〜コは紅茶のコ〜
「特別の」と少女はため息をついていった。
「薬よ」
「なに、なんだって?」
少女はまたほほえんだ。
眠ったままで白い歯をのぞかせてほほえんだ・
「妙薬よ」と彼女はつぶやいた。「メランコリイに効く」
【メランコリイの妙薬】
ムツカシイ話はさておき、飲もう! 今日はとことん飲みあかそう!
他社の代表的なスリランカ産の紅茶を飲む。
ヌワラエリア、ウバ、キャンディ。
「どれも、根底の味は同じです。後に残る味がみんな同じなんですよ。まあ、飲んでみてください」
白城さんに勧められて、一同飲んでみる。ヌワラエリアは、うげっ! エグさが強烈である。
「これ、嫌いかも〜」という声がチラホラ。ウバは、最初に香りがスウーッと立つ。メンソール系の香り、というんだそうだ。
「これは、いい匂いでシブくないかも〜。うっ。後からだんだん来た!」
やっぱりエグいんである(笑)キャンディ。
「うわー、またシブくなった〜」
「でも、一番めのよりマシー」
「そーかなあ?」
●ボディの話
「セイロン茶のボディというと、後に残るエグ味をさす人が、意外に多いんですよ。そして、この味がわからなければ、まだまだだって言うんですね」
このエグ味は、口に入ると舌を不快に刺激し、トゲトゲといつまでも口に残って取れない。
これは、どのセイロン茶を飲んでも、必ず最後に残る。実は、化学肥料によるものだと言う。
「本来は、ボディというのは、まったく違うものなんですが……。まあ、次を飲んでみてください」
「では、次のを飲んでみてください」
香りがブワッときた。鼻も香りも強い香りに襲われる。
が、スッと抜けていく。匂いが鼻に残らない。
そして、口の中に、あっけないほどエグみもシブみも残らない。
「後口がきれい」という表現は、このためにあるのか。味がないわけではない。
すっきりしているが、刺激的ではない。
さわやかな風味が通りぬけていく。これが、Rookwood's特別限定品のウバである。
「おいしー」
「いい匂いー」すばらしい評価を聞きながら、
ごめんっ!
園丁は苦手なんだ。この香りのタイプと強さが……。でも、このぐらい香りが強いものが、日本人には好まれるのだという。
園丁は日本人ではないのだ。
たぶん。
ETCで普段販売しているプレーン用を飲む。
Mさんが言う。
「ケーキのバターの香りと合いますね。お互いに引き立て合う感じ」白城さんがうなずく。
「本来、そういうものなんですよ。洗い流すんじゃなくてね」最初は濃いめに、2杯めは薄めに淹れる。
「ケーキのように強いものには濃い方が合いますが、だんだん疲れてしまうでしょう? これぐらい薄めに淹れて、おしゃべりしながら、時間をかけて何杯も飲むものなんですよ。濃くなったお茶に差し湯などしながら」
「紅茶の新茶というのを試してみましょうか」
1週間前のできたてと、1か月前にできたミルクティー用の紅茶である。
まず、葉の香りをかぐ。
1週間前の方は、ほとんど香りがしない。ミルクを入れずに、試飲。
「んー。青いというか、とがっているというか……」
1週間前の方が青くさい感じがする。口汚くたとえるなら、草刈りの時の青臭い匂い。
1か月前のも、少し青くさく、まだ少し舌にささくれ立つ感じがある。
「若くて、まだ暴れてるんですよ」
緑茶は新茶が好まれるが、紅茶には熟成期間が必要らしい。ミルクを入れると、味が一転した。
さらりとした味が、急に口蓋の中で香りを増し、コクを出す。
が、まだ青臭さとトゲがある。
「隠し味に砂糖をちょっと入れるといいですよ」
おー。まろやかになった。
が、特徴がなくなったというか、つかみどころがないというか。
「トゲがある方が好きだな。砂糖は入れない方がいい」という意見も。
●ウバ再来!
ここで、ウバ再登場。
香り高い特別限定品ウバが、ミルクティーとなってやってきた。
「おお〜っ。おいしー」
高い評判。絶賛の嵐。
……の中。
ごめん。誰か飲んで。
バチ当たりな園丁は、またもや他の人に頼んだのだった。
特別限定品パート2のヌワラエリヤは好きなのだ。ミルクティーにすると、ふわふわっとして。
でも、ウバはダメじゃむ……(^-^;
※風が味を産む
ところで、Rookwood's紅茶は、同じ農園の同じ場所で、同じRookwoodという品種の木からとれるのに、どうしてウバやヌワラエリアといった、まるっきり風味の違うお茶ができるのだろう?
