グッピーと塩 

   グッピーブリーディングにおいて、初心者とベテランの違いは、と聞かれたら私はひとつは、塩の使い方、と答えます。ベテランと呼ばれるブリーダーの多くは、時には初心者が恐れるほどの量の塩を一度に使い、時には全く使わないというように、上手に塩を使い分けます。これはどういうことかというと、ベテランブリーダーは塩を一種の治療薬、あるいは予防薬として日常用い、魚の状態を観察しながら量を加減しています。
 私の温室でもブラインシュリンプの孵化用の他にも塩を大量に消費します。しかし、忘れてならないのは、塩を薬の代わりに用いるのならば、魚の状態が良いときは薬など使わない方が良いということで、通常は水槽には入れません。人間や動物は薬を常用していると、いざというときに普通の薬では効かなくなってしまうことがあります。グッピーもこれと同じで、常時塩を入れた状態にしておくと、調子を崩したときに立ち直れなかったり、塩の入っていない水では、すぐに病気になってしまうなどの弊害もでてきます。これをうまく使いこなすことができるのがベテランブリーダーです。
 では、どのようなときに塩を使うか、ここでは、基本的な考え方を説明し、後に具体的な用法をそれぞれの項で詳しく説明します。
 もともと、グッピーやタップミノーなど、卵胎生のメダカは僅かな塩分を含む水を好み、野生種は淡水と海水が混じりあう、いわゆる汽水域にも多く生息しているようです。このことからも、適当な塩分が彼らに害になるような心配はないと考えられます。ただ、その方が彼らにとっては調子が良いとしても、もし、その状態で病気になった場合には、きりなく塩を足してゆくわけにはいきません。また、海水魚を飼った経験をお持ちの方はよくおわかりですが、塩水は周囲の鉄を含んだものを錆びさせ、水槽の縁を塩で汚します。やはり、普段は使わないに越したことはありません。では、どのようなときに塩を使うかを説明します。

 感染症の予防
 塩には除菌効果と抗菌性を高める効果があり、さらには、魚体そのものの活性を高める効果があります。私の温室では次のようなときに塩を活用しています。
 
 1、外部から魚を持ち込んだ場合。
 2、ペアリングのときに、別々の水槽から雄雌をひとつの水槽に入れる、幼魚を雄、雌に分け、ストック用の水槽に移すなど、魚を移動する場合。
 3、生まれたばかりの稚魚のハリ病予防。
 4、水換え前日など、水質が悪くなってきて、魚が上ずっているとき。
 5、魚の温室外への移動の際のビニール袋の水に。
 
 以上のように、グッピーにストレスを与えるような環境の変化があるときには、必ず塩を使います。用法は次のとおりです。
 
 1、水槽にアクアセイフなどの粘膜保護剤を入れ、さらに0,5%、水10リットルに対し50gの塩を入れる。
 2、1週間後に半分水替え、塩は足さない。
 3、2週間後、水槽丸洗い。このとき3分の1ほど水を残し塩は足さない。

 この後は通常通りの飼育方法でよいと思います。
 以上は10リットルの水槽を基準にしているので、水槽の大小によって期間は多少変える必要があります。

 この方法ですと、2週間後には塩の量は始めの6分の1になり、その後の水換えや丸洗いによって塩分はほとんどなくなります。

 感染症の治療
 上記のように予防に努めても、グッピーはときには病気に罹ってしまうことがあります。そのときは、早期発見が必須です。グッピーの場合、初心者の方が見ても明らかに病気とわかるような症状を呈している場合、すでに手遅れというケースが多く、こうなっては、どんなに高価な薬を使っても治りません。病気のサインを見逃さないように心掛けましょう。体を砂利などにこすりつける、雄の場合、尾開きの角度が狭くなる、水面近くで上を向いている、泳ぎに活発さがないなど、グッピーがいつもと違う様子を見せたときが要注意です。すぐに、予防のときと同じ10リットルに対して50gの塩を水槽に入れ、様子を見ます。2,3日して改善が見られない場合さらに前回と同じ量の塩を足します。これで1%の食塩水になるわけです。病気が早期に発見できて、比較的症状が軽い場合、これでかなりの確率で治ります。ただし、病気の種類や対処の遅れで助からない場合も多く、その場合は病気が拡散しないよう、早めに見切りをつけることも必要です。病魚を隔離して、熱湯あるいは漂白剤などでその魚が入っていた器具を消毒しなければなりません。
 他の魚と同様、グッピーもいろいろな病気に罹ります。個々の病気については他のHPや雑誌などにもいろいろ書かれていますのでそれを参考にしてください。ここでは、病気の初期段階の治療法にとどめました。
 
 以上、塩の上手な使い方について書きましたが、これが必ずしも最良の方法とは思っていませんので、もっと良い病気の予防法などありましたらぜひ教えてください。

これは100円ショップなどで売られている樹脂製のレンゲです。私の温室ではこれを塩の量を計るのに使っています。塩50gという単位はS水槽(容量約10リットル)の水を0,5%の食塩水にするのに必要な量です。
このレンゲ山盛り1杯の塩が約50gです。S水槽には1杯、M水槽には1杯半、L水槽には2杯が基準です。ほかにも、これより小さいスプーンがいくつかあって、それぞれの用途に使っています。


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