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![]() 〜 リュウイン篇 〜
2006.11.25
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手を伸ばし、宙をまさぐった。
おかしい。 エドアルは改めて卓上を眺めた。 ない! もう一度見た。 ない! 頭の芯が熱くなった。 手を鳴らす。 音が部屋に沈んでいく。 もう一度鳴らす。 またか! 朝も同じだった。 「誰か!」 これもまた、朝と同じ。 ちっとも直ってないじゃないか! 居間を大股で突っきった。扉を開け、通路に立つ衛兵を睨みつけた。 「侍女はどうした! 呼び鈴は!」 「私の役目は、不審者を防ぐことです、殿下」 若い衛兵は不思議そうにエドアルを眺めた。 「これが国賓に対する扱いか? 侍女も呼び鈴も、なにもないではないか!」 「ご要望は宰相殿下におっしゃってください」 「今しがた、朝食の席で命じたばかりだ! だいたい、おまえも気をきかせるべきではないか! 国賓が不自由ないよう気を配るのも、臣下の務めだぞ!」 「私の役目は、不審者を防ぐことです、殿下。それに、呼び鈴を壊したのは殿下ご自身です」 きらめくガラス。青や赤や黄色の色とりどりのガラスが床に散らばったさまを思い出して、エドアルの顔はほてった。 たしかに、床に叩きつけたのは自分である。 「誰も来ないからじゃないか! おまえだって、聞こえてたんだろう! すぐご用聞きに来るべきじゃないか!」 「私の役目は不審者の防止です、殿下」 「クビだ! おまえなんかクビだ!」 「ご要望は宰相殿下におっしゃってください、殿下」 「言われなくてもそうするさ! 今、宰相殿に行って、おまえなんか即刻クビにしてやる! 泣き言言ったって遅いからな!」 エドアルは早足で棟を飛びだした。 この国はどうなってるんだ! 狂ってる! エリザ姫も姉上も、この国に来たとたん、おかしくなってしまった! 正さねばならん! 中庭をはさんだ向かいの通路で何かが光った。 金の髪。 濃い青のフード付きマント、その下から長靴が見えている。 「デュール・グレイ!」 エドアルが声をかけると、相手は立ち止まった。 北口の目鼻立ちに似合わぬ灼けた顔。 「みっともない! 着替えもないのか? さっきの粗末なナリといい、我が国に恥をかかせる気か!」 ヒースはニヤと笑った。 「リンネルのひらひらフリルはあんたに任せるよ。ぶかぶかのキュロットも、真っ白いストッキングもな」 「この国はどうなっているんだ! 衛兵にいたってまで、おまえのような口のきき方をする!」 エドアルは怒りをぶちまけた。 「父上がいらしたら、不敬罪で即刻流罪にしてやるのに! いいや、この国をただせるのは、私しかいない! そうではないか?」 ご立派でございます。さすがは王子殿下、ご賢明であらせられます。 ヴァンストンの声が不意に脳裏に甦った。 そうだ! ヴァンストン! 「おまえ、ヴァンストンを知らないか?」 「知らないね」 「では、探しだして、今すぐここに召しだせ!」 「ごめんだね」 ヒースは再び歩きだした。 「待て! 侍女に命じようと思ったのだが、見当たらないのだ。衛兵も横柄だし、これから宰相に直談判に行くのだ! おまえも来い!」 「そいつは忙しいや。王子さまのジャマはしないよ。不敬罪がくっついてたんじゃ、腹が立ちっぱなしだろ」 「ふざけるな! そもそもおまえが悪いんだ! 姉上でさえ、あのように変わられて! そうだ、姉上はどこだ? 戒めてさしあげなければ!」 「まず、リズと仲直りしろよ」 「なにを言う! 女は男に従うものだ! 甘やかしてはためにならん!」 ヒースが吹きだした。 「なんだ! 無礼者!」 「いや。リュウカもたいへんだなあと思って」 「どういう意味だ!」 ヒースは厩に入った。 そこで初めてエドアルは合点した。 青いマントに長靴。 始めからヒースは出かけるつもりだったのだ。 「どこへ行く!」 「決まってんだろ」 ! 「この下種が! 女のことしか頭にないのか!」 ヒースは薄く笑った。 「ご立派な王子さまは、やることが山ほどあんだろ。こんな下種にかまけてないで、とっとと自分のやることやんな」 栗毛にまたがる。 「ま、待て! 私の護衛はどうする!」 「リズのじーちゃんが守ってくれるさ」 「信用できるか! 私のそばには、ヴァンストンもいないのだぞ!」 「知らねーよ」 ヒースは栗毛の腹を蹴った。馬が飛びだす。 「待て!」 