【第199回】

 

~ リュウイン篇 ~
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その33

2010.2.3

 

 母親は渋い顔をした。

 エドアルは必死になって訴えた。

「私は一人ぼっちなんだ。マルはたった一人の友だちなんだ。今までいた連中は、私を利用するだけ利用して、みんないなくなってしまった。マルだけなんだ、私の身分を目当てにしないで親切にしてくれたのは。これからも、ただの友だちとして扱ってくれ」

「偉い方々はみんなそう言いますけどね……」

 母親はなおも渋った。

 機嫌がいいときは親しげに、しかし都合が悪くなれば約束など踏みにじり、恩を仇で返す。権力者とはそういうものだ。

 母親のためらいをリュウカは察したが、エドアルにはわからなかった。

「こんなに頼んでもダメなのか? 私が頼んでいるのだぞ!」

「そこがダメなんだよ!」

 母親はムッとして言い返した。

「どうして!」

「自分を何さまだと……」

 母親はハッとした。

「失礼しました。つい、いつものクセで。これで、うちが王子さまなんか預かれないのがわかったでしょう」

 リュウカは微笑んで歩み寄り、母親の両手をとった。

「そのように接して欲しいのです。あなたの言葉は、心に響くようだ」

 実際、エドアルは傷ついていた。

 特別あつかいは、突き放されたかのようだった。

 叱られたほうが、ずっとマシだった。

「申しわけありません。直すように努力しますから」

 エドアルは言った。

 自分でも、謝るのは意外だった。

 なぜ、こんな下々の者に自ら屈するのだろう。

 母親はエドアルを見て、ため息をついた。

「しょうがないねぇ。ほんのしばらくの間だけだよ」

 エドアルは安堵した。

「これからも、こんなことがあったら、叱りつけてください」

「何度もあっちゃたまらないよ。改めてもらいたいもんだね」

 

 

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