「ところで、明日、私はどこへ行けばよいでしょうか」
「そなたの興味のあるところへ」
ビロードはとかれ、リュウカの声はただの小さな静かな声にもどった。
興味?
マルタンのことを思いだした。
「役人……とか? 役人はどんなふうに働いているのでしょうか」
「では、役所を見てくるといい。興味があれば、学校や、もっと細かなところまで見ておいで。ヒルブルーク卿が都合をつけてくれるだろう」
デュール・ヒルブルーク!
「あいつに案内してもらう必要はありません。代わりのヤツで充分です」
一日中顔をつきあわせるのはまっぴらだった。
「そうだね、ヒルブルーク卿にも仕事があるだろう。手配をしてもらうだけにしよう」
翌朝、デュール・ヒルブルークは食事に遅れてきた。
「役所のご視察ですが、手配いたしました。お食事の後にご案内いたします」
小さな目を輝かせて、リュウカを見つめる。
「行くのはエドアルだよ」
リュウカは静かに答えた。
デュール・ヒルブルークの肩が目に見えて落ちた。
「では、殿下は本日はどちらに」
「私は医学校へ。そなたにもそなたの仕事があろう。手配してくれただけで充分だ。感謝する」
「いえ、私は殿下をお守りいたします」
「領主には領主の仕事があろう」
「殿下をお守りするのが、臣下としてもっとも大事な務めです」
「そなたには、この街を守る責任が……」
「殿下をお守りするより大事な責任はございません」
「守ってもらって感謝はしている。だが、街を封鎖した影響がまだ残って、住民は困っているだろう。それを解決するのは領主の役目ではないか」
「殿下の御為ならば、民も喜んで犠牲になりましょう」
リュウカは口をつぐんだ。
「民が、喜んで犠牲になると?」
しばらくして発したリュウカの声は低かった。
「本気で、そのようなことを?」
デュール・ヒルブルークはひるんだ。
姉上がご乱心だ!