【第184回】

 

~ リュウイン篇 ~
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その18

2009.10.21

 

「こんなもの食えるか!」

「まあ! あんたのせいで、私とおばあちゃんの分が減ったのよ! 感謝して食べてよ!」

「誰もそんなこと頼んでないぞ! 私を殺す気か!」

「口に合わなかったのかい。ごめんねえ、うちにはこんなものしかなくてね」

 ゆるやかな口調で祖母が言った。にこにこと微笑んでいる。

「びっくりしたろうねえ。でも、死んだりはしないよ。みんな同じものを食べてるからね」

「そうそう。元気でピンピンしてる」

 マルタンが笑い、ファビアンはその額を軽くこづいた。

「おまえは元気よすぎるんだよ」

「まったくよ。もっと仕事増やしてもらったら? 稼ぎが増えたら、食費だって苦労しなくて済むんだから」

 イッポリートが話しているスキに、弟のヴァレリアンがその皿にスプーンを入れた。

「何すんの!」

 イッポリートは手をたたいた。

「少しぐらいいいだろ、ケチ!」

「これは、私の! あんたのはあるでしょ!」

「オレは育ちざかりだから、腹が減るんだよ」

「私だって、育ち盛りよ!」

「ウソだ! デブのくせに!」

 イッポリートは手をあげ、派手な音とともにヴァレリアンの頬に平手打ちをくらわせた。

「誰がデブだって? もういっぺん言ってごらん!」

「言ってやらぁ! デブ! デブ!」

 母が叫んだ。

「あんたたち! さっさと食べちゃいな!」

 エドアルは唖然とした。

 にぎやかなのは、食後になってもおさまらなかった。

 ストーブのそばで祖母が繕いものをし、洗いものを終えた子どもたちが周囲に集まって暖をとる。

「いつか役人になるんだ」

 マルタンは言った。

「学者より役人のほうが金が稼げるだろう」

「役人なんかなれるわけない」

 ファビアンが容赦なく断言した。

 

 

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