を断つためには話し合いをするしかないと言う。そして、このドキュメンタリーを撮ったのが日本人であることに驚く。監督である土井敏邦も「理想郷」と言われたイスラエルのキブツで生活をしており、「パレスチナ1948 -NAKBA-」を撮った広河隆一と同じ道筋を辿ってパレスチナにたどり着いたということも興味深い。   (2009.6/22)
 28 「チェ-28歳の革命
    「チェ-39歳別れの手紙
  (監督:スティーヴン・ソダーバーグ)
  (出演:ベニチオ・デル・トロ、
       デミアン・ビチル、
       カタリーナ・サンディノ・モレノ)
 キューバ革命を成功に導く大きな力になった、チェ・ゲバラ。「28歳の革命」では、フィデル・カストロと出会い、医師として、戦士として成長していく姿が描かれている。厳しいゲリラ戦争をくぐり抜け、バティスタ政権を倒し、民衆の歓迎を受けてハバナに入る。そこでは、アルゼンチン人であるゲバラがキューバ人にとっての外国人であることは全く気にされていない。むしろそれを引け目に感じるゲバラをカストロが叱る場面もある。
 一方、ボリビアでの革命を目指してキューバを旅立ったゲバラを描いた「39歳別れの手紙」では、常にゲバラが「外国人」であることが付きまとい、ボリビア共産党の協力や農民の理解が得られず、どんどん苦しい状況に陥っていく。貧困の解消などボリビア民衆のために戦っているにもかかわらず、そのような状況に置かれた彼の心境はどうであったのだろうか。ゲバラは捕らえられ殺されてしまうが、彼の生き方がいつまでも人々の心に残るのは、常に人が平等に幸せになることを目指して戦っていたからだと思う。   (2009.2/20)
 27 「ブタがいた教室
  (監督:前田 哲)
  (出演:妻夫木聡、田畑智子、
       原田美枝子、大杉漣)
 豚を小学生達がクラスで飼った実話をもとにした映画。妻夫木聡扮する先生が子豚を教室に連れて来て、「育てて食べよう!」と提案する場面にどんな展開が待っているのかわくわくした。しかし、豚が大きくなり、今後どうするかを子供達に議論させるところからけだるく感じた。と言うのは、「子供達に決めさせる」という大義名分のもとに教師として結論を出さないいやらしさが目についたからである。
 子供達の議論は、「殺さずに下級生に育ててもらう」と「畜産センターで解体する」の二つに収束するのだが、どちらも「自分達の目の前では死ぬ所を見たくない」という共通の土台で話しをしている。肉屋をしているお父さんが自分が子供の時に見たブタの解体の話しや「自分が解体してやろうか」という提案は先生に伝わることなく消えてしまう。
 この映画をこれ程厳しく批評するのは、やはり「いのちの食べ方」と比較してしまうからだろう。セリフも解説もないその映画では、生きた牛が解体される場面も出てくる。だから、実話に基づいているといっても、きれい事の議論にうんざりしてしまった。パンフレットを読んで妻夫木聡が生徒達といかに信頼関係を築いたか、生徒達がいかに真剣に議論したかは良く分かった。が、やはり自分たちで食べるという結論を出してほしかった。    (2008.11/5)
 26 「12人の怒れる男
  (監督:ニキータ・ミハルコフ)
  (出演:ニキータ・ミハルコフ 他11名
       アプティ・マガマイェフ)
 2時間40分という長さを感じさせない緊迫感があった。ロシア人の養父を殺した罪で裁かれるチェチェン人の少年の陪審員として多民族社会のロシアを代表する人々が選ばれ、言葉の端々にその人の背景が垣間見られる。ニキータ・ミハルコフ扮する退役将校が最後に提案する意外な意見。そして、ほっとして未来に希望が持てる結末。現実は厳しく、議論した部屋を出た人々は充実した時間を過ごしたことをすぐに忘れてしまうかもしれないし、ミハルコフが描こうとしたのは退役将校に象徴される大ロシアによる諸民族の再統一かもしれないが、いずれにしても心暖まる映画だった。   (2008.11/4)
 25 「休暇
  (監督:門井 肇)
  (出演:小林薫、大塚寧々、
       西島秀俊、大杉漣)
