母親は渋い顔をした。
エドアルは必死になって訴えた。
「私は一人ぼっちなんだ。マルはたった一人の友だちなんだ。今までいた連中は、私を利用するだけ利用して、みんないなくなってしまった。マルだけなんだ、私の身分を目当てにしないで親切にしてくれたのは。これからも、ただの友だちとして扱ってくれ」
「偉い方々はみんなそう言いますけどね……」
母親はなおも渋った。
機嫌がいいときは親しげに、しかし都合が悪くなれば約束など踏みにじり、恩を仇で返す。権力者とはそういうものだ。
母親のためらいをリュウカは察したが、エドアルにはわからなかった。
「こんなに頼んでもダメなのか? 私が頼んでいるのだぞ!」
「そこがダメなんだよ!」
母親はムッとして言い返した。
「どうして!」
「自分を何さまだと……」
母親はハッとした。
「失礼しました。つい、いつものクセで。これで、うちが王子さまなんか預かれないのがわかったでしょう」
リュウカは微笑んで歩み寄り、母親の両手をとった。
「そのように接して欲しいのです。あなたの言葉は、心に響くようだ」
実際、エドアルは傷ついていた。
特別あつかいは、突き放されたかのようだった。
叱られたほうが、ずっとマシだった。
「申しわけありません。直すように努力しますから」
エドアルは言った。
自分でも、謝るのは意外だった。
なぜ、こんな下々の者に自ら屈するのだろう。
母親はエドアルを見て、ため息をついた。
「しょうがないねぇ。ほんのしばらくの間だけだよ」
エドアルは安堵した。
「これからも、こんなことがあったら、叱りつけてください」
「何度もあっちゃたまらないよ。改めてもらいたいもんだね」