うんざりだ、とリュウカは思った。
「退がりなさい」
リュウカは両方の兵に命じた。
「争いに来たのではないよ」
ヒプノイズに向き直る。
「単刀直入に言おう。そなたの責は問わない。宰相どのにも何も言うまい。だから、おとなしくお帰り」
ヒプノイズは、顔をしかめた。
「うまいことを言われても、容易には信じかねますな」
「もし、糾弾したければ、とうにしている」
「だが、ハモンディ伯ではなく、ヒルブルークに逃げこんだ!」
ヒプノイズの目は爛々と輝いていた。
なぜ、ヒプノイズがデュール・ヒルブルークをこれほど目の敵にするのか、リュウカには理解できなかった。
『デュールだったらこんなとき、なんて言うかしらって、よく考えるの』
リズは器用だ。自分には想像するどころか、相手が何を言いたいのかさえ理解できないらしい。
リュウカは内心自嘲した。
「信用できないなら、永遠にここに留まるがよい。異変はじきに宰相どのの耳に入ろう。そうすれば、何かしら沙汰がある」
ヒプノイズはにまぁっと笑い、ふんぞり返った。
「宰相閣下のお耳には、もう入れてある。殿下がいかにハメを外し、愛人に溺れたか。宰相殿下もさぞかし呆れられたでしょうな。愛人には厳罰が下り、殿下は私がお預かりするのです。他人に預けては、また問題をくり返すばかりですからな」
ヒプノイズの言い分には矛盾がある。ヒプノイズの屋敷でそうであるなら責を問われ、今後は他に預けられる。
リュウカに覚えのない誹謗中傷を、いかに吹きこもうとも。
「それなら心配ない」
リュウカはうなずいた。
「帰ろう」
身を翻した。
「待、待て! まだすることがあるだろう!」
リュウカは首をかしげた。
「なにが?」
「命乞いとか、泣いて謝るとか!」
ヒプノイズの慌てぶりは、リュウカにとって不可解だった。
自信がみなぎっていたのではなかったか?