そのとき、高い声が響いた。
「まあ、なんてかわいそうに!」
広間の入り口にリズが立っていた。
「誰か、その人を休ませてあげて! 熱で頭をやられちゃったのね」
ヴァンストンの顔が真っ赤になった。
「なんですと!」
「ほら、急いで! これ以上、頭がやられちゃったらたいへん! ベッドに寝かせて、くれぐれも安静にさせるのよ。外に出しちゃダメよ、外の空気は病気に悪いわ。やさしく寝かせてあげてね。ね、お姉さま」
リズが祈るように両手を合わせて、リュウカを見た。
リュウカはうなずいた。
「かわいそうに、一晩中デュールが温めてくれたのに、覚えてないのね。でも、だいじょうぶよ。休めばきっとよくなるわ」
リリーが遅れて現れた。
「リリー、たいへんよ。ヴァンストンが熱病にうなされて、おかしなことを口走ってるの! 頭がやられちゃったのかも知れないわ。急いでベッドに運んで」
ヴァンストンと聞いて、リリーの目がつり上がった。
「まあ! さっそく隔離しますわ。弱った体に、よけいな病が入ったらいけませんからね!」
ヴァンストンは兵に両腕をつかまれ、足を宙に浮かせたまま、広間から消えた。
リズがリュウカの腕をつついた。
「あんなウソツキなんか、まともに相手をしちゃダメよ、お姉さま。あの人は、自分のためなら、アルもお姉さまも売り渡す悪党じゃないの。また引っかき回されるところだったわ」
リュウカは内心苦笑した。
「そなたはまるで……」
リズはにっこり笑った。
「デュールみたいだって言いたいんでしょ? こんなとき、デュールだったらなんて言うかしらって、よく考えるの。私も大人になるんだから、一人前にならなくちゃ」
「だからと言って、あの子を真似することはなかろうに」
「あら、デュールはいいお手本だと思うわ」
「デュール・グレイ子爵のお話ですか?」
デュール・ヒルブルークがそっと訊ねた。
リズは腰に手を当て、胸を張った。
「そうよ。同じデュールでも、あなたじゃないの。愛人(ねずみ)のデュールのほう」
「やめなさい」
リュウカは止めた。
「どうして? お姉さまだって、愛人(ねずみ)はデュールだってお認めになったんでしょう?」
「やめなさい」
リズのような深窓の姫には愛人の話は不似合いだし、城主の権威を失墜させるような態度をとるものではない。