【第187回】

 

~ リュウイン篇 ~
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その21

2009.11.11

 

「ところで、明日、私はどこへ行けばよいでしょうか」

「そなたの興味のあるところへ」

 ビロードはとかれ、リュウカの声はただの小さな静かな声にもどった。

 興味?

 マルタンのことを思いだした。

「役人……とか? 役人はどんなふうに働いているのでしょうか」

「では、役所を見てくるといい。興味があれば、学校や、もっと細かなところまで見ておいで。ヒルブルーク卿が都合をつけてくれるだろう」

 デュール・ヒルブルーク!

「あいつに案内してもらう必要はありません。代わりのヤツで充分です」

 一日中顔をつきあわせるのはまっぴらだった。

「そうだね、ヒルブルーク卿にも仕事があるだろう。手配をしてもらうだけにしよう」

 翌朝、デュール・ヒルブルークは食事に遅れてきた。

「役所のご視察ですが、手配いたしました。お食事の後にご案内いたします」

 小さな目を輝かせて、リュウカを見つめる。

「行くのはエドアルだよ」

 リュウカは静かに答えた。

 デュール・ヒルブルークの肩が目に見えて落ちた。

「では、殿下は本日はどちらに」

「私は医学校へ。そなたにもそなたの仕事があろう。手配してくれただけで充分だ。感謝する」

「いえ、私は殿下をお守りいたします」

「領主には領主の仕事があろう」

「殿下をお守りするのが、臣下としてもっとも大事な務めです」

「そなたには、この街を守る責任が……」

「殿下をお守りするより大事な責任はございません」

「守ってもらって感謝はしている。だが、街を封鎖した影響がまだ残って、住民は困っているだろう。それを解決するのは領主の役目ではないか」

「殿下の御為ならば、民も喜んで犠牲になりましょう」

 リュウカは口をつぐんだ。

「民が、喜んで犠牲になると?」

 しばらくして発したリュウカの声は低かった。

「本気で、そのようなことを?」

 デュール・ヒルブルークはひるんだ。

 姉上がご乱心だ!

 

 

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