エドアルはあわてて馬番を呼んだ。 「勝手に馬を出したぞ! 見逃していいのか!」 馬番は年老いた男で、背筋はしゃっきり立ち、顔つきは頑固そうだった。 「あの方はよいのです」 「なにがいいんだ!」 「王妃さまがもどられたかのようだ」 小さくつぶやいた。 「馬を出せ」 エドアルは叫んだ。 「今すぐだ! あいつに追いつける速い馬だぞ!」 「そのお服では汚れます」 「命令だ! 早くしろ!」 エドアルは鹿毛に乗った。 腹を蹴った。 鹿毛はゆっくりと進みだした。 力が足りなかったか? 踵に力を入れて蹴った。 鹿毛はポクポクと歩いた。 「鞭を貸せ!」 エドアルは振り向いて怒鳴った。 「馬車馬ではありませんよ」 馬番は答えて厩に引っこんだ。 エドアルはさらに両足をふりあげた。 「こんなところで走ったら危ないだろ」 門柱の影から金髪がきらめいた。 「おまえが勝手に先に行くからだ!」 エドアルは怒鳴った。 「この国には、こんな馬しかないのか! 速い馬と言ったのに!」 「ちょうどいいだろ」 ヒースは青いマントのフードをかぶった。 「速すぎじゃ、乗り手が置いてかれるだろ」 「また侮辱するか!」 「イヤならついてくるなよ」 ヒースは馬を進ませた。 「まっ、待て!」 エドアルは急いで追いかけた。
たどりついた先は、小高い丘に建つ屋敷だった。 「こんなところにいるのか?」 たてがみにしがみつきながら、エドアルは訊ねた。 「もう、へたばったか」 ヒースがチラと笑う。 「おまえが悪い! 先へ進むから!」 「これでも待ってやったんだぜ」 「それが臣下の態度か!」 「あんたの臣下じゃねーぜ」 厳密には、貴族はみな国王の臣下である。 「黙れ! もとはといえば、おまえの生まれなど……」 姉上が連れていた子ども。実はそれ以上知らないことに、エドアルは気づいた。 あの姉上が連れていたということは。 もしかしたら、深いお考えがあるのかもしれない。ひょっとすると、ウルサの王の落胤が落ちのびて……。 よぎった考えを急いで打ち消した。 王族とは威厳と高貴さを生まれもつものだ。歌や踊りに明け暮れるこいつは決してちがう! 「おまえを叔父上に預かっていただいたのは名案だったな。あの女とおまえが母子とは、似合いではないか」 「まったくだ。感謝してるぜ、王子さま」 けろりとした顔でヒースは流した。 「その態度はなんだ! 王子に対して無礼だぞ!」 「無礼はそっち。うちのかあちゃんはイイ女だぜ。とうちゃんは見る目あるよ」 「たかが愛人じゃないか」 「あのクソババアのお墨付きがそんなに重要かね」 ぞっと、背筋が凍った。 「王太后陛下だぞ!!」 「王さまもだらねぇぜ。あんなクソババア怖がって、妹は追放するし、弟は結婚させてやれねぇし」 「父上を侮辱するか!」 「なんなら、名誉をかけるか?」 剣の柄が鳴った。 心臓がばくんと反応した。 「暴力はサイテーだ」 エドアルは必死に冷静を努めた。 「それで、どんな女だ?」 「あ?」 「女に会いに来たのだろう?」 美人だろうか。 少なくともこんな屋敷に住んでいるようじゃ田舎者だろう。 いやいや、屋敷の姫君とは限らない。下働きの女中をくどいたのかも知れない。せいぜい、その辺りが似合いだ。 「ちょいと! 割りこみは許さないよ!」 門の前にたむろう乞食の列に馬を乗り入れると、女に怒鳴られた。 「後ろに並びな!」 じろりと、数多の目に睨みつけられる。 「見てわからんのか! 私は……」 乞食なんかと一緒にされてたまるか! 「誰だろうと、順番は守ってもらうよ!」 女は引かない。 「仕事で来たんだよ」 ヒースが朗らかに言った。 「中に入れてくれないかなあ。でないと、あんたたちまで順番回ってこないかもよ」 「あんた、お役人かい?」 乞食たちが色めきだった。 「じゃあ、うちの娘使ってくれよ! 水くみも針仕事もなんでもできる便利な子だよ!」 「うちの息子だって、力には自信あるよ!」 「うちの孫だってね……」 ヒースは人の列を避けて、門の中に入りこんだ。エドアルも必死で続く。 列は敷地内まで延々と続いていた。 おかしな屋敷だなあ、とエドアルは思った。 前庭に花園はなく、踏み固められた地面が広がっていた。棟がいくつあるが、住まいというより工場や蔵のように見えた。 もっとも大きな工場のような建物に列は連なっていた。ヒースはそこへつけて馬から降りた。 迷わず、大きな扉を開ける。 役人らしきお仕着せを着た男が立ちふさがり、ヒースを押し戻そうとした。 ヒースは迷わず男をつきとばした。 なんてことだ! 