「風のせいだと言われています」
と、白城さんが説明する。「うちの農園は微妙な場所にあるんですよ。周囲をギャップ(谷)に囲まれた山の上にあって、季節毎に風の方向が変わるんです。乾期で乾燥しているところに、雨期が来ると風が吹いて一面霧に包まれるんです。その風が吹いてくる方向によって、ウバができたり、ヌワラエリアができたりするんです。風によって葉がこすれ、そのストレスによって香りが立つと言われています」
以前は、季節ごとに風が吹く方角が決まっていたが、最近は異常気象の影響か、いつ風が吹くか、どれだけの期間吹くか、変わってしまい、よくわからないのだそうだ。
ウバだとか、ヌワラエリアといった風味を決めるメカニズムも、実は、まだ詳しくはわかっていないらしい。
それにしても、同じ場所、同じ木から、これほど風味の違うお茶ができるのだから、不思議だ。
●Tea with Milkは英語にあらず
いつも販売されているロイヤルミルクティー用と、ミルクティー用を、ミルクありで飲む。
すっかり熟成された茶葉は、ミルクを入れた途端、コクと深い甘みをぐぐっと表に出す。
甘みの正体はテアニンである。「イギリス向けの紅茶は、ミルク入りで試飲されるんですよ。スリランカの試飲会場でも、イギリス向けのは、別に分けられているんです」
「だから、イギリスでは、tea with milkじゃないんです。teaと言ったら、必ずミルク込みなんです(笑)」ところで、ワインのテイスターに欠かせないのが、グジェール。
口直し用の、中身なしのプチシュークリームだ。シュー生地にチーズが練りこまれている。
ティーのテイスターにも、口直しの食べ物はあるのだろうか?
「ありませんね」
とはいえ、きき酒と同じく、飲みこまず、口にしては吐き出すそうだ。
何種類も口にするのだから、味が混ざってしまわないのだろうか?
「混ざるでしょうね。きき分けるのは、香りや渋みといったいくつかの項目だけかも知れませんね」
プレーン用の茶葉にカモミールを入れ、さらにミルクを入れたもの。
プレーン用の茶葉にミルク!?
しかし、意外や意外、すんなり飲める。カモミールの好きな人にも良。
カモミールには薬効があり、ピーターラビットにも風邪用のお茶として出てくる。カモミールの収穫の仕方について、園丁の講釈が始まったが(笑)、ここでは省く。
(園丁の実家には小さなカモミール畑があり、時期になると花摘みをやらされるのだ(笑))
●昔懐かしカプチーノ
シナモンといえば、昔流行ったカプチーノ!
新井素子の作品にも、カプチーノを頼んでシナモンスティックがどうのという描写が出てくるではないか!
そして、2〜3年前、名古屋の喫茶店でカプチーノを頼んだら、そいつが出てきた!
ご丁寧にも、スチームミルクではなく、ホイップクリームが浮いている。
をを、前時代的〜!!(笑)
園丁が飲めなかったのは、ゆーまでもない(笑)
●シナモン余談
園丁は、必殺技アップルパイにもシナモンは決して入れないし、カレー粉でスパイスが分包されてる時は、かならずシナモンを抜く!
シナモンが好きだったのは、人生でたった1品しかない。
修道院のシスターたち(フランス系カナダ人)がクリスマスになると決まって焼いたスパイシーなフルーツパウンドケーキだけである。
子どもの頃でも、1本2,500円ぐらいした、高価なケーキだった。
でも、旨かったなー! シナモンが絶妙にマッチングしてるんだ! シナモンなしなんて考えらんない!
また食べたいけど、もう作ってないみたいだ。
閑話休題。
●……で、感想
シナモンミルクティーは、だから、かなり苦手だった。
「砂糖を入れるといいですよ」
と勧められて、ちょっと入れると、あら不思議。
暴れていたシナモン香がトーンダウンした。
ので、飲めた。
●再び余談
カレー粉の話が出たついでに、カレーの話を。
スリランカの食事は、すべてカレーだそうだ。
朝昼晩、毎度、さらさらのカレーライス。だが、スリランカの人々にとってのカレーとは、日本人にとっての醤油や味噌と同じだという。
醤油を使って肉じゃがも、すき焼きも、そばつゆも作るでしょう?
