Moonshine <Pray and Wish.>
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Interlude 01 「楽園の残骸」

 拓也達が遠ざかっていく姿を、晃司は部屋の窓から見下ろしていた。
 結局、信じて貰えなかった。拓也を利用しようとしていたのは事実だ。だがそれは、彼の持つ力が晃司達にとって必要だったからだ。
(それは、力を持つものの宿命じゃないか……)
 力の有る者がそうでない者からすがられるのは、当然のことだ。適材適所と言い換えることもできるだろう。力の有る者にしか出来ない事もある。
 が、晃司と拓也の関係というのは、これまでのところはそういった事からは無縁のものだった。単純に人と人としての付き合いだったはずだ。その積み重ねは、拓也の持つ力が絡んだ途端にただの取引に成り下がった。
 今まで隠し続けてきた罰だ。そう、これは罰なのだ。
 もっと早い段階で、目的を全て話すべきだったのだ。拓也の力が、まだ眠っていた頃に。そうすればこんな結果にはならなかったはずだ。
 勝てるのだろうか。桜花に。橘花に。
 精人の持つ力は強い。精霊術が対神霊術・対魔術用に産み出された術であるとは言え、それだけで太刀打ちできるのだろうか。その精霊術にしても、桜花や橘花に通用するのかなど、まだ判らないのだ。
「なんだか、疲れたな……」
 その場に座り込み、晃司は呟いた。と同時に、急な睡魔が訪れる。眠れなかった夜が終わろうとしていた。

 誰かの叫び声で晃司は目が覚めた。日差しはあまり強くない。まだ朝早い時間なのだろう。
 誰の声だったか考え、すぐにシェラのものだろうという推論へと至る。
(何があったんだろう?)
 眠い目をこすりながら立ち上がり、晃司は階段を降りた。玄関にへたりこんだシェラが、ドアの外の光景に目を奪われている。
「何があったんだい? シェ…」
 そして晃司も言葉を失った。

 どす黒く変色した大地。幾人もの死体が一筋の道を作り上げ、流れた血が大地を染め上げているのだ。屍は累々と続いている。動くものはない。死んでいるのは、皆、峰誼の里に住んでいた者だ。
「……な、何が……」
 晃司は死体の側を走り、その先にあるものを確かめようとする。無惨な姿をさらしている者達の中には、いくらか見知った顔も有る。
 やがて死体の列は途絶え、一本の刀が突き刺さっていた。
 見覚えがある。理沙のものだ。
「置きみやげのつもりかよっ!!」
 抜いた拳銃で刀を撃つ。刀身がちょうど真ん中で二つに割れ、その柄が地面に転がった。
「許さない……」
 背後でシェラの声がした。
「絶対に、許さない。何があっても、あの女を……」

 そして時間は流れる。

「小十郎、本当にいいのね?」
 最後にもう一度、志帆は尋ねた。
「一度決めたことだから。さ、由香さん」
 姉に向かってにこりと笑い、咲夜小十郎は己の腕を由香へと差し出した。
「……行きます!」
 そして由香は小十郎の右腕へと刀を振り下ろした。

 さらに時は流れて西暦2021年4月。舞台は奈良へと移る。

To be continued.
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