護衛に案内させ、マルタンの家へ行く。
マルタンの祖母がひとりで食事の支度をしていた。
今日も芋とカブのスープか。
具の少ない鍋がストーブの上にかけられているのを見て、エドアルはがっかりした。
「これじゃ、食事の支度はさぞラクでしょう」
エドアルは、嫌みを言った。
「宝石をやったんだから、もう少しもてなしてくれたって、バチは当たらないでしょう」
マルタンの祖母はにこにこ笑いながら、ストーブのそばで編み物を始めた。
バカな年寄りだ、とエドアルは思った。
耳が遠いのか、ボケてるのかも知れない。
「役人なんて、みんなバカばっかりだ」
ストーブにあたりながらエドアルは言った。
「人の機嫌をとることしか能がない。マルタンはよくあんなものになりたいなんて言うよなあ」
「姉上もよく、あんな血だらけの汚いものを見に行かれるのか」
「エリザ姫は口をきいてくれないし」
ぶちぶちとグチったが、マルタンの祖母は微笑みながら編むだけだった。
弟のヴァレリアンが帰り、母が帰り、兄のファビアンが帰り、ようやくマルタンたちが帰ったのはだいぶ遅くなってからだった。
イッポリートが泣いており、マルタンが抱えるように連れてきた。
「上着はどうしたの?」
母親が訊ねると、イッポリートはいっそう激しく泣きだした。
イッポリートが祖母と母親に別室に連れていかれてから、マルタンが話しだした。
「役人に襲われたんだ」
五十歳ぐらいの役人が二人、イッポリートを囲み、ムリヤリ服を脱がせたのだという。
役所に本を納品し、その帰りだったという。
マルタンは必死に抵抗し、イッポリートを連れて人通りの多い道に出、人混みにまぎれて逃げた。上着はそのときとられてしまった。
「変態どもめ! ポリーはまだ子どもだぞ!」
ファビアンが怒りで顔を真っ赤にした。
「あいつら、ポリーを売る気だったんだ、ファブ! 上玉だ、いい金になるって言ったんだ」
「そいつら、どんな顔だった? 覚えてるか?」
エドアルは訊ねた。
絶対に罰してやる!