〜 リュウイン篇 〜

 

【第94回】

2005.7.6

 

 食堂に入ると、末席に宰相がついていた。

 エドアルは目を疑った。

「宰相! ここは王家の食卓ですぞ!」

「お席にお着きください、王子殿下。リュウインにはリュウインの作法がございます」

「ならば、姉上からお叱りを受けるがいい」

 エドアルが席に着かないうちに、リズとリュウカが連れだって現れた。

「聞いて! アル! 昨夜、お姉さまのお部屋に泊まったのよ!」

「王女殿下、お静かに。来年ご成人あそばすというのに、困ったお方だ」

 宰相が渋い顔をした。

 リズはみるみるうちにしょげ、おとなしく席についた。

「姉上!」

 さらに胸のもやは増し、エドアルは叫んだ。

「お叱りください! 王家の席に、王家の血の混じらぬ者が着いております!」

 リュウカは静かに席についた。

「国には国のしきたりがあろう」

「姉上! 臣下の横暴を許しては、王家の威信に関わりますぞ!」

「食卓の椅子ひとつで揺らぐ威信に意味はあるまい」

「些末事を逃しては、後に大きな災いをなしますぞ!」

「私は長らく留守にした新参者よ。これまでの治者に従うのは道理ではないか?」

 姉上の意気地なし!

「赤き血の同席を許すなら、私だって、ヴァンストンを同席させますぞ! そうか! 姉上は、グレイを同席させたいがために、こんなことを許すのですね!」

 リュウカはゆっくりと首をふった。

「おそれながら殿下」

 宰相が口をはさんだ。

「この国では、赤き血は王の血筋をさすものでございます。お間違えなきよう」

「おぞましい! あの生臭い赤い血のどこが高貴なのか」

「殿下、こちらでは、蔑むときに、青き血と申すのです」

「なんたる侮辱! 我らをおとしめるか!」

「リュウインとパーヴが永く敵対しておりますれば、かように呼びあうのもムリはなかろうかと」

 言葉に詰まった。

 赤のリュウイン、青のパーヴ。互いに罵りあった結果だというのか。

 スープとパンが運ばれた。

「まだ、国王陛下がお越しめされぬぞ!」

 今度こそ!

 今までの憤懣をこめて咎めた。

「王后陛下も、もうおひと方の王女殿下も! さしおいて食事を始めるか!」

「おそれながら王子殿下」

 宰相は淡々と言った。

「両陛下、ならびに王女殿下は朝の席においでになりませぬ。夜は遅くまで臣下を楽しませておいででございますれば」

「では、食事抜きで謁見に臨まれるとでも言うのか!」

「私が参れば済むこと。つまらぬいざこざに、国王陛下ともあろうお方をお悩ませするわけにはまいりません。しかし、本日よりは、第一王女殿下が自ら謁見に臨まれるとか」

「この国では、国王は務めを果たさないのか!」

「とんでもございません。国王陛下は常に国を憂えていらっしゃいます。その証拠に、殿下の婿入りを来年に早めるよう仰せになりました。エリザ王女殿下のご

成人と同時にでございます」

 なんだって?

「朝一番に、殿下のお国へ使いをやりました。快諾いただければ、もはや殿下は安泰ですぞ」

 

   

 

 

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