【第188回】

 

~ リュウイン篇 ~
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その22

2009.11.18

 

 エドアルは腰を浮かし、退路を探した。

 だが、リュウカは暴れなかった。

「自らの意向を押しつけ、民意をくみ取らない者に治者の資格はない。私はそのような考えの者とともにいることはできないよ。今すぐ、この街を発つ」

 どこへ!

 エドアルは目をみはった。

「申しわけございませんでした」

 デュール・ヒルブルークが頭を垂れた。

「今すぐ改めます。本日は本来の業務にもどりますので、平にご容赦ください」

 リュウカは口調をやわらげた。

「私が言いたいのは、そなたのご祖父がどれだけ民のための街を造ってきたのか、それを継承する自覚を持ってほしいと……」

「まったく仰せの通りでございます。すぐに改善いたします」

 朝食の後、エドアルはデュール・ヒルブルークをつかまえた。

「宝石を少し用立てろ」

「どのようなものをご所望でしょうか。夜までにはご用意いたしましょう」

「今すぐだ、何でもいい」

 エドアルは、デュール・ヒルブルークの襟元に手をやった。

「これがいい」

 青い石のはめこまれたブローチだった。

「これは代々我が家に伝わるものでございます、ご容赦を」

「私に従うのは、姉上に従うのと同じだぞ。それとも、おまえは喜んで犠牲になれないのか」

「いえ、そのようなことは……」

 そのとき、侍女が廊下を通りかかった。エドアルたちに気づき、端に寄って頭を垂れた。

 その茶色のまとめ髪に、赤い小ぶりの宝石がきらめいていた。

「あれを寄こせ」

 エドアルはデュール・ヒルブルークに命じた。

「何をでしょうか」

「その、頭にある石だ。さっさと寄こせ」

 侍女がおびえたように後ろに退がった。

「逆らうつもりか? 侍女のぶんざいで」

 声を荒あげると、デュール・ヒルブルークはあたふたと侍女の頭に手をかけた。

 

 

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