【第183回】

 

~ リュウイン篇 ~
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その17

2009.10.14

 

 布巾を真ん中辺りにおき、雑に動かした。

「ちがう、ちがう」

 急に年上の男がやってきて、エドアルからふきんをとりあげた。

「こうやって拭くんだ」

 マルタンの兄のファビアンだった。二十歳を過ぎている。痩せてはいたが、袖からのぞく腕は筋肉でひきしまっていた。背は特別高くはない。

 マルタンが料理を運んできた。

「マルの友だちか?」

 ファビアンが訊ねた。

「そうだよ」

「おまえの友だちは、テーブルの拭き方もわからないんだな。どこのお坊ちゃんだ?」

「ファブも遊んでないで手伝って」

 ポリーが言った。

 家族中が夕食を並べ、席に着くころ、母親が帰宅した。

 全員が着席してから、食事になった。

「おなかいっぱい食べてね」

 マルタンの母は笑いかけたが、食卓の上にはスープが載っているだけだった。スープの中には芋とカブが転がるきり。その量たるや、日ごろのエドアルの食事の二人前ほどを、家族六人とエドアルで分けるのだった。

 スープのそばには、用途不明の石ころが置かれていた。

 それをマルタンたちは温かいスープに入れた。

「スープの素か?」

 エドアルは訊ねた。旅の途中に使った固形スープに似ていなくもないと思ったのだ。

「何が?」

 マルタンは訊ね返した。

 その間、石はふやけ、スプーンでつつくと、スポンジ状の断面が見えた。

 どうやら、パンだったらしい。

 風邪をひいたとき食べるパン粥に似ているようでもある。

 真似をして、ふやけたパンを口にした。

 かび臭い。

 思わず吐きだした。

「汚い!」

 イッポリートがとがめた。

 エドアルは目を剝いた。

 

 

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