翌日二人はそれぞれにめかしこんで、彼女に声をかけた。
めかしこんだとはいっても、マルタンは髪を撫でつけ、庭で摘んだ花を捧げた程度、エドアルは服の埃を払い、やはり庭で摘んだ花をボタンホールに挿した程度だったが。
女生徒は目を丸くした。
「それ、オキ先生が大事にしていた花よ。見つかったら殺されるわ!」
急いで庭に穴を掘り、証拠隠滅をはかった。
「男の子には興味ないの」
女生徒はサバサバと言った。
「パパ以上にすてきな男性は現れっこないもの。それより、立派な裁判官になりたいの。あなたたちは? 夢はないの?」
訊かれて、マルタンは胸を張って答えた。
「オレは役人になる!」
「私は……」
エドアルは答えられなかった。
身分を証すつもりはなかったが、実際答えに窮していた。
リズと結婚し、リュウカを補助して、そんな一生でいいのだろうか? そもそも、リュウカをどう補助するというのだ? 自分より何でもできる年上の従姉を。
エドアルは重々しく言った。
「私には責任がある。何もしなければ、悪者がはびこるだろう。よくよく慎重に考えなければ」
将来について真摯に考えているのね、なんてすてき!
という賛嘆を期待してエドアルは顔をあげた。
「親孝行だって、りっぱな夢なんじゃないの」
と、女生徒は軽蔑するように言った。
「貧乏でも不幸でも、家計を支えようと思って頑張ってるんだと思ってたわ。誇りを持ちなさいよ。大きなことを言って偉そうにしちゃって。がっかりだわ」
エドアルはカッとなった。
「私はまじめに将来を考えておるのだぞ! おまえたちの未来だってかかっておるのだ! 感謝はされこそすれ……」
「この年で? これから学校に入ったら、卒業するのがいつになると思ってるの? 卒業したばかりのオヤジなんか、誰が雇ってくれると思ってるのよ。子どものときに目標を決めて頑張らなきゃ、ぜんぜん使い物にならないじゃない。そこの君も、どうやって役人になるつもり? これから学校に入ったって、役人になんかなれっこないわよ」
マルタンはショックのあまり目を見開いた。
「夢っていうのは、ちゃんと現実を見て、可能かどうか考えてから見るものよ。立場ってものを考えたら? 今まで努力も積み重ねもしてこなかったくせに、簡単に人と並べると思わないことね」
言い捨てて、女生徒は行ってしまった。
マルタンはうなだれた。
「貧乏人には、学校なんか贅沢ってことか? たしかに、この年から学校に通っても、役人になんかなれないかもな……」
エドアルはこぶしを握りしめた。