〜紅茶年代記〜

「さあ、出てきたぞ……」
黄金色の液、
素晴らしく美しい月のエッセンスが流れ出し、
下の受け口からこぼれでてきた。
【たんぽぽのお酒】

では、ポットの葉が開くまで、話に興じるとしよう。

紅茶の産地

ETCで生産販売されているRookwood's紅茶は、スリランカ産である。
スリランカの紅茶は、産地ごとに5つに大別できる。

ヌワラエリア、ウバ、ディンブラ、ルフナ、キャンディ。

それぞれの産地は、標高が異なるため、発酵の仕方も異なる。
紅茶に適した発酵温度は意外に低くて、22〜23度。
高地では気温が低いので、ゆっくり発酵が進むが、
低地では、あっという間に発酵してしまうので、強い風味に仕上がるのだという。

 

一芯二葉

紅茶の製造過程は、摘み取り → 陰干し → 揉む → 発酵 → 高温乾燥 である。

●摘み取り

茶の木の新芽を一芯二葉で摘む。

新芽の先が「芯」で、
1番上と2番めの葉がついている部分までを摘み取るのだ。
 

●陰干し

緑茶にはない過程である。

陰干し用の棚に葉を広げ、戸外の風に充てて約8時間乾燥させる。
乾期ならば、6〜7時間、雨季なら24時間かける場合もある。
気候の他、葉の状態によっても変わる。

もしも陰干しせずに葉を揉むと、汁が出てきて、茶の成分が流れ出してしまう。
そして、あっという間に泡立つ……らしい(笑)

 

●揉む

葉をよったり、大きさを整えたりする。
この過程で葉が傷つけられ、成分が表面をコーティングする。

 

●発酵

揉む過程で表出した成分が、酸素に触れて発酵する。

適した温度は22〜23度。

揉む工程で細かくされるほど、酸素に触れる部分が多くなるので、強発酵となる。
また、高地より低地の方が、温度が高いので、強発酵となる。
発酵が強いほど、風味が強まる。

発酵の頃合いは、色で見分ける。

※オレンジペコー 

「どうしてオレンジペコーというか、諸説あるんですよ」
と、白城さんは語る。

「紅茶は『紅』だからオレンジと表現したとか、水色がオレンジだからだとか、昔は紅茶の葉っぱがオレンジの匂いがしたとか(ツバキ科なのに、そんなバカな!)。
でも、最近、自分で紅茶を作るようになって思ったんですよ。
ちょうどいい発酵の時、オレンジとしか表現できない鮮やかできれいな色になるんです。そこで発酵を止めなくちゃならない。この色が見分けられなくては紅茶が作れない。オレンジペコーのオレンジは、この時の得も言われぬ色からきたんじゃないかと」

「ペコーは中国語で『うぶ毛』のことなんですよ。新しいお茶には、うぶ毛のようなふわふわした毛がついている。それがそのまま残っているほどいいお茶を作ってますよ、という印みたいなものなんです。ホコリじゃないんですよ(笑)」

 

●高温乾燥

 高温の温風を当てると、発酵が止まる。

 

恐るべし実例

これは、スリランカのとある紅茶業者のお話である。
白城さんもびっくりの、ずさんな実話。

●一芯五葉

生産量をアップさせるため、一芯二葉ではなく、「一芯三葉!」と堂々と言うマネージャーもいるらしい。
が、目の前にあるのは、さらにまだ下に固い葉がついている。

「これが一芯三葉? 下の葉はなに?」

5枚は葉っぱがついているそれを指して、白城さんが訊ねたところ、そのマネージャーは胸を張って答えたという。

「それも一芯三葉!」

 

●陰干しは8時間!

「いいかげんなマネージャーかどうかは、陰干し時間を訊いてみればわかる」
と、白城さんは語る。

8時間! と答えたら、いいかげん。
約8時間だが、状態によって6〜7時間の時もあると答えたら、少なくとも勉強はしているマネージャー。

「木も葉も生きてるから、状態によって変わってくるはずなんです」

 

●産めよ殖やせよ

ETCの紅茶は無農薬有機栽培。
肥料の元までたどる徹底ぶり。

「私がスリランカに渡ったばかりの時、現状はひどいものでした。
1970年代にイギリス人が引き上げて以来、大量の化学肥料で微生物が死んでいました」
高度経済成長期の日本では、製鉄会社が化学肥料を大量生産し、スリランカは大量に輸入し、撒いたという。
「私は土を甦らせるところから始めたんです」

これが、エグ味がなく、ミネラル豊富で旨味のある紅茶のできる秘密でもある。

周囲の人々には笑われるという。
化学肥料を撒けば、もっと簡単に、もっと大量に、もっとラクに、もっと儲かるじゃないかと。

また、こうも言う。

「オーガニック(有機栽培)をうたっているからと言って、必ずしも信用できるとは限らないんですよ。オーガニックなら有り得ない収穫量が提示されることは、よくあるんです」

有機栽培に限らず、詐称は少なくない。
データと照合し、真偽を見分ける目を、バイヤーは培わねばならないという。

 

●停電もなんのその

機械で揉まれる際、耐久性のある金属製のローラーを使っていると、葉が高熱を持つという。

「葉が高温になるので、発酵しなくなったり、ひどい時には、真っ黒な炭になったりしますよ」

だから、ETCでは木製のローラーを使っているという。
摩耗し、耐久性に欠けるが、高熱はもたない。

「車を作るようにオートメーションにすればいいってものじゃないんです。ある工場を見に行った時、偶然、停電になったんですよ。その時、機械が止まったのに、誰もなにもしないんですね。発酵が進んで炭になろうと、誰も止めようとしない。お構いなしです」