「デュール・グレイ!」 エドアルは追いかけた。ヒースはどんどん中へ入っていく。 ホールには、椅子に座った乞食が十人ばかりいた。 「賊だ! 取り押さえろ!」 後ろで声があがった。 ホールの奥から数人の衛兵が駆けつけた。 「デュール・グレイ! 謝れ!」 エドアルは必死で叫んだ。 無罪放免とはいかなくとも、自分の口添えがあれば罪も軽くなるだろう。とにかく、この乱暴者をおとなしくさせるのが先決だ。 衛兵たちが抜き身の剣を大きく引いた。 ああ、間に合わない! このまま、自分も仲間として……。 脳裏に一枚の絵が閃いた。剣で貫かれる自分自身! 「デュール・グレイ!」 突きだされる剣先を身軽に交わして、ヒースは懐に飛びこんだ。腕をおさえてみぞおちを打つ。身を翻しながら横の兵に蹴りをくらわす。兵は二馬身は吹っ飛んだ。ヒースはその場で跳ねて後ろの兵に蹴りを入れる。剣が折れ、腰の引けた兵はヒースの二発目の蹴りを受けて床を滑る……。 エドアルの目では、それ以上とらえられなかった。数人があっという間に横たわり、ヒースは迷わずホールわきの扉を開けた。 悲鳴があがった。 数多の足音とざわめき。 ヒースの後から広間に入ったエドアルの目に、隅へ逃げようとする数十人の姿が映った。 衛兵が棒をかまえ、小走りに向かってくる。 やられる! 「衛兵、退がれ」 凛とした女の声が響いた。 「元の位置にもどれ」 「殿下! ここはおまかせください! 一刻も早く殿下は安全な場所へ!」 衛兵が棒をふりおろした。 ヒースは身を翻し、一打めを器用に交わした。懐に入りこみ、相手の腕をつかむ。ねじる。衛兵がうめく。その手から棒が離れる。床に落ちて弾んだ。音がコォーンと反響する。 もうひとりの衛兵が棒をふりあげた。 ヒースは足先に転がった棒を引っかけ、跳ねあげた。腰までふぅわりと浮かびあがる。過たずつかむ。棒は水平に回転し、先端がすばやく衛兵の胸を突いた。 衛兵がよろけて尻もちをついた。 後方に残る衛兵は二人。 ヒースはさらに踏みこみ、棒を突きだした。 衛兵の後ろから、背の高い人影が躍りでた。 突きだされた棒の先を抑える。ヒースの動きが止まる。 「場をわきまえなさい」 静かな声が棒を押し返した。ふくらんだ袖から伸びた豊かなアンガジャントが閃いた。 「いたずらが過ぎる! みな怯えているではないか」 胸元の大きく空いた襟ぐり。青い光沢のあるドレスが、肌の白によく映えている。高く結いあげた黒髪は、金糸のネットでまとめられ、そこかしこに宝石をちりばめている。 叔母上! エドアルは目を疑った。 品のある美しさ。リュウインにありがちな過剰な装飾に走らず、血の高貴さが身からにじみでるような。まさしくパーヴの姫にふさわしい。強い意志を宿す黒い眼。その眼が、今、エドアルに向けられた。 全身がこわばった。 震えが走った。 「外で、待っていなさい。じきに終わるから」 やんわりと、黒髪の美姫は言った。そうじゃない、とエドアルは思った。 もっと毅然とすべきだ。強く、傲慢なほど超然と。 「おまえもだ。用があるなら、後で聞く」 白い細面が傾いて、黒い眼がヒースを見た。 「オレひとりで突破できる守りなんか、イミねぇよ」 ヒースは棒を引っこめて言った。 「客だっていんのにさ。早いとこ守り固めろよ。今日のとこは、オレがそばについててやるけど」 「おまえはエドアルについていなさい」 ヒースは身を翻した。 戸口に向かったが、出ずに、横の壁にとん、と背を預けた。 「始めろよ。客を待たせちゃ悪いだろ。おまえらも物騒なもんしまって、持ち場に立てよ」 おまえがメチャクチャにしたんじゃないか。 エドアルはリュウカを見た。 叱責が飛ぶぞ。剣を抜くかも知れない。 胸が躍った。 しかし、リュウカは小さなため息をついただけだった。身をひるがえし、椅子にもどる。 衛兵を手招きし、何事か話しかけた。 衛兵は扉を出た。やがて、布張りの椅子をひとつ運んでくる。 ヒースの横に置いた。 「エドアル」 リュウカが呼びかけた。 「すまないが、しばらくそこで待っていなさい」 エドアルはムッとした。 「下座にいろとおっしゃるのですか? ここでは、立場上、姉上の隣がふさわしいと存じますが?」 「これはリュウインの国務だ。退がっていなさい」 「だからといって、下座など……!」 「そこが、もっとも安全なのだ。ここは城ではないのだから」 確かに、ヒース如きに負かされる衛兵では心もとない。 「しかし、姉上、気になさる必要はないのではありませんか? 