ヒルブルークの街は喧噪に包まれ、人や馬車をかきわけるように、一行は歩みを進めた。
エドアルは、馬車の中で小さくなっていた。
この人混みの中では、敵味方も知れず、暴漢に襲われたとしても身を守るすべはない。
「あきれた。お姉さまが守ってくれてるじゃないの」
馬車の周りは、リュウカや護衛たちが固めていた。
「誰が裏切るか、わかるものですか」
エドアルは震えながら答えた。
城にたどりついても、エドアルは足腰が立たず、リズにすがりつくようにして馬車を降りた。
汚い、というのが城の第一印象だった。
古い木造の壁は黒ずみ、床は敷石が露わになり、絨毯も壁掛けも見あたらない。
「王族に、地面を歩かせるつもりか」
エドアルは大声を張りあげた。
「申しわけございません。ただ今お持ちいたします」
馬から降りたばかりのデュール・ヒルブルークは、馬番に手綱を渡し、両手を高くあげて叩いた。
「今すぐ敷物を!」
「要らぬ」
リュウカが鞍上から言った。
「勝手に押しかけたのだ。無用な気づかいだ」
リズは辺りを見回した。
貧乏くさい。古くさい。どこがどうとは挙げられないが、落ちぶれた雰囲気だ。