エドアルは腰を浮かし、退路を探した。
だが、リュウカは暴れなかった。
「自らの意向を押しつけ、民意をくみ取らない者に治者の資格はない。私はそのような考えの者とともにいることはできないよ。今すぐ、この街を発つ」
どこへ!
エドアルは目をみはった。
「申しわけございませんでした」
デュール・ヒルブルークが頭を垂れた。
「今すぐ改めます。本日は本来の業務にもどりますので、平にご容赦ください」
リュウカは口調をやわらげた。
「私が言いたいのは、そなたのご祖父がどれだけ民のための街を造ってきたのか、それを継承する自覚を持ってほしいと……」
「まったく仰せの通りでございます。すぐに改善いたします」
朝食の後、エドアルはデュール・ヒルブルークをつかまえた。
「宝石を少し用立てろ」
「どのようなものをご所望でしょうか。夜までにはご用意いたしましょう」
「今すぐだ、何でもいい」
エドアルは、デュール・ヒルブルークの襟元に手をやった。
「これがいい」
青い石のはめこまれたブローチだった。
「これは代々我が家に伝わるものでございます、ご容赦を」
「私に従うのは、姉上に従うのと同じだぞ。それとも、おまえは喜んで犠牲になれないのか」
「いえ、そのようなことは……」
そのとき、侍女が廊下を通りかかった。エドアルたちに気づき、端に寄って頭を垂れた。
その茶色のまとめ髪に、赤い小ぶりの宝石がきらめいていた。
「あれを寄こせ」
エドアルはデュール・ヒルブルークに命じた。
「何をでしょうか」
「その、頭にある石だ。さっさと寄こせ」
侍女がおびえたように後ろに退がった。
「逆らうつもりか? 侍女のぶんざいで」
声を荒あげると、デュール・ヒルブルークはあたふたと侍女の頭に手をかけた。