「なれるよ! 学校入って勉強すれば……」
「あんなの、いいとこの坊ちゃんしかなれないんだよ。生まれがものを言うんだ」
「そんなことないよ! ここじゃ難しいかも知れないけど、ロックルールに行けば、きっとなれる!」
「ポリーのほうがまだ……」
ポリーが不機嫌そうに二人を見た。
「私、役人なんかになりたくない。お嫁さんならなってもいいけど」
「それだよ」
と、ファビアンは言った。
「ポリーがいいとこのお坊ちゃんと結婚して、子どもが役人になるのさ。そいつにみんなで食わせてもらえばいい」
「オレは、自分がなりたいの! それに稼ぐためだけじゃないんだ。世の中を変えたいんだ。役人だったら変えられるだろ!」
その剣幕にエドアルはたじろいだが、兄弟たちは馴れたふうだった。
マルタンはエドアルのほうを向いて熱心に言った。
「役人なら、法律を駆使して、弱者を助けられるだろ? 無知は強者の餌食にされるだけだ。知恵こそが人間にとって最大の武器なんだ」
まるで学者のようなことを言う。
天才なんじゃないか、とエドアルは感心した。自分とあまり年が変わらないのに。
マルタンはなおも熱く語った。
「人は自分の幸福を追求するだけじゃダメなんだ。人間全体の幸福を考えて、一人一人責任を果たさないと、全体の幸福も、個々人の幸福も、みんなやせ細ってしまう。幸福はもろくはかないもので、守っていくためには教育と啓蒙が不可欠なんだ。では、教育と啓蒙を施す者は誰だ? 役人だ」
エドアルは夢心地で聞いていた。
家柄さえよければ、マルタンを学友にしてやってもいいのに。
外に待たせた護衛たちに連れられて帰ると、夕食はとうに終わっていた。
「ちい姫さまとリズさまはお勉強中ですよ」
リリーは簡単に夕食の支度をし、よけいなことは訊ねなかった。
エドアルは腹ぺこだった。マルタンの家の夕食は、おやつにもならない。
マルタンはいいヤツだが、あの家はケチだな、とエドアルは思った。食事ぐらいまともに出せばいいのに。