「つまらない話をしている場合ではない。外にはヒプノイズ卿が来ているのだろう?」
デュール・ヒルブルークに訊ねる。
「はい。中に入れろと要求しています」
「数は?」
「一個小隊ほど。たいした数ではありません。追い返しましょうか?」
正面きって戦えば目立つだろうし、その後のしこりともなろう。
リュウカは内心ため息をついた。
自分が第一にすべきことは、エドアルに恩を返すこと。エドアルを救うこと。
そのためには、エドアルはリズと婚姻を結び、この国の力で、隣国パーヴの脅威をはねのけねばならない。
パーヴに対抗するには、内乱などしている暇もなければ、ウルサと結ぶ機を逸してもならない。
ヒプノイズを切り捨てることなど、いつでもできる。
肝心なのは、ウルサから婿を迎えるまで、パーヴに気取られてはならないということだ。
「ヒプノイズに会おう」
リュウカが言うと、広間は騒然となった。血の気の多そうなうなり声が聞こえてくる。
「叩きつぶしましょう」
デュール・ヒルブルークは目を輝かせて身を乗りだした。
「いや、門の外で話をするだけだよ」
「ヒプノイズ卿がおとなしく話など……」
「もし、話で済まなければ、そなたたちに頼むよ」
デュール・ヒルブルークを城内に残し、少数の護衛を従えて、リュウカは街の門を出た。
大きな石造りの門は分厚い鉄扉で閉じられており、その横の通用口をくぐった。
二、三十騎の兵が待ちかまえていた。
事を荒立てまいと少数に抑えたのだろう。あるいは、急ぐために数を抑えたか。
兵たちは、リュウカを見ると礼をした。
少し驚いて兵の顔を見直すと、見覚えがある者ばかりだった。名前までは覚えていないが、剣の朝稽古や、ヒバ村の作業で一緒だったのだ。
求めるまでもなく、すぐにヒプノイズの前に通された。
リュウカに従ってきた兵たちは殺気だった。
感じとったのか、ヒプノイズは兵たちに近寄るよう合図した。