ブルーモザイク(その3)
今回は、ブルーモザイク(その1、その2)でふれた、下腹部の赤班とグラスのようなスポット状の尾鰭を現出させる遺伝子について、この数週間で新たに思いついたことがあるので、この項では予定を変更して、それについて述べてみたいと思います。
前回、ブルーモザイク(その2)を公開した6月初旬から、現在この項に取り組んでいる7月下旬までの約1ヵ月半の間にも私の温室では、続々と新しい仔が生まれ、育っています。そのなかには、数系統のブルーモザイク系もいます。
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写真(1)(2)は5月上旬生まれ、親はブルーモザイクタキシード雄、モザイクタキシード雌です。この胎ではタキシードを除いて、すべてのブルーモザイクが写真(1)と同じようになってしまいました。また、赤の方は、写真(2)とほぼ同程度のものが揃っています。
写真(3)は4月中旬生まれ、ブルーモザイク雄、モザイクリボン雌の仔です。雄親には赤班はなく、仔にも色柄の差こそあれ、赤班の出ている仔は1匹もいませんでした。
また、ブルーモザイクをブリーディングしている、知り合いの数人のブリーダーにも、最近の結果を知らせてもらいましたが、かなりの数のブルーモザイクのうちの数匹だけに赤班が出た、あるいは全く逆にまともなものは数匹しか採れなかったなどと、こちらも、はっきりとした判断材料になるような答えは得られていません。そんななかで、ひとつの仮説として思いついたことを述べてみます。
ブルーモザイク(その1、その2)ですでに述べましたように、写真(1)のような個体を出現させる要因はグラス遺伝子にあるのではないかというのが私の考えです。そしてそれは、常染色体あるいは、性染色体上に独立した形で存在するのではないかと考えていました。しかし、最近になって、それは限定的な考えであることに気付きました。
グッピーの場合、色、柄、鰭の形など、外面に現れる形態を現出させる遺伝子は染色体上のそれぞれの位置に存在し、単独の場合は、他の遺伝子に干渉されることなく、その遺伝子の特徴を体に表現します。たとえば、モザイク遺伝子、これは、性染色体Y,X上にあってモザイクという品種を表現します。これに対し、それぞれの染色体上に別の遺伝子がある場合、たとえば、Y染色体上の遺伝子がコブラ遺伝子になるとモザイクコブラになります。このように、独立した遺伝子の組み合わせによっていろいろな品種が作られるわけですが、これがさらに発展していくと、遺伝子組み替えなどの突然変異により、ひとつの染色体上に複数の独立した遺伝子を持つものが現れてきました。現在ではギャラクシー、メタルコブラなど、多くの品種が作出されています。これらはいずれも同一染色体上にプラチナとコブラ、メタルとコブラというようにそれぞれからだに違う表現を与える、複数の遺伝子を持っています。そして、同一染色体上に限らず、複数の表現形の異なる遺伝子がある場合、その表現に、さまざまな優劣の差が出てきます。メタルコブラもそのひとつで、本来、メタル遺伝子やコブラ遺伝子がY染色体上に単独で存在する場合は、全身がそれぞれメタル発色あるいはコブラ模様となります。ところがこれらの遺伝子が同時に存在すると、その表現は、上半身がメタル発色、下半身がコブラ模様というように部位に分かれて存在を表すようになります。また、ノーマル体色の時のタキシードのように、その濃色部分で他のすべての色柄を覆い隠してしまうような遺伝子もあります。またまた、前置きが長くなってしまいましたが、これを踏まえて、モザイク、グラス遺伝子について考えを巡らしてみるとどうでしょう。
モザイク、グラス遺伝子はもともと単独で性染色体上にあり、これらがY,X染色体上にそろって存在するときにモザイクあるいはグラスという品種を表現します。では、モザイクとグラスを掛け合わせるとどうなるでしょう。モザイクの背びれを大きくしたいとき、また、モザイクをブルー体色にしたいときなど、われわれはよくモザイクにグラスあるいはブルーグラスを掛け合わせる手法を使ってきました。このときのF1はグラモなどと呼ばれ、少しグラスがかったモザイクという感じになります。この結果でもわかるように、グラスとモザイクの表現の優劣はややモザイクが勝っているように思われます。このF1はそれぞれの性染色体上にグラスとモザイクの遺伝子を単独でもっているわけです。しかし、このような掛け合わせを繰り返すうちに、遺伝子組み換えにより、同一の性染色体上にモザイクとグラス遺伝子を同時にもつものが現れ、これが広まって行ったとしたらどうでしょうか。今回思いついたというのはこのことです。赤系のモザイクはその色彩とはっきりとした柄のためか、グラス遺伝子の影響をあまり強くは受けないようですが、ブルーモザイクとなると、その影響をまともに受けてしまうのではないかと思われます。また、このタイプの遺伝子が、Y,X両染色体上に存在するときと、どちらか一方に存在するときで、その表現も違ってくるのではないでしょうか。また、この場合のグラス遺伝子を意図的に抜くことはできませんので、結果を見ながらこのような系統を使わないようにするしか方法はないでしょう。
これもただの思いつきで、はっきりとしたことはまだわかりません。ただ、写真(1)のような個体が、いつまでも出現する現状を考えると、案外このような理由なのでは、と思っています。このことについて、意見をお持ちの方は是非ご連絡ください。お待ちしています。
次は、ブルーモザイクの雌の選び方について書きます。