 子連れの女性との結婚を控えた刑務官が、有給休暇がもらえるという理由で死刑執行に立ち合う。死刑執行が決った囚人への対応に戸惑う刑務官、死刑囚の単調な日常、面会に来ても何も言えない妹。映画は死刑反対を主張するのではなく、事務的に行われる死刑に関わる人々を描くだけである。また、再婚する女性と初婚の刑務官との素直にはお互いをさらけ出せない心理も絶妙に描いている。
 死刑囚役の西島秀俊はおとなしそうで死刑になることを理不尽に感じさせるが、死刑囚になったのは当然理由がある訳で、決して善良な人ではない。そこを見失うと死刑は残虐で、死刑囚はかわいそうという感情に流されてしまう。悪態をつくヤクザを死刑囚としてこの映画を撮り直してみれば、刑務官の対応や観客の感じ方がどう変わるか興味があるところである。     (2008.11/4)
 24 「イースタン・プロミス
  (監督:デヴィッド・クローネンバーグ)
  (出演:ヴィゴ・モーテンセン、ナオミ・
       ワッツ、ヴァンサン・カッセル)
 ロンドンのロシアン・マフィアの暗黒社会を舞台にした映画で、最後までハラハラさせる1時間40分だった。ストーリーはHPを見てもらえればいいが、主人公のウ゛ィゴ・モーテンセンの存在感がすごくあった。ナオミ・ワッツのボケた演技をフォローしてくれている。デウ゛ィッド・クローネンバーグらしい、首をナイフで掻き切られる生々しいシーンもあり、ファンにとってはたまらない作品である。クローネンバーグの前作、「ヒストリー・オブ・バイオレンス」でもモーテンセンが主役だったそうだが、ぜひ見てみたくなった。クローネンバーグの映画には、「ウ゛ィデオドローム」や「ラビッド」などの初期の作品からのめり込んでいるが、この映画はまた新しいクローネンバーグを感じさせる。    (2008.9/8)
 23 「靖国
  (監督:李 纓(リ・イン))
  (出演:刈谷直治(刀鍛冶職人)
       他)
 自民党の稲田朋美等が、文化庁所管の独立行政法人から助成金を受けて作ったことを問題にし、その後上映中止を求めて右翼が街宣車で上映予定館に押し掛けたことで、上映前から話題となった作品である。
 実際に見た印象は、「靖国神社には多様な人々が来るんだなあ。」である。刀鍛冶職人の刈谷氏へのインタビューや実際に刀を製作するところも興味深かった。稲田議員等が問題とした百人切り競争の新聞記事や南京大虐殺の写真は映画全体を見れば、監督がそれを主題にしているのではないことがすぐに分かる。
 それよりも日本人の烏合性と警察の体質を象徴した二つの場面が印象に残った。一つは、アメリカ人が小泉首相を応援するために星条旗をもって靖国神社を訪れ、この人から直接話を聞いた人たちは「良く来てくれた。」と歓迎していたのに、誰かが星条旗を持っていることを問題にすると、アメリカ人が来た理由を知らない周りの人々が一斉に非難しだして追い出してしまう場面。もう一つは、靖国を批判した男性が集団に殴られて血だらけになったが、警察は犯人を探すことなくこの男性を無理矢理パトカーに押し込めて連れ去った場面である。
 議員による「検閲」が問題にならなければ、私も含めて多くの人々が見ることはなかった映画だと思うので、取り上げられたことは良かったのではと思うが、議員の圧力に屈しなかった映画製作者、文化庁、映画館の関係者がいてこそなので、その方々の努力に感謝します。 (2008.8/18)
 22 「歩いても 歩いても
  (監督:是枝 裕和)
  (出演:阿部寛、夏川結衣、
       YOU、樹木希林
       原田芳雄 他)
 ある夏の一日、長男の法事のために老夫婦が住む実家に集まる次男と長女の家族。特に大きな出来事は起こらないが、お互いの会話や行動を通して、家族が他人の集まりであることを実感させられる。そして、夫婦、その子供と、家族は連綿と繋がっていく。最も近くにいる他人である妻を大切にしようと思う映画であった。
