【第169回】

 

〜 リュウイン篇 〜
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その3

2009.7.8

 

「街に決まってるじゃない」

 あっけらかんとリズが答えた。

 エドアルは唖然とした。

「私たちなんてお荷物よ。おじいさまが政治の駒だと思っているから、国中転々とできるだけでしょ」

「わ、わ、私は王子ですよ!」

「じゃあ、暗殺に来る人にそう言ったら? 何の役にも立たないじゃない。王子だと唱えればご飯が湧いて出てくるわけでもあるまいし」

「私が大事じゃないんですか!」

「ほかの人にはお荷物だってことよ。自分の立場、忘れちゃダメよ」

 リュウカは感心した。

 リズはデュール・ヒルブルークに向き直った。

「でも、一番腕のたつ人をつけてね。アルはお姉さまみたいに強くないし、私たちにとっては大事な人なんだから。お姉さまは、アルを守るために帰ってきたんだから、お姉さまに尽くしたいんなら、アルを真っ先に守ってくれなくちゃダメよ」

「お任せくださいませ」

 ほどなく支度ができ、リュウカが湯浴みをすませて寝室へ行くと、リズが居室のソファで眠っていた。

「待ちくたびれて、眠ってしまわれたのですよ」

 リリーが言った。

 飾り気のない寝間着は明らかに誰かのお古だった。短い袖からリズの細い腕が貧相に伸び、首元が締まりすぎるのか、襟元のリボンが外されていた。

 それでも、豪華な寝間着を着た逃避行の合間より、寝顔はずっと無防備であどけなかった。

「寝かせてこよう」

 リュウカはリズを抱きあげた。

 

 

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