書斎の灯りは消えていた。
闇が普段よりも濃く深く感じられた。
こんな夜中まで、姉上が起きていらっしゃるわけがないではないか。
肩を落とし、リュウカの部屋の前まで行ってみた。
何をやっているのだ、私は。
こんな時間にレディの部屋の前をうろついたりして。あいつじゃあるまいし。
扉が開いた。
左手に長剣をつかみ、ガウンを肩に引っかけて、リュウカが立っていた。
夢かと、エドアルは瞬きした。
リュウカはガウンに袖を通しながら歩きだした。
「姉上、どちらへ」
「書斎へ」
「何かご用ですか?」
「用はそなただろう」
何気ない口調だった。
「私は……」
エドアルはうつむいた。
話せば叱られるかも知れない。
「ここではリリーたちを起こしてしまう。さあ」
促されて、エドアルは後に続いた。
リュウカに反して宝石をくれてやった。そのあげくに友だちの妹は襲われてしまった。
いや、そのせいで襲われたとは限らないではないか。本当に、悪い役人にさらわれるところだったのかも。
しかし、役人たちの言葉は、あの宝石を狙ったのだと思えば合点がいく。『上玉だ、いい金になる』
リュウカはエドアルのランプから、書斎机のランプに火を移した。
薄暗かったが、室内のほかの灯りもつけようとはしなかった。
「かけなさい」
向かいの椅子を指し示す。
「姉上、こんな夜中に、誤解を招きます。あいつじゃあるまいし。出直してきます」
逃げよう。