布巾を真ん中辺りにおき、雑に動かした。
「ちがう、ちがう」
急に年上の男がやってきて、エドアルからふきんをとりあげた。
「こうやって拭くんだ」
マルタンの兄のファビアンだった。二十歳を過ぎている。痩せてはいたが、袖からのぞく腕は筋肉でひきしまっていた。背は特別高くはない。
マルタンが料理を運んできた。
「マルの友だちか?」
ファビアンが訊ねた。
「そうだよ」
「おまえの友だちは、テーブルの拭き方もわからないんだな。どこのお坊ちゃんだ?」
「ファブも遊んでないで手伝って」
ポリーが言った。
家族中が夕食を並べ、席に着くころ、母親が帰宅した。
全員が着席してから、食事になった。
「おなかいっぱい食べてね」
マルタンの母は笑いかけたが、食卓の上にはスープが載っているだけだった。スープの中には芋とカブが転がるきり。その量たるや、日ごろのエドアルの食事の二人前ほどを、家族六人とエドアルで分けるのだった。
スープのそばには、用途不明の石ころが置かれていた。
それをマルタンたちは温かいスープに入れた。
「スープの素か?」
エドアルは訊ねた。旅の途中に使った固形スープに似ていなくもないと思ったのだ。
「何が?」
マルタンは訊ね返した。
その間、石はふやけ、スプーンでつつくと、スポンジ状の断面が見えた。
どうやら、パンだったらしい。
風邪をひいたとき食べるパン粥に似ているようでもある。
真似をして、ふやけたパンを口にした。
かび臭い。
思わず吐きだした。
「汚い!」
イッポリートがとがめた。
エドアルは目を剝いた。