リュウカとともに本屋を訪ねた。
建物の中では女性たちが窓ぎわに机を並べ、文字を紙に書き写していた。
マルタンの母親とイッポリートもその中にいた。
「わざわざこんなところまで。急ぎの用事かい」
マルタンの母親は、何か難しい本を写しているようだった。その横で、ポリーも薄い本を写している。
エドアルの視線に気づいて、母親は簡単に説明した。
自分たちがやっていることは書写といって、本の中身を書き写す仕事。一文字一文字ていねいに何百ページと書き、それを束ねて糸で綴じ、美しく仕上げた表紙と一緒にし、しばらくなじませてから、客先に届ける。その工程のひとつでも雑に扱ってはいけない。一冊一冊魂をこめて作りあげるのだ。
エドアルは昨夜の行動を思いだして恥じた。
本を粗末に扱ったことを知ったら、マルタンや家族はどう思うだろう。
「それで、何の用だい。よっぽど急いでるんだろう?」
「ポリーのことなんです」
ポリーは反応しなかった。青白い人形のような顔で、文字を綴っていた。
祖母のような温かいまなざしを期待していたエドアルはがっかりした。
「その話なら、もういいよ。そっとしといてくれ」
母親が追い払うように手をふった。
エドアルは傷ついた。
「ちがうのです。あれは宝石のせいです。ポリーの上着に宝石がついていたせいで」
母親が不審げな目を向けた。
「私がマルにやった宝石を、ポリーが上着につけたから、こうなったのです。役人たちは、その宝石を狙っただけなのです。だから、ポリーはもう危なくないのです。安心してください」
母親は呆気にとられたような顔をした。
「役人たちは、きっと捕まえて罰します。宝石もまた新しいのを持ってきますから。前よりもっといいのを、たくさん」
「エドアル!」
リュウカがとがめた。
姉上はなぜジャマするのだ。
エドアルは睨み返した。
「いったい、あんた、どこのお坊ちゃんだい。貴族さまかい? それとも王子さまとでも?」
母親は皮肉っぽい口調で言った。
エドアルは颯爽と胸を張った。
「その通り。私はパーヴのエドアル王子です。ゆえあって、こんなところに身を隠していますが」
声を潜めたのだが、意味をなさなかった。母親が大声で言い返したからである。
「あんたが隣の国の王子さまだって? おとぎ話もたいがいにしな!」
エドアルはカッとした。