【第173回】

 

〜 リュウイン篇 〜
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その7

2009.8.4

 

「つまらない話をしている場合ではない。外にはヒプノイズ卿が来ているのだろう?」

 デュール・ヒルブルークに訊ねる。

「はい。中に入れろと要求しています」

「数は?」

「一個小隊ほど。たいした数ではありません。追い返しましょうか?」

 正面きって戦えば目立つだろうし、その後のしこりともなろう。

 リュウカは内心ため息をついた。

 自分が第一にすべきことは、エドアルに恩を返すこと。エドアルを救うこと。

 そのためには、エドアルはリズと婚姻を結び、この国の力で、隣国パーヴの脅威をはねのけねばならない。

 パーヴに対抗するには、内乱などしている暇もなければ、ウルサと結ぶ機を逸してもならない。

 ヒプノイズを切り捨てることなど、いつでもできる。

 肝心なのは、ウルサから婿を迎えるまで、パーヴに気取られてはならないということだ。

「ヒプノイズに会おう」

 リュウカが言うと、広間は騒然となった。血の気の多そうなうなり声が聞こえてくる。

「叩きつぶしましょう」

 デュール・ヒルブルークは目を輝かせて身を乗りだした。

「いや、門の外で話をするだけだよ」

「ヒプノイズ卿がおとなしく話など……」

「もし、話で済まなければ、そなたたちに頼むよ」

 デュール・ヒルブルークを城内に残し、少数の護衛を従えて、リュウカは街の門を出た。

 大きな石造りの門は分厚い鉄扉で閉じられており、その横の通用口をくぐった。

 二、三十騎の兵が待ちかまえていた。

 事を荒立てまいと少数に抑えたのだろう。あるいは、急ぐために数を抑えたか。

 兵たちは、リュウカを見ると礼をした。

 少し驚いて兵の顔を見直すと、見覚えがある者ばかりだった。名前までは覚えていないが、剣の朝稽古や、ヒバ村の作業で一緒だったのだ。

 求めるまでもなく、すぐにヒプノイズの前に通された。

 リュウカに従ってきた兵たちは殺気だった。

 感じとったのか、ヒプノイズは兵たちに近寄るよう合図した。

 

 

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