【第192回】

 

~ リュウイン篇 ~
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その26

2009.12.16

 

 書斎の灯りは消えていた。

 闇が普段よりも濃く深く感じられた。

 こんな夜中まで、姉上が起きていらっしゃるわけがないではないか。

 肩を落とし、リュウカの部屋の前まで行ってみた。

 何をやっているのだ、私は。

 こんな時間にレディの部屋の前をうろついたりして。あいつじゃあるまいし。

 扉が開いた。

 左手に長剣をつかみ、ガウンを肩に引っかけて、リュウカが立っていた。

 夢かと、エドアルは瞬きした。

 リュウカはガウンに袖を通しながら歩きだした。

「姉上、どちらへ」

「書斎へ」

「何かご用ですか?」

「用はそなただろう」

 何気ない口調だった。

「私は……」

 エドアルはうつむいた。

 話せば叱られるかも知れない。

「ここではリリーたちを起こしてしまう。さあ」

 促されて、エドアルは後に続いた。

 リュウカに反して宝石をくれてやった。そのあげくに友だちの妹は襲われてしまった。

 いや、そのせいで襲われたとは限らないではないか。本当に、悪い役人にさらわれるところだったのかも。

 しかし、役人たちの言葉は、あの宝石を狙ったのだと思えば合点がいく。『上玉だ、いい金になる』

 リュウカはエドアルのランプから、書斎机のランプに火を移した。

 薄暗かったが、室内のほかの灯りもつけようとはしなかった。

「かけなさい」

 向かいの椅子を指し示す。

「姉上、こんな夜中に、誤解を招きます。あいつじゃあるまいし。出直してきます」

 逃げよう。

 

 

[an error occurred while processing this directive]