 是枝監督は、「誰も知らない」(主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭主演男優賞)で都会の中で母親に見捨てられた兄弟姉妹を撮った後、「花よりもなほ」で仇討ちの相手を追って貧乏長屋に住む武士を撮り、そしてこのふつうの家族を描いた「歩いても 歩いても」と、作品ごとに映画の対象が全く異なり、それでいて中身の濃い作品になっている、たぐいまれな監督である。 (2008.7/21)
 21 「ぐるりのこと
  (監督:橋口 亮輔)
  (出演:リリー・フランキー、
       木村多江 他)
 子供を流産し、また夫に内緒で堕胎してしまったことで精神的に病んでいく妻とその妻を支える夫との繋がりを温かく映している。法廷画家である夫の仕事を通して1993年から2001年までの事件を織り交ぜながら、不動産屋の兄夫婦、家を出て行った妻の父の存在、自殺した夫の父のことなどなど、この夫婦を取り巻く状況を丹念に描いている。鬱の状態から夫の愛を確認し、天井画を描くことで元気になっていく妻の様子は、髪の毛も短く切って別人のようであった。
 地下鉄サリン事件を起こしたオウム信者、幼女を殺した宮崎勤、小学校生を殺した宅間守などの法廷での姿は、何がこいつらをこんな犯行をする人間にしてしまったのかと、不愉快さと怖さを感じさせるほど緊迫したものであった。
 予定調和的に壺が割られたり、宅間守の暴言に泣くことしかできない遺族など、ちょっと引いてしまう場面もあったが、他人同士が夫婦となってお互いに支え合っていくストーリーはすごく心が温まり、良い映画であった。(2008.7/7)
 20 「モンゴル
  (監督:セルゲイ・ボドロフ)
  (出演:浅野 忠信、スン・ホンレイ、
       クーラン・チュラン 他)
 浅野忠信が演じる若き時代のチンギス・ハーンの活躍を、大自然の映像とともに楽しめた。報道写真家、一ノ瀬泰造を描いた映画、「地雷を踏んだらサヨウナラ」を見た時、「一ノ瀬泰造ではなく、浅野忠信の映画」のように感じ、それ以来浅野忠信を嫌っていた。しかし、「母べえ」での山ちゃん、そしてこの「モンゴル」でモンゴル語を話しながら演じる浅野忠信を見て、すごい役者であることを実感した。
 「コーカサスの虜」以来見る、セルゲイ・ボドロフが監督であったのが良かったのかもしれない。(2008.4/30)
 19 「パレスチナ1948・NAKBA
    (ナクバ)」
  (監督:広河 隆一)
  (出演:ユダヤ人、パレスチナ人
       の人々)
 ユダヤ人といえば、ヒトラーによるホロコーストによって多くの人々が殺された悲劇の民族というイメージしかなかったが、ユダヤ人がイスラエル建国のためにパレスチナ人の村々を破壊し、虐殺したことは知らなかった。
 広河隆一はイスラエル滞在中に見た、ひまわり畑のはずれにある白い瓦礫がなぜあるのかという疑問から、失われたパレスチナ人の村を探し求めていく。
 民族という区別によって、一方が他方を抑圧するという愚かなことが今なお世界の至る所で繰り返されていることは悲しい。(2008.4/21)
 18 「ビルマ、パゴダの影で
  (監督:アイリーヌ・マーティー)
  (出演:ビルマ(ミャンマー)国内の
      人々)
 ビルマ(ミャンマー)国内で行われている少数民族への弾圧と、森を転々と移動しながら暮らす人々の姿を撮っている。軍事政権下にあるビルマで撮影することは困難で、旅行会社の映像資料を作るという理由で許可を取ったこのこと。パゴダ(仏塔)の美しい姿とその元で暮らす人々の苦悩が詰まった映画である。パンフレットはお薦め。(2008.4/21)
 17 「暗殺・リトビネンコ事件
  (監督:アンドレイ・ネクラーソフ)
  (出演:アレクサンドル・リトビネンコ、
      アンナ・ポリトコフスカヤ、
      ボリス・ベレゾフスキー 他)
 '91年11月のソ連邦解体後、社会の富を吸い上げるシステムが完成し、国家ではなく、一部の独裁-反抗者を徹底的につぶす-になってしまった。その組織にいる人はそれまで共産主義・社会主義を推進してきたのに...。マルクスとエンゲルスが唱え、レーニンが実践しようとした、「人が人を搾取することのない世界」の実現は不可能なのか?
