【第195回】

 

~ リュウイン篇 ~
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その29

2010.1.6

 

「長生きすると、珍しいものを見るねぇ」

「姉上は、異国の血をひいていらっしゃるのですよ」

 エドアルは得意になりながら説明した。

 祖母はうなずいた。

「昔、人づてに、お城に直訴に行った人の話を聞いてね、そのときの偉い役人があんたにそっくりなんだよ。体が大きくて剣を持っていて、炭を流したみたいに真っ黒い髪で、月のない夜みたいに真っ黒い眼の女の人だったって」

 それから、ハッと血相を変えた。

「あんた、お役人かい? まさか、ポリーをどうかしようと……」

 リュウカは首をふった。

「お詫びにうかがったのです。エドアル」

 リュウカは促した。

 エドアルは目を剝いた。

 代わりに謝ってくれるのではなかったのか?

 今さらおじけづいたのか? それともダマしたのか?

 ズルい!

「何かあったのかい?」

 祖母はエドアルの両手をそっと取り、眼をのぞきこんだ。

 姉上よりもよっぽどやさしい!

 少しホッとして、エドアルは口を開いた。

「昨日、お世話になったお礼に、マルに宝石をやったのです。それをポリーが上着につけていたらしくて、役人たちはその宝石を狙ったらしいのです」

 話してみると、自分はちっとも悪くないのだと、エドアルは気がついた。

「だから、ポリーは人さらいに遭ったわけではないし、もう宝石もなくなったのだから、怖がる必要もないと、教えてやろうと思って」

 祖母はとまどったような顔をした。

「宝石なら、また持って来ますから、安心してください。その悪い役人たちもきっと捕まえますし」

 祖母は、エドアルの手をひとつにまとめて、ぎゅっと握った。

「そんなものは要らないんだよ。もう持ってくるんじゃないよ。それより、早くポリーに教えておやり」

 欲のない人だ、とエドアルは思った。

 それでは、ますます厚意に応えなくては。

 

 

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