現に、ここまでの途上、賊は現れませんでしたし」 「では、外に出ていなさい」 は? リュウカは広間を見渡した。 「騒がせてすまぬ。これらは私の友人だ。少々にぎやかだが、みなには手荒なことはせぬ。カーミットのオオミキどの、話が中断してしまったな。許せ。続きを」 うるさいのはデュール・グレイです! 私ではありません! 一緒にされては困ります! 抗議したかったが、リュウカはもはやエドアルを見なかった。 まあ、いい。公務中ということで、ここは引いてさしあげよう。しかし、後で必ず抗議しますぞ、姉上! 下座に用意された椅子に着く。 腹の辺りがムカムカしていた。 右を見ると、ヒースの腕が見えた。 顔が見えない。 視線を上にたどり、顎をあげ、見あげた。 不意に、自分の姿勢に気づく。 なんたることだ! 王子たるものが、下々の者を見あげるなんて! 「無礼者! 見下ろすな!」 エドアルは小声で叱りつけた。 ヒースがニヤリと笑った。 「じゃあ、あんたも立てば」 「無礼者! おまえが下がれ!」 ヒースはしゃがみこんだ。 股を大きく広げたさまは、ふてぶてしく、ひどく下品だ。顔には挑発するような笑みまで浮かんでいる。 「ひざまずけ! 臣下の礼をとれ!」 「あんたの臣下じゃないんでね」 「私は王子だぞ! パーヴの者なら、従うのが道理であろう!」 「立場わかってる? 誰が守ってやってんだよ」 「偉そうな! おまえなんか追い出してやる!」 叫んだ。 七、八馬身ほど向こうで、リュウカがふり向いた。 「出ていきなさい」 「悪ィ。静かにするからさ」 間髪入れず、ヒースがウィンクした。 「姉上に! 無礼であろう!」 声をひそめて、エドアルは叱りつけた。 ヒースは大げさに肩をすくめてみせると、遠くに眼を移した。 その視線の先には、青い麻の服を着た農民がいた。リュウカの前にひざまずき、大げさに身振り手振りをしながら話をしていた。 「税は死人からも赤子からも取るのです。畑の代わりに山をあてがい、畑と同じだけの麦を納めよと言うのです。我々の村では、もはや生むことも死ぬこともできません」 どうやらそれは、領主への不満だった。 さらに農民は、娘が領主にとりあげられただの、遠方に開墾に行かされて食うにも困るだのと並べたてた。 「まれに、返される娘がおりますが、決まって孕んでおります。孕んでいてはじゅうぶんに働けませんし、子が生まれたら生まれたで手がかかります。しかし、麦は二人分納めなければなりません。納められなければ村全体に不足分と罰則分が課せられます」 その口ぶりに、エドアルは苛立った。 「領民は、領主の言うことをおとなしく聞いていればよいのだ」 思わず口走った。 「それが民の務めだ。賢しいことを申しおって! 土地のことは、領主が考えておるのだ、民はよけいなことを申さず、すなおに役目を果たせ!」 農民がキッと顔を向けた。 「私腹を肥やすこと以外、何をお考えとおっしゃるのですか」 エドアルの体内で、血が沸騰した。 「口答えするな! そこに直れ! 性根をたたき直してやる! 誰か鞭を持て!」 「つまみ出せ」 リュウカが静かに言った。額に手を当てている。 ほら、見ろ! 姉上だってあきれていらっしゃる……。 足が宙に浮いた。 「何をする!」 後ろから羽交い締めにされていると気づいたときは遅かった。 重い扉から、外に放りだされた。 床に膝をしたたかに打ちつけた。 「痛いっ!」 大声でわめいたが、誰も応じない。扉は閉まった。廊下に人気はない。 ざわめきが聞こえる。だが、それはどことも知れない遠くからだった。 扉を叩こうか。 いや、王子ともあろう者が。 腰をさすりながら起きあがった。 それより、声をたどろう。 あれだけ大勢いるのだ。中には道理のわかる者がいるに違いない。 廊下の角をいくつか曲がると、急に声が失せた。 方角をまちがったのだろうか? 反響にだまされることは、よくある。 戻ってみよう。 いくつかの角を曲がる。 気のせいか、来たときとは違う風景のようだ。 ちがう。 気のせいなどではない。 迷った! どうしよう? 落ち着け。こんなときこそ、王者の風格が試されるのだ。 深呼吸を二度した。 ここは無人じゃない。誰かが通りかかるのを待とう! ……もし、誰も来なかったら? いや、そんなはずはない。空き家ではないし、姉上がきっと気づいて探しにきてくださる。 今ごろ慌てふためいていることだろう。 このまま野垂れ死にしたら、姉上のせいだ! 姉上なんか、一生責任を感じて後悔すればいいんだ! 私を放っておいたら、どんなことになるのかわかっているのか? 