ブルーモザイク(その1)
前々回の終わりに、今回は、モザイクの色々なバリエーションについて書くと予告しましたが、近頃ブルーモザイクについてのご質問を多くいただいているため、これを先にとりあげようと思います。
この品種については、以前から、系統維持が非常に難しいと言われています。実際、系統維持などと言う前に、この品種は種親自体が手に入りにくいというのが現状です。国産グッピーを扱っている熱帯魚ショップではほとんどその姿を見かけず、グッピー専門店においてさえもグレードの高いものに出会えることは稀のようです。このことからもブルーモザイクの系統維持が難しいと言うことがわかります。プロのブリーダーでさえも、販売できるブルーモザイクをつくることは割に合わない仕事ということです。また、過去に出版されたグッピーに関する本などを見ても、これぞブルーモザイク、という個体にはなかなかお目にかかれません。ではまず、ブルーモザイクがなぜこうも難しいといわれるのか、その点から考えて見ましょう。
ブルーモザイクを現在ブリーディング中、あるいは過去に飼育経験のある方ならばおわかりと思いますが、この品種はただ単に赤系のモザイクの体色を遺伝的にブルー、つまりRrという遺伝子型にしたからといって出来るものではない、ということです。この段階の魚は、ほとんどが下腹部に赤い紋が入り、尾鰭が薄く細かいグラスに似たスポット柄の、とてもモザイクとはいえないものになります。これをブルーモザイクといってしまってはブリーダーの技量が疑われます。とはいえ、このまま仔を採り続けても、同じような個体ばかりが出てきます。大抵の人はこの時点であきらめてしまうのではないでしょうか。また、下腹部の赤が取れ、尾柄がスポットでなくなると今度は逆に、濃色部分がぼやけて広がったような、しまりのない模様になってしまいます。しかし、下腹部の赤が取れたということは、ブルーモザイクを作るうえでの大きな進歩といえます。この段階で雌を間違えなければ、次の代にはかなり良い個体が出てくるのですが、何も考えずに雌を選ぶと振り出しに戻ります。こんなことから、この品種は維持が難しいといわれ、手がけるブリーダーが少ないのではないでしょうか。ではなぜ、この品種はこのような表現型になってしまうのでしょうか。
私は過去において、このことについて、遺伝的に解明されているような記事や文献を目にしたことはないので、あくまでも、これまでの経験による推測をもとにおはなしする、ということを前もってお断りしておきます。ただし、私の温室では、下の写真にあるような、ブルーモザイク、あるいはブルーモザイク系の品種を常時つくって在庫しております。これらはけっして偶然の産物ではありませんので一応念のために。
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ブルーモザイク | コーラルブルーモザイク | プラチナアクアマリンブルー モザイク |
OFブルーモザイク |
まず、下腹部に赤い紋が入るのはなぜなのか、いろいろな角度から推測してみましょう。私にはこの現象、遺伝といった方がよいのでしょうか、これをどういう名称で呼ぶのかはわかりません。しかし、ブリーディングの結果からどのようなものかを推測することは可能です。では、遺伝的にどのようなものか分析してみましょう。
グッピーの歴史を思い出してみましょう。ブルー体色が認識されるようになったのは外産のネオンタキシードからといわれています。その後ブルーグラスがつくられ、これが一般に広まると、他にも色々なブルー系の品種がつくられるようになりました。つまりは、ブルー系の国産グッピーとして最初に登場し、爆発的に全国で飼育されるようになったのがブルーグラスということになり、この結果、現在日本国内で飼育されているブルー系の品種は多かれ少なかれ、過去においてほぼ、100%この血を引いている、といえます。
赤系モザイクの雄あるいは雌にブルーグラスの雌または雄を掛け合わせると、次の代にはちょうど先に書いたような下腹部に赤い紋の入った尾柄がモザイクとグラスの中間のような仔が採れます。このことからも、その関連性が伺えます。では、これは遺伝的にどのような性質のものなのか、考えて見ましょう。
