「街に決まってるじゃない」
あっけらかんとリズが答えた。
エドアルは唖然とした。
「私たちなんてお荷物よ。おじいさまが政治の駒だと思っているから、国中転々とできるだけでしょ」
「わ、わ、私は王子ですよ!」
「じゃあ、暗殺に来る人にそう言ったら? 何の役にも立たないじゃない。王子だと唱えればご飯が湧いて出てくるわけでもあるまいし」
「私が大事じゃないんですか!」
「ほかの人にはお荷物だってことよ。自分の立場、忘れちゃダメよ」
リュウカは感心した。
リズはデュール・ヒルブルークに向き直った。
「でも、一番腕のたつ人をつけてね。アルはお姉さまみたいに強くないし、私たちにとっては大事な人なんだから。お姉さまは、アルを守るために帰ってきたんだから、お姉さまに尽くしたいんなら、アルを真っ先に守ってくれなくちゃダメよ」
「お任せくださいませ」
ほどなく支度ができ、リュウカが湯浴みをすませて寝室へ行くと、リズが居室のソファで眠っていた。
「待ちくたびれて、眠ってしまわれたのですよ」
リリーが言った。
飾り気のない寝間着は明らかに誰かのお古だった。短い袖からリズの細い腕が貧相に伸び、首元が締まりすぎるのか、襟元のリボンが外されていた。
それでも、豪華な寝間着を着た逃避行の合間より、寝顔はずっと無防備であどけなかった。
「寝かせてこよう」
リュウカはリズを抱きあげた。