私は兄上に命を……。 一気に、血の気が失せた。 そうだった! 私は狙われていたんだ! 膝から力が抜けた。 カタカタと音が鳴っている。 なんだろう? 体の中から響くような、イヤな音……。 それは、自分の歯だった。 背が冷えた。 両腕でギュッと体を抱きしめたが、その手も震えて頼りなかった。 レンフィディックの夜。どこまでも追ってくる夜盗たち。振りあげられる剣。 それとも、ウィックロウでの最後の日。のたうちまわるヴァンストン。床に広がる赤い液体。甘い匂い。 次は剣か毒か、それとも? もどらなければ! エドアルは歩いた。 薄暗い廊下は、さらに暗さを増したような気がした。 足はのろのろと進まず、先は永遠に続くのではないかと思われた。 見覚えないか? 見た気がする。 いや、やっぱり覚えがない。 きっと覚えていないだけだ。角を曲がればきっと思い出せる。 …………。 自問自答ばかりがくり返された。 ますます迷っているような気がする。 そのとき、葉ずれの音がした。 外だ! 心の中がまぶしい光で満ちた。 外にさえ出られれば! 玄関を見つけて入り直せばいい。玄関には、誰かしらいるだろう。そうしたら、姉上を呼んで……。 いいや! 自分が無事だなんて言うもんか! 斬られて虫の息だと言ってやる。 姉上は慌てて駆けつけるだろう。 私は死にそうなフリをして、姉上は涙ながらにわびて、そしたら何もかも許してあげる。姉上は、こんなところに私を連れこんだ罪で、あいつを百叩きの上に獄にぶちこんで、それから私は芝居だったことを明かす。姉上は大喜びで、あいつより役者が上だと褒めてくれる。そして、姉上は女王となり、私は宰相として姉上をお守りするのだ。 もしかしたら、姉上は、代わりに王になってくれとおっしゃるかも知れない。私の補佐をしたいと……。 いいや、ダメだ。私にはリズという妻がいるし。 妄想がふくらんだ辺りで、気がついた。 葉ずれの音ではない。水音だ。 川があるのか? どちらにしろ、外に出ることには変わりない。 音はどんどん近くなり、急に視界が開けた。 そこは、外などではなかった。 四方を渡り廊下に囲まれた小さな中庭で、中央に小さな池があった。その端に岩が積み上げられ、頂から勢いよく水が噴き出していた。 音の源は、ここであった。 もう、ダメだ。 外ではなかった。 もう、一生、ここから出られないんだ。 岩の陰で、何かが動いた。 女だった。 見覚えのある顔。 リリー・アッシュガース。 助かった! これで外に出られる! 一歩踏みだした。 リリーは岩に手を当て、身を起こした。 優美さのかけらもない! 女性なら、片手を添えながらもう片手を着くし、身を起こすときは、そっと手を胸元に添えるべきだ。そういうところに、品の良さが出るのだ! それに、まるで侍女のような姿ではないか! スカートのふくらみは貧弱だし、袖からのぞくレースは小さく、胸元は首近くまで布地で覆われている。 これが仮にも王弟の愛人か? パーヴの品位を疑われるではないか! ここは、ウィックロウの離宮ではないのだぞ! 衆目にさらされているというのに! 近づくごとに怒りがこみあげてきた。 リリーはエドアルに気づき、周囲を見回した後、手を高くあげて大きく打ち鳴らした。 「デュール! 出てらっしゃい! 隠れてもムダですよ、わかってるんですから」 ギョッとして、エドアルはふり返った。 柱の陰から、金髪が現れた。 ニヤと笑う。 「見られてない自信はあったんだけどなあ」 「見てませんよ」 リリーはあっさり答えた。 「じゃあ、なんでわかっちまったんだ?」 「ちい姫さまなら、エドアルさまをおひとりにはなさいませんからね。おまえをつけておくでしょ」 「かなわねえなあ」 ヒースは棒を高く放り投げた。 くるくると回って、手元に吸いつく。 「ずっとつけていたのか!」 エドアルは怒鳴った。 迷っていた様を見られた! 「他人の散歩をのぞきみるなど、貴族のすることではないぞ!」 「へえー、散歩? あれが?」 ヒースは意地悪く笑った。 「オレには、迷子が泣きそうになっているように見えたけどなあ」 「私が迷うものか! それより、なぜアッシュガースがここにいるのだ」 「私はちい姫さまのお伴をしてきたんです。エドアルさまこそ、何をなさってますの?」 リリーは悠然と答えた。 偉そうに! たかが愛人の分際で。王子と対等になったつもりか? 「答える必要などない。あれこれ詮索しおって、何さまのつもりだ!」 「お答えなさりたくなければ、けっこうですわよ。