午後に案内されたのは、医学校だった。
「王都で学んだ者を教師にしているのです」
衛兵六人に前後を守られながら、デュール・ヒルブルークは説明した。
「特に優秀な者を王都に送り、学ばせた後、ここで教壇に立たせるのです」
校内をめぐる間は、デュール・ヒルブルークの独壇場だった。
設立の理念だの、運営方針だの、延々と語るさまは、エドアルにとっては自慢にしか見えなかった。
リュウカは具体的なものを見たがった。どのような教育がなされているのか、王都で学んだ者がどれぐらいいるのか、実際に話を聞きたい等々、これらの要求にデュール・ヒルブルークは返答に詰まり、学校長を呼んで応対させた。
エドアルはいい気分だったが、それまでだった。
リュウカと学校長の話は、ますます難解になったからだ。
ナントカの病を治療するには、ナントカとナントカをナントカしたものをナントカするというような話の繰り返しだった。
治療現場を見学するということになって、エドアルはホッとした。目で見れば、わけのわからない話も少しはマシになるだろう。
学校長や護衛の者たちとぞろぞろ連れだって歩き、消毒薬の強い匂いの部屋に入ったとたん、目に入ったのは、鮮血に染まったリネンだった。強い臭いと赤黒く大きな染みに、エドアルは吐き気をもよおした。
口元を両手で押さえ、部屋を飛びだした。
トイレ!
必死に目を左右に向け、飢えたように探し当て、便器に張りつくように吐いた。
血を見たことがないわけじゃない。擦りむいたり、紙で指を切ったり、日常では何度も目にする。
だが、あんなにおびただしい血を見たのは初めてだった。
情景を思い返して、エドアルはまた吐いた。
いや、初めてなんかじゃない。
狩りに行けば、獣の血にまみれた者たちを見る。大きな獲物はその場で解体するからだ。
今まで解体を見て気分が悪くなったことはなかった。
どうして、たかが多少の血を見て気分が……。
思いだして、またエドアルは吐いた。
もう胃液しか残っていなかった。酸がつんと鼻をついた。
ようやくトイレから出たものの、部屋に戻る気にはなれなかった。
廊下を誰かが通りかかった。
「そこの者!」
エドアルは声をかけた。
「水を持て」