朝、エドアルは食事の席に現れなかった。
リズが不安そうにリュウカの顔を見た。
リリーが給仕をしながら不満をもらした。
「昨日、侍女がエドアルさまに髪飾りをとりあげられたそうですよ。ムリヤリにはぎ取ったそうで、怯えて泣いているとか。こんな横暴を許しておいたら、どこぞの王さまにそっくりになってしまいますよ。まったく兄弟そろって、とんでもないったら! 今朝はとっちめてやろうと思ったのに。ちい姫さまも見かけたら、厳しく叱ってくださいませね」
デュール・ヒルブルークが落ち着かないふうに襟元に手をやった。
書斎が荒れていたことは言わないほうがいいだろうと、リュウカは思った。
衛兵が入ってきて、リュウカの耳元でささやいた。
エドアルが部屋を出たという。
食事をそのままに、リュウカは席を立った。
廊下を先回りし、エドアルに声をかけた。
「どこへ行くのか」
エドアルはハッとし、リュウカの顔を見てうつむいた。
「姉上には関係ありません」
名案を探しに行くのだとは言えなかった。アテもなく探して何になる? しかし、じっとしていることもできない。
「謝りに行くのなら、ついていくよ」
リュウカは言った。
「そなたのしたことに、私も責任がないとは言えまい」
エドアルは顔をあげた。
姉上が謝ってくれる! これですべて解決だ。
「謝るのは早いほうがいいと思うが、どうか」
「そうですね、すぐ参りましょう」
護衛をつれ、馬でマルタンの家に向かった。
家の中には祖母が一人だけだった。
エドアルがポリーの居所を訊ねると、近所の本屋へ母と連れだって行っていると言う。
「今日は学校を休ませたん……」
リュウカがフードを下ろし、近づくのを見て、祖母は凍りついた。
従姉だと紹介すると、わずかに緊張が解けた。
「似ていないねぇ」
エドアルはドキリとした。自分が王の血をひいていないことを思いだしたからだが、リュウカは少し笑っただけだった。