 リトビネンコがインタビューの中で「自制」という言葉をよく言っていたが、個々人の自制無くして全体の幸せは生まれない。個性を強調した教育を進めた日本も「自制」を失い、ロシアと同じ道を辿る運命なのかもしれない。(2008.3/10)
 16 「母べえ
  (監督:山田 洋次)
  (脚本:平松 恵美子)
  (出演:吉永 小百合、浅野 忠信、
      壇 れい 他)
 戦争の悲惨さを、人が殺される場面でなく、一家族の姿を通して見せる映画であった。このような映画を今撮れるのは、山田洋次しかないと思う。
 当時の状況を見ているととても息苦しさを感じるが、現代でもマスコミ等が煽ることで、ものすごくぎすぎすしたおおらかさのない機械的な世の中になっているように感じる。これと同じ状況の下で、戦争という一つの方向に向かっていったのがこの映画の時代である。それと同様なことが現代では起こらないとは断言できない。
 脚本・監督助手の平松 恵美子さんは岡山映画鑑賞会の出身です。応援よろしくお願いします。(2008.2/17)
 15 「いのちの食べかた
  (監督:ニコラウス・ゲイハルター)
  (出演:養鶏場、屠殺場、
      トマト農家の人たち 他)
 肉、魚、野菜などの食料生産がいかに効率的に行われているかが良く描かれていた。そこでは「命をいただく」という意識はなく、単なる「物」の処理でしかない。ナレーション等はいっさい無く、そこで今何が行われているのかは、自分たちのこれまでの知識・経験から推測せざるを得ないところもあった。
 自分たちが口にする食べ物がどこでどのように作られているのかを知らないことが、今まさに農薬が検出された中国産冷凍餃子の騒ぎにつながっているのだと思う。(2008.1/14)
 14 「アフター・ザ・ウェディング
  (監督:スサンネ・ビア)
  (出演:マッツ・ミケルセン、シセ・バベ  
     ット・クヌッセン、スティーネ・
     フィッシャー・クリステンセン 他)
 インドで孤児たちを支援する活動をしているヤコブのもとに実業家から巨額の寄付金の申し出が舞い込むことから物語は始まる。実業家の娘の結婚式に出席したヤコブは、20年前に別れた恋人と存在すら知らなかった自分の娘に出会う。
 生まれてから出会ったことがない親子、20年間幸せに暮らしてきた妻、膨大なお金を持ちながら目の前に迫った死から逃れられない養父、インドでヤコブを実の父親のように慕う男の子。いろいろな人々のつながりが描かれ、段々とそれがはっきりしてくる手法の映画にのめり込んでしまった。
 デンマークの女性監督の作品で、「しあわせな孤独」(2002)、「ある愛の風景」(2004)をはじめとして、各国の映画祭で受賞しているとのである。 (2007.11/22)
 13 「クィーン
  (監督:スティーヴン・フリアーズ)
  (出演:ヘラン・ミレン、
      マイケル・シーン 他)
 ダイアナが事故死してからの1週間の女王エリザベス2世とブレア首相のやりとりを主軸にしながら、皇太后、夫フィリップ殿下、息子チャールズ皇太子、ブレア首相の妻シェリーなどの周囲の人々の存在感も感じさせる見応えのある映画であった。
 映画でも語られていたが、チャールズ1世が処刑され、11年という短い間ではあったが人々の上に立つ者がいない共和制を経験したということがイギリスの王室に常に緊張感をもたらしており、多様な意見を受け容れる素地がイギリスにあるのだと思う。
 ロシア人のアレクサンドル・ソクーロフが昭和天皇を描いた「太陽」は見応えがあったが、それが日本映画でないのが寂しい。 (2007.9/21)
 12 「不都合な真実
  (監督:デイビス・グッゲンハイム)
  (出演:アル・ゴア)
 地球の環境が変わってきていることを実際の映像から明らかにし、人類の危機を本当に感じる映画であった。が、この映画を作ったアメリカが世界で一番エネルギーを使っており、京都議定書からも離脱して温室効果ガスの削減にも協力しないのは、地球に住む人々に対する犯罪である。
 この映画で映される議会の様子が、「シッコ」で映されるのとそっくりなのに驚いた。アメリカ議会が巨大企業や金持ちの利益代表でしかなく、公共の利益や弱者に対する配慮がないことを痛感した。
 ロシアや中国の金持ちの私利私欲の追求=経済発展で、喜ばしいこととして報道されているのを見ると、地球の寿命は極端に短いのではないかと危惧する。 (2007.9/8)
 11 「シッコ
  (監督・脚本・製作:
    マイケル・ムーア
 「華氏911」に続くマイケル・ムーアの新作は、アメリカの医療制度であった。アメリカには国民健康保険制度がなく、個々人が民間の保険に加入するが、加入を断られたり加入していても保険の不払い等で安心できない。この映画はアメリカ人が自分の置かれている状況を真剣に考えるきっかけになるのではないかと思う。どうやって行ったのか分からないが、キューバに入国して治療を受けるのもマイケル・ムーアらしい。
 日本でも国民健康保険料を払わない人が増えているというが、そんなことをしていたらそのうちアメリカみたいになっていざという時に路頭に迷うぞ!
