【第198回】

 

~ リュウイン篇 ~
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その32

2010.1.27

 

 おおごとになったな、とリュウカの心はくもった。

 くもったのは、母親の顔も同じだった。

「そんな。王子さまなんかが、なんでうちに……」

 その顔をみて、リュウカの心は少し晴れた。

 このご婦人は、地に足のついた人だ。

 まもなく、デュール・ヒルブルークが呼ばれてやってきた。地区をとりしきる役人が恭しく出迎えるのを見て、ようやく母親は信じた。

 イッポリートの目はデュール・ヒルブルークの姿に釘づけだった。

「殿下! どうなさいました。問題でも?」

 うれしそうにデュール・ヒルブルークはリュウカに駆け寄った。

 リュウカは首をふって見せた。

 イッポリートの身の上にあったことをかいつまんで話し、犯人を捕まえることと、治安や役人の質の向上について要望した。

「もし、宝石がもどったら、元の持ち主に返して欲しい」

「元の持ち主とおっしゃいますと?」

「元の持ち主だよ。エドアルの非礼を、くれぐれも許して欲しい」

 リリーの言っていた侍女の宝石は、これに使われたのだろうと察しはついていた。

「ありがとうございます、殿下。実はあれは我が家に代々伝わるものでしたので」

 デュール・ヒルブルークが深々と礼をした。

 侍女からだけではなかったのかと、リュウカはあきれた。

 マルタンの母親はエドアルの言い分を信じたものの、それでなにもかも元通りになったわけではなかった。

「うちには来ないでください」

 母親は丁重に言った。

 エドアルはショックを受けた。

「まだ怒っているのか? 償いなら、これからいくらでもする!」

「うちには、王子さまをもてなせるような場所はありません」

「今まで通りでいいんだ!」

「誰か貴族の子と友だちになってください。王子さまたちとのつきあい方なんて、私たちには見当もつきません。いずれ無礼を働くでしょう」

「私はマルが好きなのだ! マルの家も家族も、みんな好きだ! 無礼だなんて思わない!」

 リュウカはエドアルの肩に手を置いた。母親を見る。

「エドアルは家族とは引き離され、一人でこの国に来たのです。しかし、あなた方といると表情が明るくなるようです。どうかご子息の友人として、引き続きおつきあいいただけませんか」

 

 

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