まず、この赤色紋とグラスのような尾柄が個体差によるものかまたは、なんらかの遺伝子の影響によるものなのかは、この形質の出現率がはじめはほぼ100%であることから、後者であることは、容易にわかります。では、これはどんな形質の遺伝子でしょう。
考えられることがいくつかあるので仮定をしながら消去していきます。
1、この遺伝子が性染色体Y上にある、つまり、限性遺伝(Y染色体上にある遺伝子によって、雄から雄へと遺伝する形態のこと)する、と仮定した場合、赤色紋のないブルーモザイクをつくるには、この遺伝子がY染色体から抜け落ちるのを待つ、つまりは、突然変異を待つしかないことになり、正解とはいえないでしょう。
2、この遺伝子が性染色体X上に単独である、つまり、伴性遺伝(X染色体上にある遺伝子によって雄にも雌にも遺伝する形態のこと)すると仮定した場合、赤色紋のないブルーモザイクをつくるには、グラス系と交雑したことのない赤系モザイクの雌を使えばその子供の雄は100%それがなくなることになります。しかし、確かな根拠はありませんが、ブルーモザイクの現状から考えて、この仮定は安易に過ぎるような気がします。
3、このような考えから、私はこの遺伝子は常染色体上にあって、ブルーを形成するr遺伝子と密接な関わりがあるのではないかと推測しています。また、その出現率から見ても、優勢遺伝であることは間違いないでしょう。
では、これはどのような遺伝子なのか想像してみましょう。ただし、私はただのブリーダーであって、グッピーの研究者ではないので、正確なことはわかりません。このこともすべて想像ですから、間違っていると思われる方は笑ってください。ご親切な方はご意見をお願いします。ただし、反対意見を下さる方は、その理由をお書き添えくださるよう、お願いします。
遺伝子は染色体の中に組み込まれていますが、しばしば、染色体間を移動します。これはこの遺伝子がふらふらと勝手に移動するわけではなく、たまたま、ちぎれてしまった染色体の一部が、他の染色体に張り付き、その一部分となってしまうようです。これを転座と呼びます。転座は性染色体と常染色体の間でも起こり、グッピーの遺伝でも、プラチナ遺伝子のケースはよく知られています。もともと、Y染色体上にあった、プラチナ遺伝子が常染色体上に転座して若干その性質を変えたものがミカリフやソリッドの遺伝子だといわれています。この例のように、性染色体から常染色体へと遺伝子が移った場合、優勢遺伝だったものが、劣勢遺伝へと性質を変えてしまうことも多いようです。これをもとに、今回のブルーモザイクの赤色紋とグラスのような尾柄について考えてみたのですが、結論からいいますと、もともとは、性染色体X,Y上にあったグラス遺伝子が常染色体上に転座し、ブルーモザイクやブルーモザイクコブラなど、ブルー系で、特に色彩的に淡い表現をする品種に影響を及ぼしているのではないでしょうか。ブルーグラスは登場してまもないころから全国的に広まり、現在でもドイツイエロータキシードと一、二位を争う人気品種です。日本中で飼育され、代を重ねてきています。グッピーの場合、転座のような小規模な突然変異はしばしば起こっているといわれ、今回取り上げているようなことも、ブルーグラスに起こっている、と考えても、よいのではないかと思います。そして、前述のように、多かれ少なかれ、ブルーモザイクはブルーグラスの血をひいていますので、この遺伝子の影響を強く受けてしまうのではないかと思うのです。
ここまで考えてきたことが、正解と言わずとも、それほど的を外れたものでないとすれば、経験豊富なブリーダーならば、ある程度のブルーモザイクは作れます。最初に述べた、ぼやけた尾柄やにじみなどはしっかりと雌を選ぶことによって改善できます。次回は具体的にどうしたら赤色紋のないブルーモザイクを作れるか、また、きれいな尾柄のブルーモザイクを作るにはどうしたらよいかなどについて考えて見ましょう。
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