 デーブ・スペクターが「アメリカの医療技術は最高で、世界中の金持ちがアメリカで施術を受けたがっている。」と言っているが、このことは、アメリカが「金持ち」には天国で、「貧乏人」には地獄の国であることを証明しているのではないか。 (2007.8/30)
 10 「麦の穂をゆらす風
  (監督:ケン・ローチ
  (出演:キリアン・マーフィー、
   ポードリック・ディレーニー、
   オーラ・フィッツジェラルド 他)
 1920年、イギリスのアイルランド支配に一致団結して戦っていたアイルランド人が、アイルランド自由国を設立するというイギリスとの条約締結の賛否を巡って互いに敵対していく姿をデミアンとテディの兄弟を通して描いたこの作品は、見終わってからも悲しく重苦しい気分になった。
 しかし、今現在でもイラクを始め世界中で宗教・民族等の違いによる対立と殺し合いが続いている。人はなぜ意見の対立を暴力でしか解決できないのか。「中立であれ」とは思わないが、力で解決する風潮が日本中に浸透しないようにしなければと感じた。 (2007.1/28)
 9 「太陽
  (監督:アレクサンドル・ソクーロフ
  (出演:イッセー尾形、佐野
      史郎、桃井かおり 他)
 イッセー尾形演じる昭和天皇の苦悩が伝わってきた。映画はあくまでソクーロフ監督が描くフィクションであり、実際の昭和天皇が現人神としての自分の立場に矛盾を感じていたかどうかはわからない。しかし、昭和天皇だからこそ映画の対象になれたのだと思う。現在の皇族は自己の意志・感情を抑えることなく単なる「特権階級」とて振る舞っているようにしか見えない。
 児島宏子(ロシア語通訳・研究者)さんの撮影秘話を含めた採録シナリオが載っているパンフレット(1000円)もお勧めです。(2006.11/25)
 8 「ミラクルバナナ
  (監督:錦織良成)
  (出演:小山田サユリ、山本
      耕史、アドゴニー 他)
 「バナナの木から紙を作る。」-「タヒチ」と間違えて「ハイチ」の日本大使館の派遣職員となった三島幸子(小山田)がふとしたきっかけで知ったこのことを実現するために奔走する。
 政治的混乱から貧富の差が激しく、学校へ行くことができてもノートを買えないことが現実の国-ハイチで、一人の女性と回りで支える人たち、ハイチの青空とこども達の笑顔に元気をもらえる映画です。 (2006.11/25)
 7 「蛇イチゴ
  (監督:西川美和)
  (出演:つみきみほ、宮迫
      博之、平泉成 他)
 リストラされたことを家族に隠し、毎日娘と仲良く「通勤」する父親。サラ金の借金まみれになっていることも本人以外知らない。ぼけた祖父の葬式で偶然出くわす10年前に勘当した息子。その息子は香典詐欺で転々としている。その出会いから、家族の葛藤が始まる。
 夫婦、親子は一番身近な他人。その他人同士が暮らしているのが家族。他人同士なら好きも嫌いもあり、善人・悪人もいるはずなのに、「幸せな家族」を目標にしようとする。父親の権威がなくなった今、この映画のように「幸せな家族」を演じる家は少数で、家族の中でもエゴやいがみ合いが日常的に行われているのかもしれないが。
 西川監督の心理描写の描き方は、胸に突き刺さること間違いなし。(2006.9/21)
 6 「ゆれる
  (監督:西川美和)
  (出演:オダギリジョー、香川
      照之、真木よう子 他)