お城を出られるなんて、ずいぶん無謀ですこと! さぞかし厳重な警備をご用意されたのでしょうね?」 リリーは腕組みをして、ひたとエドアルの目を見つめた。 「も、もちろんだとも!」 気押されながらも、ふんばってみせた。 「おまえに心配されるいわれはないぞ!」 「私が心配なのは、ちい姫さまですの」 口調は決して荒々しくない。が、いやに風格があった。 「エドアルさまが軽率なことをなさいますと、ちい姫さまがみんな尻ぬぐいをなさるんですからね。まさか、ほとんどお伴を連れずにいらしたんじゃないでしょうね」 ぎくり。 無礼な物言いに腹立ちながらも、図星を指されて浮き足だった。 「もし、万が一、そのようなことがあったら、ちい姫さまはうちのバカ息子に言いつけて、エドアルさまがあまり遠くにいらっしゃらないようにするでしょうね。お帰りは、ご自分の護衛をみなエドアルさまにおつけになるばかりか、お自ら警護につかれるでしょうね。一日中、お仕事で疲れていらっしゃるというのに! そこのところ、おわかりになっていらっしゃるんでしょうかね、ご本人さまは!」 「あ、いや……」 「命を狙われるということが、少しはおわかりになってるんですか? 一瞬のスキを狙われればお終いなんですよ! 殺すほうはたった一瞬! 守る方は、一瞬のスキもなく! どう考えたって、守るほうが分が悪いんです。たいした理由もなく出歩くなんて、どういう神経なさっているんですか! お小さいころのちい姫さまだって、まだマシでしたわよ!」 図星に次ぐ図星である。 まるで、見てきたかのようだ。 反論しなければ! 王子の威厳が! 「小さいころの姉上だって? バカにするな! 姉上には叔母上がついていらしたのだぞ! 危ないめに遭われるわけが……」 「あのお姫さまですら、手こずったのですよ! 何度死にかけたことか! 少しは命の大切さをちい姫さまに教えていただきなさい!」 まさか。 あの叔母上を出し抜く? そんなバカな。 あの眼に睨まれたら、誰だって……。 白い細面に空いた二つの暗い穴。 『リュウカ!』 ふいによみがえった低い声に、思わずエドアルは縮みあがった。 あの鋭い一喝を聞いたら、何者だって……。 長く白い手が伸びてきたような気がして、ますます身を縮めた。 『アレは龍の仔なのだ』 父王の慈しむような暗褐色の眼。 龍の仔を逃がしたからこそ、父は祖母に頭があがらないのだ。 私なら、逃がしはしない。 「ここにいたか」 高い声がした。エドアルはふり向いた。 そこには闇色の眼が二つあった。しかし、やわらかく、か弱い光だ。 ちがう、とエドアルは思った。 龍ならもっと強くあるべきだ。見る者をひれ伏せるような。 「お昼にしましょう」 リリーが岩陰から包みを出した。 「私はよい。三人でおあがり」 「ちい姫さま。きちんと召し上がっていただかないと。お仕事になりませんわよ」 リュウカは小さく苦笑した。 「あまり食欲がない」 「ムリにでも召し上がってください。そのままになさったら、ますます食が細くなりますよ」 ヒースが青いマントを跳ねあげた。 腰にさげた麻袋をとり、放った。続いて水筒を放る。 ゆるやかな弧が二つ。 宙を描いて、ぼすんとリュウカの膝に落ちた。 白い手袋が、袋の口を解いた。中身を引き出すと、濡れたオレンジ。水の滴がきらきら光る。 「そいつなら、食えるだろ」 リュウカはオレンジを口元に当てた。口を開いた。白い歯が皮に当たった。 エドアルの背筋に悪寒が走った。 『リンゴは、丸ごとかじったほうがおいしいの!』 シャリリリと音を立てて、リズは赤いリンゴに歯を立てたものだ。もともと粗野な育ちだからしかたがない。 しかし、リュウカは! パーヴとリュウインの血を引く由緒正しい王女だ。偉大なヒースクリフに由来する、これ以上はない正統な血筋だ! 「おやめくださ……!」 「ちい姫さま! そんな得体の知れないもの!」 エドアルの声は、リリーの怒鳴り声にかき消された。 「毒でも入っていたら、いかがなさいますの!」 「今朝、氷屋から買ってきたヤツだから、だいじょうぶだよ」 「身元はしっかりしているのでしょうね?」 「フツーの氷屋だよ。心配ねえって。あんなとこまで手を回しっこないんだから」 「なんですって! ちい姫さま、召し上がってはいけません! どこで毒が……」 「だいじょうぶだって」 母子のケンカをよそに、リュウカは瞬く間にひとつをたいらげた。 「エドアル」 リュウカは首をめぐらせた。 黒い眼とぶつかり、エドアルはドキリとした。 「城から迎えがきている。昼を終えたら帰りなさい」 城から? 