【第168回】

 

〜 リュウイン篇 〜
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
25章 英雄 ……その2

2009.7.1

 

 城の中に入ると、ますますその印象は深まった。

 飾り気のない薄っぺらなドア、安っぽいテーブルと椅子、分厚くて重たそうな皿。

 出された食事はといえば、道中で口にしたものより温かい、という程度だった。

「お風呂に入りたいわ」

 食事には期待しないことにして、リズは言った。

 着の身着のままで飛びだしてきたため、寝間着は埃で真っ黒だった。

「着替えもしたいし、早く寝たい」

 デュール・ヒルブルークはテーブルの呼び鈴を鳴らした。

 飛びだしてきた使用人と少し話してから、デュール・ヒルブルークは言った。

「いま少しお待ちください。支度に手間取っておりますので」

 リズはがっかりした。ここでは、食事だけではなく、何事も期待しないほうがよさそうだ。

「すまぬ。手間をかける」

 リュウカが言った。

「とんでもありません。殿下をお迎えできて、私どもこそ光栄です。なにぶん田舎なもので、至らぬことが多く、ご不自由おかけいたします」

「警護のほうは、だいじょうぶなんだろうな」

 エドアルが言った。

「街の城門は固めさせております。殿下にも衛兵をご用意しております。ご安心ください」

「お前がつくんじゃないのか? 下っ端にやらせて、ラクしようっていうのか?」

「ヒルブルーク卿はこの街の主だよ。ほかにも仕事があろう」

「それこそ下っ端にやらせればいいじゃありませんか! こんなちっぽけな田舎町と私の命と、どちらが大事なんです!」

 リュウカは唇をかんだ。

 

 

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