停電なんだから、しょうがないじゃないか、というのが、彼らの大らかなる言い分らしい。
(……いや、しかし、発酵を放置するのはマズいだろ……)

 

●日本人は香りがお好き

日本人は香りの強い紅茶を好む傾向があるらしい。
ETCの紅茶の香りは強くない(園丁は充分だと思うが。っていうか、いわゆる強烈な香りの紅茶ってのは、鼻が曲がる)。

「うちの紅茶は香りが弱いって言ったら、人から○○や△△という化学物質で香りづけをすれば、ウバやヌワラエリアができるって言われたんですよ(笑)」

……マジメな話である(^-^;

現に、人工香料の偽ウバが多く作られたことが、数年前、イギリスのバイヤーたちに暴露されたらしい。
気候や生産時期などのデータを照合すると、ウソは歴然だったという。
以来、自称ウバは激減し、日本のウバ輸入量は減ったとか。

 

●カフェイン・マジック

コーヒー10グラムと紅茶10グラムに含まれるカフェインの量は、紅茶の方が多いという。

「でもね、数字の落とし穴があるんですよ」
と、白城さんは言う。

コーヒー1杯には10グラムの粉が、
紅茶1杯には3グラムの葉が使われる。

「カップ1杯にしたら、どちらが多いでしょうか?
カフェインの成分もまったく違うんですよ。
コーヒーのは興奮作用を、紅茶のはまったく逆に落ちつかせる作用があるんですよ」

 

●いちごと紅茶の危険な関係

「いちごと紅茶っていうのは、ひじょうに危険な食べ物なんですよ」
ドキッとするようなことを、白城さんが言う。

いちごも紅茶も、白城さん自身が作ってきたものではないか。
すると、白城さんは、もっとも危険な男……?(笑)

「たとえば、コーヒーは安全なんですよ。コーヒー豆は種子ですよね。どんな生物も、子孫を残すところは一番守りが堅いんです。だから、農薬を撒いても、種子には毒が一番回ってこない。
でも、紅茶は葉です。
農薬は最初に土壌に撒くだけでなく、木を植えた後にも、何度もかけた方がよく効きます。じかに葉に、しかも何度もかかります。
そうすると、我々は、ポットで農薬を溶かして飲んでるようなものです。
紅茶を飲み過ぎると頭痛がする人がいますが、ムリもありません」

実は前々から、Mさんも園丁も、他の銘柄の紅茶では体調を崩していたのだ。

Mさん曰く、
「じゃあ、この紅茶だったら、(農薬を使っていないので)気分が悪くならないんですか?」

園丁、こたえて曰く、
「毎日ガブガブ飲んでますけど、悪くなったことありませんよ! それどころか、舌が肥えてきちゃって!(笑)」

無農薬有機栽培のため、土中の微生物が甦り、その土は食べられるほどなのだ。
土中のミネラル分が豊富になり、それが茶を介して、味覚を鋭敏にしているらしいのだ。
実際、味覚が鋭くなったという感想は多い。

一同感心していると、
「いちごもね、ごしごし洗って食べるものではありませんしね。農薬を撒かないと収穫できないので、農家にとっては死活問題ですから、当然撒きます」

農薬というものは、撒いてからしばらく経つと自然分解する、つまり毒性が弱まると言われている。
ドイツでは、ある農薬を収穫1週間前までなら使用していいと許可されているという。
同じ農薬を、某国の某政府機関では3日前までと認めている。
国が違っても、農薬の分解期間は変わらぬはずなのだが……。不思議である。

おまけに、その某国の農家では、3日前でもいいんなら前日だって違わないんじゃないの?と、収穫前日にも、いちごが真っ白になるまで農薬をかける。

近所がみんなそんな調子なのを目の当たりにしているので、園丁の実家では、いちごを自宅用には買わない。庭に自生しているヤツを食う。

ををっと、これは某国での話である。念のため。

 

●もっと怖い紅茶の話

「怖い話なら、たくさんありますよ」
ストーリーテラーのような白城さんはにこやかに話す。

「私の紅茶は、すべて輸出していいという許可をスリランカ政府からもらっているので、こうした機会に遭うことはなかったんですが、たまたま見せてもらうことになりましてね」

スリランカ政府が輸出許可を出すか否かの紅茶の品評会である。

「中に、真っ黒い葉があるんですよ。炭みたいに真っ黒いのがね。これはなんだって訊きましたら……」

石灰――運動会で白線引きに使うアレ――を直に紅茶の葉につけて揉みこむと、黒っぽく色がつくのだそうだ。

「石灰って、毒ですよ。それをすりこんじゃうんですよ。色さえつけばいいからって」

もちろん、輸出不可!である。

「儲けるためなら、あそこまでやっちゃう人もいるんですね」

なんだか、山買って、ベコ飼って、自給自足生活したくなってきたゾ。

 

●紅茶は黒いか紅か

Mさんが言う。
「英語では、レッドティーって言わずに、ブラックティーって言うって聞いたんですけど、本当ですか?」

「ブラックティーって言いますね」
と、白城さん。

「でも、水色は、どう見ても赤ですよね。黒じゃないですよね。葉の色ですか?」

「葉の色なんでしょうね。グリーンティーと比較して、ブラックティーと呼んだんでしょう」

どうやら、石灰で色づけしなくても、ブラックティーと言うらしい(笑)

  

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