迎え? 「姉上、おかしいですよ。私はここまでコレにムリヤリ連れてこられたんです。私でさえ、どこに着くかわからなかったのに、どうして国王が、私がここにいることを知っているのです」 「城を出るときは、この子と一緒だったのか?」 「そうですが」 リュウカは苦笑した。 「宰相どのなら察するだろう。この子が行きそうな場所は決まっているから」 その笑みに、エドアルはなぜだかホッとした。 今なら、安心して話せそうな気がした。 「姉上は、ここで何をなさっているのです? 仕事とかおっしゃっていらっしゃいましたが」 「謁見だ。以前、母上がここで行っていたように」 おかしなこともあるものだ、とエドアルは思った。 「それは国王と王妃の務めでしょう。姉上にはまだ早すぎると思われますが。それに、拝謁する人々を少しも見かけませんが」 「先ほど、そなたも見ただろう。ここを訪れるのは上流の者たちではない」 エドアルは首をかしげた。 「では、誰です?」 「あんたの嫌いな下賤の者どもだよ」 横からヒースがからかった。 エドアルは怒鳴った。 「おまえは黙れ! 私は姉上とお話しているのだ! 第一、民など領主に従っていればいいのだ! 愚かな民どもに何がわかる!」 「では、そなたに何がわかるのだ」 リュウカは静かに言った。 「たとえば、このオレンジはどこでいつ取れる? どこからどのように運ばれる? 毎年どれだけの量がとれ、どれだけの富を生む? そのうちどれだけが誰の懐に入る?」 「そんなことは領主どもが考えることです! 私たちが煩わされるべきことではありません!」 「では、その領主が道を誤っていたら? 誰が誤りだと判断を下す? どのように?」 「それは誤っていたら、の話でしょう! そんな心配なんかしていたらキリがありません。第一、領主は領地を治めるのが仕事なのですよ。誤ることなどあり得ません!」 リュウカが小さく息を吐いた。 「私は仕事にもどる。そなたたちは城に帰りなさい。よいな」 オレンジの袋をしめ、立ちあがる。ヒースに手渡し、軽く腕を叩いた。 「エドアルを頼んだぞ」 「水筒は持っていけよ。謁見中でも水ぐらいは飲むんだろ」 「では、借りておこう」 リュウカはふり向かなかった。床を滑るような足どりで、迷いなく立ち去った。 「ちい姫さまったら、あれしか召しあがらないなんて」 リリーがため息をついた。 ぎっしりと詰まった弁当箱が、敷物の上に広がっていた。 「しょうがないわね。あなたたち、片づけてしまいなさい」
昼食はひどいものだった。 食事は大皿から取り分けられ、おまけに取り皿は一品ごとに替えるでもなし、ナプキンも調味料も水も世話する給仕もなしで、てんでマナーがなっていなかった。 とんだ田舎へ来てしまった。 「姉上の明日のご予定は?」 弁当箱を片づけているリリーに訊ねた。 「今日と同じです。こちらでお仕事です。明日も明後日も、その次も。お忙しいんですから、お手を煩わせないようになさいませね」 リリーはつっけんどんだった。 「デュール、ちゃんとエドアルさまをお城までお送りするんですよ。おまえのほうが年上なんだから、しっかりしなさい。いつまでも子どもじゃないんですからね」 カチンときた。 私だって、今年成人したのだ。立派なオトナだ。 「ここには勉強できるところはないのか」 エドアルは腹に力を入れた。低い声をゆっくりと絞りだす。 「姉上が仕事をなさっているなら、私も遊んではいられまい。ゆくゆくは姉上を補佐する身、この国について学びたい」 どうだ、とヒースを見た。 これぞ、オトナの男というものだ。 「では、お城に帰って、赤ダヌキにでもお言いつけになってください」 リリーはまったく動じなかった。 「国より人の心だと、私は思いますけどね」 てきぱきと弁当箱をまとめ、袋にしまった。 「偉そうにお勉強してるヒマがあったら、それこそ、オレンジを摘みにでも行ったほうがマシですよ」 立ち上がった。 「デュール、ちい姫さまのお言いつけですからね、ちゃんとエドアルさまを……」 「かったりー」 「デュール!」 ヒースはおおげさに首をすくめてみせた。
