デュール・ヒルブルークは、エドアルを案内していた。
「ずいぶん多いな」
机に向かう子どもたちの数を見て、エドアルは驚いていた。
自分たちは、十数人ほどで学んだ。だが、ここでは子どもたちを七つのレベルに分け、それぞれのレベルごとに四つから五つの教室が用意されていた。一つの教室には三十人ほどが入っている。
「こんな田舎に、よくも良家の子弟を集められたものだ」
「殿下、これらは貴族ではありません。街に住む人々の子どもです」
その言葉を飲みこむまで、エドアルには少し時間が必要だった。
「なんだって?」
「私が小さいときに、祖父がこの幼年学校を開いたのです。将来、私が大きくなったとき、祖父の代わりに私の周りを固め、補佐する者が要るだろう、と。そのためには広く人材を求め、育てなければ、と」
デュール・ヒルブルークの顔は誇らしげに輝いていた。
エドアルは意地悪な気分になった。
「その補佐する者はどこにいるんだ? 見あたらないなあ」
「祖父の死が早すぎたのです。祖父のめがねにかなう者が現れる前に、病で。しかし、このやり方は正しいと思います。これまでと同じ勉学に励めば、きっとすばらしい者たちにめぐり逢えます」
「でも、結果が出ないんじゃなあ」
昼は城にもどり、食事をとった。
リュウカが外からもどっていた。
「ヒプノイズ卿は帰ってくれたよ」
やっぱり。話し合えばわかってくれる人なのだ、とエドアルは思った。
「なにか言ってました?」
きっと何か事情があったに違いないし、自分のことも気にしていたかも知れない。
だが、リュウカは首をふった。
「宰相がよいようにはからってくれるだろう」
エドアルの胸に、たちまち不満がこみあげてきた。
「姉上は王女ですよ! 宰相なんか、たかが貴族の一人じゃありませんか! どうして、あいつが決めたことに従わなくちゃいけないんです!」
「今のところ、目的は同じだ。支障はないよ」
「目的ってなんです」
「戦争を避けたいってことでしょ」
パンをちぎりながら、リズが答えた。
「それから、アルとあたしを結婚させて、パーヴの王家の血を入れることでしょ。それでいつかセージュが弱くなったら、アルか、あたしたちの子の王位を主張するのかもね」
エドアルは目を吊りあげた。
「そんなことはさせん! 私は、あの宰相からこの国を救うために来たのだぞ!」
「逆じゃない。救ってもらってるんでしょ」
「じゃあ、あなたはなんです! あなただって同じでしょう!」
「そうよ」
リズはあっさり答えた。
「生まれたときから、私なんておじいさまの駒よ。救うなんて、できもしないこと、わめかないでちょうだい」
「できないことじゃない! みなで知恵を集めて努力すれば……」
「カルヴおじさまは、もういらっしゃらないのに? モーブおじさまも、前の王妃さまもいらっしゃらなくて、パーヴはアルの命を狙ってるセージュのものなのに?」
「ウルサと草原の国が協力すれば……」
「どうやって説得するの?」
「事情をうまく説明すれば……。とにかく、そういうことをふくめて、みんなで一生懸命考えるんです!」
リズは黙った。
静まり返った。
誰も何も言わず、食器の音だけが響いた。
イヤな空気だった。