おおごとになったな、とリュウカの心はくもった。
くもったのは、母親の顔も同じだった。
「そんな。王子さまなんかが、なんでうちに……」
その顔をみて、リュウカの心は少し晴れた。
このご婦人は、地に足のついた人だ。
まもなく、デュール・ヒルブルークが呼ばれてやってきた。地区をとりしきる役人が恭しく出迎えるのを見て、ようやく母親は信じた。
イッポリートの目はデュール・ヒルブルークの姿に釘づけだった。
「殿下! どうなさいました。問題でも?」
うれしそうにデュール・ヒルブルークはリュウカに駆け寄った。
リュウカは首をふって見せた。
イッポリートの身の上にあったことをかいつまんで話し、犯人を捕まえることと、治安や役人の質の向上について要望した。
「もし、宝石がもどったら、元の持ち主に返して欲しい」
「元の持ち主とおっしゃいますと?」
「元の持ち主だよ。エドアルの非礼を、くれぐれも許して欲しい」
リリーの言っていた侍女の宝石は、これに使われたのだろうと察しはついていた。
「ありがとうございます、殿下。実はあれは我が家に代々伝わるものでしたので」
デュール・ヒルブルークが深々と礼をした。
侍女からだけではなかったのかと、リュウカはあきれた。
マルタンの母親はエドアルの言い分を信じたものの、それでなにもかも元通りになったわけではなかった。
「うちには来ないでください」
母親は丁重に言った。
エドアルはショックを受けた。
「まだ怒っているのか? 償いなら、これからいくらでもする!」
「うちには、王子さまをもてなせるような場所はありません」
「今まで通りでいいんだ!」
「誰か貴族の子と友だちになってください。王子さまたちとのつきあい方なんて、私たちには見当もつきません。いずれ無礼を働くでしょう」
「私はマルが好きなのだ! マルの家も家族も、みんな好きだ! 無礼だなんて思わない!」
リュウカはエドアルの肩に手を置いた。母親を見る。
「エドアルは家族とは引き離され、一人でこの国に来たのです。しかし、あなた方といると表情が明るくなるようです。どうかご子息の友人として、引き続きおつきあいいただけませんか」