どれも醤油を使ってるけど、同じ料理じゃない。スリランカのカレーも同じ。
肉は肉、茄子は茄子、芋は芋で別々に煮るし、別々の味つけをしているのだという。
ただ、外国人が食べると、
「でも、どれもカレーだよね」
と思うらしい(笑)おもしろいことに、ホテルで食べるカレーはマズいのだそうだ。
スパイスだけで、なんとかフィッシュという、かつお節みたいな旨味の素が入ってないからだそうだ。 >「美味しんぼ」カレーの項 参照。
ダシを入れないで、醤油だけでそばつゆを作っちゃうのと同じようなものかもね。
漢方薬の先生に頼まれたのだという。
ETCのインターネット販売METEAで、この茶葉を取り扱っていたので、実は事前に入手し、飲んでいた。
味はちょっと弱めだけど、番茶みたいで、けっこう美味しかった。飽きない感じで、カパカパ飲める。が、ここでいただいた茎茶は、もっと茎が細かった。
淹れて見ると、枯れた芝生が浮きまくりってぐらい針千本の姿。
これだけ茶柱が総立ちしたら、人生の幸運をぜんぶ使い果たしたような?(笑)お味は……。
カンポー! なお味でした(笑)
薬草茶っていうか。
昔、紅茶は薬として入ってきたという白城さんのお話が実感できるような……。
A Medicine for Melancholy(メランコリイの妙薬)……?(笑)でも、マズくて飲めないってシロモノではありませんでしたよ。
「クリームダウンしないんですよ」
白城さんが、プレーン用でアイスティーを淹れた。
氷をぎっしり入れたポットに、薄めに淹れた紅茶を一気に注ぎこむ。「普通は、濃く淹れて氷で薄めると思うでしょ? でも、薄めに淹れるんです。冷えると渋みを強く感じるから。そして、一気に冷やすのがコツなんです。クリームダウンしないためには」
クリームダウンとは、紅茶を冷やした時に、紅茶全体が白っぽく濁る現象である。
世の喫茶店のマスター&ママたちは、アイスティーを透明にするのに、日夜ご苦労なさっているのである。
「でも、この紅茶はカフェインが少ないから、ほとんど濁らないんですよ」ここでは出てこなかったが、園丁はアイスのミルクティーもかなり好き。
薄めに淹れて、ミルクをたっぷり入れて、氷をグラスの縁いっぱいに盛り上げて飲むのだ。
ボディがしっかりしているので、薄くなっても味わいが落ちず、のんびり楽しんで飲める。
緑茶の茶どころ「やぶ北」の紅茶である。
飲んでみると、
「? ? ?」
懐かしい匂い。「旧い土蔵の匂い」
「農家の、昔の大きな家の匂い」
「農具とかいっぱい入ってるとこの匂いだよねぇ」ただし、旧い農家に小さい時から出入りしてた人以外には、ピンと来ない匂いかも(笑)
紅茶というには、ちょっと疑問が残った。
日々改良されているそうなので、今後に乞うご期待。
茶を揉むのは、通常機械で行なう。
圧力をかけて、細かくよるのだ。が、目の前には、白城さんの手揉み紅茶が2種類。
1つは、一芯二葉で摘み、揉んだもの。
もう1つは、二葉めが若干固かったため、揉んでいるうちに芯から離れてしまった、その固い二葉めだけを集めたもの。
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一芯二葉 の葉 二葉めだけ の葉 乾燥した状態でも、葉はかなり大きい。
普段は機械で圧力をかけて行うため、小さくなるのだとか。
手揉みでは、あまり小さくならないらしい。
特に、固い二葉めだけの方は、葉が固いので、あまりよれない。
きれいなオレンジ色があらわになっている。淹れてみたら。
どちらも葉が巨大に広がり、時間の経過とともに、ポットの中はジャングルに!(笑)
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ジャンピング中
ジャングル化!(笑) 味は、どちらも薄いというか、やわらかいというか。クセがない。
が、意外なことに、固くて分離した二葉めだけの紅茶が甘い。美味しかった!
芯が入っている方は、若干渋みが入る。
芯と葉の味の違い!?この分では、「二葉めだけの紅茶」が出るかも!?
●ファミレスのオレンジペコー
関係ないけど、某ファミレスでオレンジペコーの説明書きを読んだ。
「2葉めだけを集めて作った」紅茶だと書いてあった。
……オレンジペコーって、葉の大きさの単位で、二葉め云々じゃなかったハズですけど……。
いいのか?(笑)
以上で、試飲は終わった。
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