「まずは、ここを改めよ!」 迎えの兵の前で、エドアルは命じた。 「ここの守りは薄い。我々が鉄壁の守りで、姉上をお守りするのだ!」 十数人を率いた隊長が答えた。 「我々の任務は、殿下を城までお連れすることです」 「わかったら、すぐに守りにつけ!」 「我々の任務は、殿下を城にお連れすることです」 赤い上衣をかぶった隊長は、ゆっくりとくり返した。 エドアルは、相手の言葉を口の中で反芻した。 なに! 脳に意味が飛びこんできた。 「わ、私は国賓で、隣国の王子だぞ! ゆくゆくはこの国の王女の夫となるのだぞ!」 「おめでとうございます」 隊長は冷ややかだった。 「私の言うことがきけないのか!」 「宰相殿下のご命令ですので」 隊長が軽く手をあげ、兵が数名エドアルをとり囲んだ。 「お連れするのに手段は選ばないようにと承っております」 腕をつかまれた。脚がつかまれ、体が横倒しに宙づりとなる。 気持ち悪い。 「やめろ! おろせ!」 必死に手足を動かそうとしたが、動いたのは尻や背中だけだった。
食堂の椅子は、腰かけると深く沈んだ。足が浮き、軽くかがんだかのように腹が圧迫される。 イヤな椅子だ、とエドアルは思った。 誰もいない食卓。 給仕が食前酒を運んできた。 赤いドロリとした液体が、グラスの中で揺れていた。 傾けて、口にふくんだ。 甘い香り。脳天を突き抜けるような甘み。 反射的に吐きだした。 汗が全身から噴きだした。 手が震えた。 医者を! と呼びかけて、口をつぐんだ。 毒入りとは限らない。 給仕がけげんそうにエドアルを見つめていた。 咳払いをひとつ。 「私の口には合わん」 ナプキンで口をぬぐった。赤く染まる。 「別のものを持ってこい」 「晩餐には、イチゴワインと決まっております」 給仕が恭しく頭を傾けた。 「聞こえなかったのか。私の口には合わん」 「国王陛下がお決めになったことですので」 「私の口には合わんと言っておるのだ!」 食堂のドアが勢いよく開いた。 リズが笑顔をたたえ、踊るような足どりで席に着く。 「これを絞って、ジュースにしてちょうだい」 白いテーブルクロスの上に、鮮やかな夕暮れ色の山が崩れて転がった。 「私とお姉さまに一杯ずつ」 エドアルの目が吊りあがった。 その夕暮れの色は、昼間の不愉快さを呼び起こしたのだ。 「誰から……」 声がかすれた。 わかりきった答えだった。 それでも問わずにいられなかった。 「誰から受け取ったんですか!」 リズは息を飲んだ。 エドアルを見つめた。 空気が凍った。 「答えなさい! 誰から受け取ったのですか!」 「食料庫の……」 リズはゆっくりと口を開いた。 「管理人よ。ちゃんと断ったわ」 エドアルの方がおりた。 かわりに、リズの目に光が甦った。 「なにかいけない? それとも、自分の好きなものを選んじゃいけないって言うの?」 「そんなことは言っていませんよ、ひとことも」 涼しい顔でエドアルは答えた。 「それにしても、姉上まで子どもじみたものを召しあがるのですね。あなたは仕方ないけれども。まだ子どもですからね」 「ムカつく!」 リズが口をとがらせた。 「下品な物言いはやめなさい。来年には大人の仲間入りをするんですから」 「都合のいいときだけ大人扱いして!」 リズは叫んだ。 「静かになさい。王女は国の鑑ですよ。異国からの来客に国の品位が疑われます。自覚なさい」 「客なんていないもん!」 「気を抜いたときに、品の良し悪しが出るのです。いつ何時も、隙を見せてはいけません。常に緊張して、ご自分を磨きなさい」 リズの顔は真っ赤だった。唇を真一文字に結び、睨みつけている。 「少しは反省しましたか? あなたはまだ子どもだけれど、来年は大人の仲間入りをするのだし、今から充分身につけておかなければね。成人の儀というのは、これから大人の訓練を始める火ではなく、大人としてのふるまいが身についていなければならない日なのですからね。あなたは今まで好き放題なさってきたのでしょうが、これからはそうはいきません。私の妻になるのだという自覚を持っていただきます」 「どこかで聞いた説教だな」 エドアルの背後で風が吹いた。 ふり返った。 赤い小さなマントがはためいて、エドアルの席を通り過ぎた。光沢のあるドレスは大きく胸が開き、そこからウエストまでが古くさい刺繍に覆われていた。 「待たせたな」 ぐるりと席をまわりこみ、赤いドレスがリズの隣に着座した。 その瞬間、リズの目が決壊した。 「お、おねえざばぁ!」 目ばかりではなかった。鼻も声も大洪水だった。 リュウカは苦笑して、ナプキンをとった。 「食事にならないよ。機嫌を直して」 リズの顔を拭い、とんとんと背を叩いた。 「そうですよ! 王女ともあろう者が、食卓で泣きだすなど! 恥を知りなさい!」 エドアルは叱りつけた。 リュウカの目が、すうっと冷たくなった。 |
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