少年が去ると、エドアルは護衛が二人目立たないよう柱の陰にいるのに気づいた。
リュウカの元へ戻る気にはなれなかった。血はまっぴらだった。
口実を探しながら護衛に近づく。
「殿下にはお部屋をご用意してございます」
護衛が先んじて言った。
エドアルが通されたのは応接室だった。安っぽい布張りのソファは堅く、テーブルは安っぽい木製で、小間使いの少年がお茶を出しただけだった。
壁の書棚には難しそうな本が並び、エドアルはただ退屈した。
夕方にリュウカがやってきた。
「遅くなりそうだから、先にお帰り」
「姉上は?」
「もう少し見てから帰る。ヒルブルーク卿と一緒にお帰り」
そこで、リュウカはエドアルの不機嫌な顔に気づいた。
「心配いらないよ。ヒルブルーク卿と一緒なら危険はあるまい」
「私が言いたいのは、そういうことではありません!」
エドアルは苛立った。
デュール・ヒルブルークなんかと一緒にいたら、先ほどの少年に会いにくいではないか!
「姉上はいつもいつも私の気持ちなんかわかってくれない! 勝手なことばかりおっしゃって!」
リュウカはひと呼吸おき、穏やかに言った。
「どうしたいのか、自分で考えて決めなさい。相談にはのるよ」
いよいよエドアルは苛立った。
「姉上は、ちっともわかろうとなさらない! いつもそうです! 国の命運よりも、人の腹を割いたり、中をいじくり回したりするほうが楽しいんですか? 姉上の趣味につきあわされている私たちのことなんかお考えにならない! 少しは周囲に気を配ったらどうなんですか! ヒプノイズにいたときだって、そうだったじゃありませんか。急にヒルブルークといなくなったり、あんな北国の蛮人と仲良くしたり、兵たちと毎日どこかへいなくなったり!」
「相談があれば来なさい」
リュウカは身を翻した。
「逃げるのですか、姉上! 卑怯です!」
しかし、リュウカは留まらなかった。
入れちがいにデュール・ヒルブルークが入ってきた。
「私が殿下をお送りいたします」