リュウカの着替えも小さかった。袖も裾も七分しかなかった。寝間着は着なかった。追っ手が着けば、着替える暇はないだろう。
寝室に所狭しと並べられたベッドの一つにリズを寝かせた。
窓から青い月の光が差していた。
リュウカはしばらく窓の外を眺めていた。
静寂の中、安らかな寝息だけが聞こえていた。
「ちい姫さま」
リリーが寝室のドアを開けた。
「戻っていらっしゃらないので、もうお休みかと思いましたわ」
「そなたも、もうお休み。疲れたろう」
ヒルブルークの街に入ってから、リリーはほとんど喋っていない。
それをリュウカは疲労のせいだと推測していた。
この街で、目立つのを恐れているのだとは想像もしなかった。
あの十六年前の夜を、誰かに思い起こされることを恐れているのだとは。
「ありがとうございます。ちい姫さまこそ、お疲れでしょう。お休みください」
リュウカはうなずき、戸口に近いベッドに腰かけた。
「リズ姫は賢いな。リリーの育て方がよかったのだな」
「とんでもありませんわ。まだまだです。もっと厳しく躾けないと」
リュウカは微笑んだ。
「デュールのことも、ありがとう」
リリーは息をとめた。
どちらのデュール?
リュウカはベッドに滑りこんだ。
リリーも隣のベッドに入った。マットレスは固く、布団は重かった。
貧しい城だ。街の華やかさと裏腹に。
慎ましく育ててくれたのだろうか、あの当主は?
厳しげな老人の顔を思いだす。
若さまを、ご立派に育ててくださって、ありがとう。