【第190回】

 

~ リュウイン篇 ~
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その24

2009.12.2

 

 護衛に案内させ、マルタンの家へ行く。

 マルタンの祖母がひとりで食事の支度をしていた。

 今日も芋とカブのスープか。

 具の少ない鍋がストーブの上にかけられているのを見て、エドアルはがっかりした。

「これじゃ、食事の支度はさぞラクでしょう」

 エドアルは、嫌みを言った。

「宝石をやったんだから、もう少しもてなしてくれたって、バチは当たらないでしょう」

 マルタンの祖母はにこにこ笑いながら、ストーブのそばで編み物を始めた。

 バカな年寄りだ、とエドアルは思った。

 耳が遠いのか、ボケてるのかも知れない。

「役人なんて、みんなバカばっかりだ」

 ストーブにあたりながらエドアルは言った。

「人の機嫌をとることしか能がない。マルタンはよくあんなものになりたいなんて言うよなあ」

「姉上もよく、あんな血だらけの汚いものを見に行かれるのか」

「エリザ姫は口をきいてくれないし」

 ぶちぶちとグチったが、マルタンの祖母は微笑みながら編むだけだった。

 弟のヴァレリアンが帰り、母が帰り、兄のファビアンが帰り、ようやくマルタンたちが帰ったのはだいぶ遅くなってからだった。

 イッポリートが泣いており、マルタンが抱えるように連れてきた。

「上着はどうしたの?」

 母親が訊ねると、イッポリートはいっそう激しく泣きだした。

 イッポリートが祖母と母親に別室に連れていかれてから、マルタンが話しだした。

「役人に襲われたんだ」

 五十歳ぐらいの役人が二人、イッポリートを囲み、ムリヤリ服を脱がせたのだという。

 役所に本を納品し、その帰りだったという。

 マルタンは必死に抵抗し、イッポリートを連れて人通りの多い道に出、人混みにまぎれて逃げた。上着はそのときとられてしまった。

「変態どもめ! ポリーはまだ子どもだぞ!」

 ファビアンが怒りで顔を真っ赤にした。

「あいつら、ポリーを売る気だったんだ、ファブ! 上玉だ、いい金になるって言ったんだ」

「そいつら、どんな顔だった? 覚えてるか?」

 エドアルは訊ねた。

 絶対に罰してやる!

 

 

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