【第194回】

 

~ リュウイン篇 ~
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その28

2009.12.30

 

 朝、エドアルは食事の席に現れなかった。

 リズが不安そうにリュウカの顔を見た。

 リリーが給仕をしながら不満をもらした。

「昨日、侍女がエドアルさまに髪飾りをとりあげられたそうですよ。ムリヤリにはぎ取ったそうで、怯えて泣いているとか。こんな横暴を許しておいたら、どこぞの王さまにそっくりになってしまいますよ。まったく兄弟そろって、とんでもないったら! 今朝はとっちめてやろうと思ったのに。ちい姫さまも見かけたら、厳しく叱ってくださいませね」

 デュール・ヒルブルークが落ち着かないふうに襟元に手をやった。

 書斎が荒れていたことは言わないほうがいいだろうと、リュウカは思った。

 衛兵が入ってきて、リュウカの耳元でささやいた。

 エドアルが部屋を出たという。

 食事をそのままに、リュウカは席を立った。

 廊下を先回りし、エドアルに声をかけた。

「どこへ行くのか」

 エドアルはハッとし、リュウカの顔を見てうつむいた。

「姉上には関係ありません」

 名案を探しに行くのだとは言えなかった。アテもなく探して何になる? しかし、じっとしていることもできない。

「謝りに行くのなら、ついていくよ」

 リュウカは言った。

「そなたのしたことに、私も責任がないとは言えまい」

 エドアルは顔をあげた。

 姉上が謝ってくれる! これですべて解決だ。

「謝るのは早いほうがいいと思うが、どうか」

「そうですね、すぐ参りましょう」

 護衛をつれ、馬でマルタンの家に向かった。

 家の中には祖母が一人だけだった。

 エドアルがポリーの居所を訊ねると、近所の本屋へ母と連れだって行っていると言う。

「今日は学校を休ませたん……」

 リュウカがフードを下ろし、近づくのを見て、祖母は凍りついた。

 従姉だと紹介すると、わずかに緊張が解けた。

「似ていないねぇ」

 エドアルはドキリとした。自分が王の血をひいていないことを思いだしたからだが、リュウカは少し笑っただけだった。

 

 

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