 「オダギリジョー」一人だけにスポットライトが当たる映画かと、余り期待せずに見に行ったが、兄役の香川照之が味わい深く、拘置所での強化プラスチックを挟んだふたりの会話に自分の気持ちがもやもやするのを感じながら引き込まれていった。脚本のできが非常に良く、ラストシーン後のふたりがどのようになるのかは、一人一人が違ったシーンを思い浮かべるだろう。残念だったのは、検察官役の木村祐一がミスキャストであるように私には思えたことである。緊迫した法廷劇を日本映画でも見てみたい。西川監督の第1作、「蛇イチゴ」も必見かも。(2006.9/14)
 5 「ゲド戦記
  (監督:宮崎吾朗)
  (出演:ハイタカ、テナー、
      アレン、テルー 他)
 ル=グウィンの原作は読んでいないが、パンフレットによると、アレンが父親を殺す場面などが追加されているようである。ここは宮崎吾朗と父親-駿の関係を暗示しているともとれる。が、そうであればジブリの主作品として作るべきではなかったし、作品としては宮崎駿ファンが作ったアニメの様に感じた。
 元々スタジオジブリは高畑勲や近藤喜文(1998年死去)など、多彩な人々の集まりであったが、その多様性が失われつつあるのではないかと思う。優秀なスタッフやプロデューサーが集まって作るだけに、「売れなければだめ」なのかもしれないが、宮崎駿と並ぶのが息子では悲しい。(2006.8/16)
 4 「」、「A2」、
  「放送禁止歌」、
  「ステージ・ドア
  (監督:森 達也
    写真はこちら
 「オウム」の中から外を撮ることで、ある人や団体を社会が「異端者」と見なした時にとる人間の行動がいかに滑稽で怖いものであるかを気づかせてくれる、「A」と{A2」。
 責任の所在がはっきりしないまま放送することを禁止されてしまう歌がある社会の不気味さを描いた「放送禁止歌」。
 役者を目指す若者が選択されていく世界を描いた「ステージ・ドア」。
 どれも見応えがありながら、見る機会がない映画であった。(2006.7/23)
 3 「不撓不屈
  (監督:森川 時久)
  (出演:滝田栄、松坂慶子、
       夏八木勲 他)
 一人の税理士として国税庁と対峙した実在の人物-飯塚毅氏。1965年頃の高度経済成長期の国家公務員は、自分たちが国を動かしているんだという誇りとともにおごりも強く、理論で抵抗する税理士をつぶすために執った手段-国税局の税務調査や検察庁の強制捜査-の激しさと醜さには目をつぶりたくなった。社会的に弱い経営者を守り、不正義は許さないという信念を貫いた実話を描いたこの映画の上映期間が余りにも短かかったのが悲しい。
 オウムによる松本サリン事件で当初容疑者とされた河野義行氏が冤罪を晴らすまでを連想させた。-「日本の黒い夏」(熊井啓監督)-(2006.7/1)
 2 「ナイト・ウォッチ
  (監督:ティムール・
       ベクマンベトフ)
  (出演:コンスタンチン・
       ハベンスキー 他)
 「マトリックスを凌ぐ映像体験」という宣伝文句に引いてしまい、期待はしていなかった。たが、「闇」と「光」のどちらかに属さねばならない、特殊な能力を持つアザーズたちの対立と駆け引きをテンポ良く見せ、あっという間の2時間であった。
 3部作の1作目で、次は「デイ・ウォッチ」、最後に「ダスト・ウォッチ」の公開が決まっている。FOX配給のため、3作目は英語で撮るとのことだが、やはりロシア語で撮影してこそ味が出ると思う。(2006.4/13)
 1 「リバティーン
  (監督:ローレンス・ダンモア)
  (出演:ジョニー・デップ、
      ロザムント・パイク 他)
 実在した放蕩詩人ロチェスター伯爵ジョン・ウィルモットをジョニー・デップが演じるとのことでどんな映画になるのか期待していた。
 ジョニー・デップの演技はさすがであったが、史実に残る「性に奔放な伯爵」というだけで、落ちぶれてからも最後には見捨てていた妻に頼るし、心に残らない映画であった。(2006.4/13)