しばらくして、デュール・ヒルブルークがリュウカに訊ねた。
「殿下の午後のご予定はいかがでしょうか」
「できることがあれば、なんでもする。皿洗いでも床磨きでも。居候の食い扶持ぐらいは稼ぎたい」
「とんでもございません!」
デュール・ヒルブルークは椅子の上で飛びあがった。
「殿下は大事なお客さまです。どうか、別荘か何かとお思いになって、おくつろぎください」
「くつろごうにも、こんな田舎じゃ」
エドアルがため息をついた。
「姉上の退屈も紛れまい。狐か鴨でも撃ちに参りましょうか」
デュール・ヒルブルークは首をふった。
「この辺りに狩り場はございません」
エドアルが見下すように笑った。
「狩りは貴族のたしなみだろう。そういえば、ヒプノイズでも、おまえは狩りについてこなかったな。まさか、狩りのやり方も知らないんじゃないだろうな」
デュール・ヒルブルークは緊張したように息を呑んだ。
「それなら都合がよい」
リュウカがさらりと言った。
「これ以上、狩られてはたまらない」
冗談ともつかない言葉に笑うのをためらったのは、エドアルばかりではなかった。リズもリリーもリュウカの顔をうかがっている。
リュウカの表情は変わらなかった。
笑いをとるつもりでなかったとすれば辛辣すぎる。
今のエドアルたちは、セージュに狩られる小鳥のようなものだし、リュウカは宰相ランベルからも狩られ通しの人生だ。
「昼前は王子殿下に幼年学校をご案内いたしました。よろしければ、この後、殿下もいかがでしょうか」
デュール・ヒルブルークはにこやかにリュウカを誘った。
たったひとり、事情を知らない。
その無邪気さは場ちがいだったが、そのことにすら気づかない純粋さは、エドアルには苛立ちを、リズには軽蔑を、リリーには関わり合いにならないようにとの願いをもたらした。
弟なのに、とリュウカは思った。なのに、なぜ、これほど遠くに感じるのか。
事情を知らないという以上に、何かがかけ離れている。
リュウカには、きょうだいというものは本当にはわからない。
エドアルもセージュに、リズもアイリーンに対して、こんな気持ちを味わっているのだろうかと、リュウカは思った。